製品を作り、届けるために考えるべきこと(2021版)
昨年から引き続き、何かを発信することはほとんどないまま、製品に潜る1年でした。
とはいえ、いろんなことを考えました。
滝に打たれる修行僧のように自分の思考の奥へと潜りながら(打たれたことないから適切な例えなのかは分からないけどイメージとして!)、製品作りの方法論をアップデートしています。
組織について考えることが多い時期は「組織論」をアップデートし、マーケティングについて考えることが多い時期は「マーケティング論」アップデートし……と、雑多な知識を取り入れながら組み立てている理論の、これは2021年版になります。
来年には違うことを言っているかもしれません。
でも、形にして残したいくらいにはまとまったので、年末年始のおやすみに、言語化してまとめてみようと思います。
はじめに:三角形で考える
何かを考えるときは「とりあえず三角形にしておくといい」という持論があります。
やるべきか、やらないべきか、という二元論で考えると思考が深まっていきません。
ひとつの決断をするときに、
みたいな感じで、だいたい3つくらいの視点を見つけてから考えると、いい感じで思考が深まっていきます。
3つのバランスが最良になるように考えていく。
で、さらに考えを深めていくと、この三角形モデルはこうなっていきます。
大変汚い図でごめんなさい。でも、内容のことはどうでも良いのです。
大事なのは「はじめの3点もまた、別の3点で思考が深められている」という構造です。
この構造で考えながら、思考のタワーを建てていく。
ときに視点を変えて項目を別のものに入れ替えたりしながら日々考えを深めていると、いざというときに迷わずにすみます。
考え抜くことで、日々求められる判断のリハーサルをしておくわけです。
では、本題です。
製品を作り、届けるために考えること。
そのタワーは、どのように建てるべきなのか(自分の場合の事例を)
プロダクトを支える三角構造
今のところこれがいいんじゃないかな、しっくりくるなと思ってる3つがこれです。
この3つのバランスをとりながら、製品の形を決めていく。
あくまで一例ですが、いま自分が作っているプロダクトに当てはめていくと、こういう形になります。
まずは、それぞれを深掘りしていってみます。
① ユーザー価値(ベネフィット)
自分の作ってるプロダクトってめっちゃ可愛いものです。
愛がたっぷりあるし、絶対に売れると信じて作っている。
ユーザーにとって価値のないものを作っていると思っているクリエイターなんていません。
その盲信的な考え方はプロダクトを推進させるための強さにもなります。
でももちろん、危険性もある。
そのユーザー価値は、本当にユーザー価値なの?
そうちゃんと認識される可能性があるの?
それを確かめるためには「連想ゲーム」を描いてみるのが有用です。
最近本で読んだ事例。
考えてみれば確かにこう思考をハックされている。とんでもないですね!
また別の本で読んだ事例。
時代とともに消えたインサイトに対して、別のインサイトを探し出して連想ゲームが成立するようにしているわけです。
自分が作っているのはスマホゲームなので、スマホゲームユーザーのインサイトについてよく考えます。
たとえば「感動したい」というインサイトは本当に存在するのか。
人は感動したいはず。
だから、感動できるものを作ればいい。
そう考えることができればすごくシンプルですが、そういうことじゃないんじゃないかなという気がしています。
感動はむしろ、通り過ぎたときにはじめて、実感としてやってくる。
それを求めて「新しい」コンテンツに触れ続けている人も、確かにいるでしょう。
でも、多数ではないんじゃないかと思います。
本当のインサイトは「感動したい」ではなく「もう一度あの感動がほしい」なのかもしれない。
まずはじめに欲しているのは「感動」よりも「ブランド価値」なのかもしれない。
そして、誰かと感動を「共有 / 共感したい」という気持ち。
あるいは「流行りに乗りたい」という気持ち。
最近ゲームで素敵だなと思った事例がこちらです。
これを三角構造に抽象化すると、このような形になります。
ユーザー価値はこのように
という三角形に支えられています。
ちなみに冒頭でいま自分が作っているプロダクトの事例として「ユーザー価値 = 泣けるゲーム」と書きましたが、ゲームで泣きたいというインサイトがあるかというと、怪しいなと思っています。
少なくとも手を出すきっかけにはなりにくい。
ですが「泣いたと言いたい / 共感したい」というインサイトは確実にあります。
泣ける、泣いたという言葉を使って感動を伝えるツイートはとても多いです。皆さんも何度かそう発信した経験があるのではないでしょうか。
インサイトを
・「泣きたい」と捉えるか
・「泣いたと言いたい / 共感したい」と捉えるか
では、コミュニケーションの戦略が大きく変わってきます。
インサイトを捉え間違えると大怪我をします。
何度も自問自答し、たくさんの人にヒアリングをしながら、正しいインサイトを捉えるべく思考を深めつづけることが重要です。
② 総コスト
プロダクトを作るためには
・お金
・開発力
・組織力
のそれぞれが必要です。
じゃあ幾らくらいかかるのか、どのくらいの開発力が、組織力が必要なのかを概算するとき、自分は以下について考えます。
精度の高い見積もりをするには時間がかかりますが、概算だったら一瞬で出ます。
以下、実際の規模ではなく、あくまで例ですが…
この図形の面積を計算すれば総コストが出ます。
計算しやすいように人月を100万ぴったりと仮置きしてみると
三角形の面積は「底辺×高さ÷2」だから、なんと暗算できちゃいます。
算数ってすごい!
こんなふうに人は増えていかないよ、とか、こんなリリースギリギリまで人を増やしてちゃダメじゃない? とかいろんな意見がありそうです。
でも、大丈夫。だいたいこんな感じで概算として成立します(経験上)。
ここで重要になってくるのが次の3点
またしても三角構造!
でも現場の感覚がある人なら、この3つに関してはありありとイメージできるはず。
総コストを考えるときには、この3点について一緒に考えなければなりません(お金を使うのって難しいです)
③ 制作コンセプト
まずはここまでのおさらい。
ユーザー価値という「届けたい理想の姿」に対して、総コストという「現実」がある。
この間に挟まれた中で、最適解を見出すためのアイディアが「制作コンセプト」です。
自分にとっては「日々自身に言い聞かせているおまじない」です。
この意識でプロダクトに向き合うこと = 理想と現実の間に着地点を見出すということになる、大切な判断基準。
理想を少しずつあきらめ、現実に少しずつ無理をさせるのではなく、3本目の柱として思考のタワーと支える、アイディアでありイメージ。
たとえば今回、自分のプロダクトではこんなふうに考えてみています。
たとえば、ワンダと巨像。
たとえば、ダークソウル。
たとえば、ニーアオートマタ。
大作というよりは名作と呼ばれる作品が、特に日本にはたくさんあります。
作家性が高く、感動や達成感は非常に深い。
でも、どの作品もコンパクトにまとまっている。
想像の翼を広げまくる、というよりは、深めるという思考で作られている。
一度作られたリソースは、何度も何度もしゃぶり尽くされている。
とはいえ、一点突破、超ワンオフの素材だってある。
作品にとって重要なところでは、惜しみなくコストが注ぎ込まれている。
大作より名作を。
これこそが、理想と現実の間に「最適解」を見出すための制作スタンスだと考えたのでした。
④ ブランドアイデンティティ
ここまで考えてはじめて「私たちが何を作り届けるべきなのか」を示す言葉を、図の中央に入れることができます。
せっかくなら、なるべくかっこいい言葉がいいです。
チームメンバーが作っていることを誇れること、そして、迷ったときの指針になるもの。
製品を支える3本の柱と、きちんと繋がっているもの。
それを「ブランドアイデンティティ」と呼ぶことにしました。
同時にマーケティングでは「タグライン」としてタイトル上部に付記しました。
(カラダにピース、カルピス、みたいなやつです)
ここまで考え抜くと、胸を張って物事を進めることができます。
エンタメの成功はどこまでいっても確率ですが……でも、その成功率を高めることができます。
逆に、プロジェクトを進めながら「なんだか失敗しそうな気がする」という感じだとしたら、このフォーマットに則って考えてみることをオススメします。
どこかに落とし穴があるかも……
まとめ
これまで書いてきたことを、図にまとめるとこんな感じになります。
そして、これは「戦略の軸」でもあると思っています。
変わりつづけるエンタメの世界で、人生の価値を示せるか、というのが最近のテーマです。
気づいたら30代も終わりかけていて、残りの人生も短くなってきている。
そんな中、生きてきた意味を示さなければならない。
残りの時間はたかだか20年ほど。
思考を尽くして、考え尽くして、コトに向かっていかなければ何も果たせない。
このテキストは、そんな自分の現在地点です。
ここではないどこかへ辿り着きたいと、思い続けています。
そしてこれが、誰かの目に留まり、そして誰かの役に立つのならば、それもまた幸いです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?