ユネスコ分担金保留の最大の被害者は途上国の子供たち?

ユネスコが実施している「記憶遺産」に南京大虐殺文章が登録され、その審査過程が不透明であるとして、昨年日本政府はユネスコ分担金の支払いを保留するそぶりを見せましたが、今年も記憶遺産で慰安婦問題を巡って再び保留のそぶりを見せています→産経新聞の記事

ところで、私がユニセフ本部を離れてモントリオールにいる彼女(現妻)の所で仏語を勉強することにした時、既に現職のユニセフ・マラウイとモントリオールにあるユネスコ統計研究所(UIS)から採用する意思があることを知らされていて、ユニセフのオファーレターが先に届いたのでこちらを選びましたが、業界外の友人たちにユネスコに行く可能性をほのめかしたら、少なくない人に「え、世界遺産?」と言われて当惑した経験があるので、他の国際機関から見た教育セクターにおけるユネスコの働きについてまとめてみようと思います。

ユネスコ(UNESCO)のEはEducation、SはScience、CはCultureと、この機関は主に3つの役割を持っていて、世界遺産はCの一部に過ぎません。SとCが何をしているのか知りませんが、Eは途上国の教育支援などを実施しています。具体的な教育支援の内容とそれを担当する部署・機関のアクロニムは次の通りになります↓

・教育計画支援(学力テストの実施も含む)ーIIEP

・生涯学習ーUIL

・教育におけるICTの活用ーIITE

・アフリカの教育行政の能力強化ーIICBA

・中南米における高等教育支援ーIESALC

・平和教育ーMGIEP

・教育統計の収集ーUIS (※教育とは別機関)

・教育全般(万人のための教育EFA事務局など)ーIBE

このように多岐に渡っているのですが、特に教育政策・教育経済学辺りを専攻すると、上の中でIIEPとその付属機関であるポール・ド・ダカール、UIS、IBE辺りは普通に有力な就職先の一つにあります。そして、上で挙げた部署と機関でユネスコ全体の予算の45%を占めていて、さらにそれがフィールドオフィス運営の予算も喰っているので、ユネスコのメイン事業は実は教育支援だということが分かるかと思います。つまり、日本がユネスコ分担金を保留すると、その最大の被害者は途上国の子供たちになるわけです。

ちなみに、先に出てきた世界遺産はユネスコの予算のわずか4%しかないのにここまで知名度があると言うのは、青年海外協力隊の予算が日本の技術協力予算のわずか5%程度しかないのに知名度はあるという状況に近く、組織の実態から乖離しています。

さらにちなみに、ユネスコはパレスチナ問題でアメリカからも分担金の保留という制裁を受けています。この結果、カントリーオフィスに人を置くことができず、本部が途上国政府から依頼を受けて教育支援を実施するという形を取らざるをえなくなってきています。これがどのような弊害を生み出すかというと、途上国では色んな支援機関が会議を行いどのような支援を実施するかコーディネーションをしているので(例えば、ユニセフは就学前教育、ドイツは初等教育のカリキュラム開発、世界銀行は中等教育みたいな住み分けをします)、本部からしか仕事をしていないとこの情報が手に入らず、政府の要請を受けて現地に来てみたら、既に他の機関がその支援を実施していた、みたいな感じです。

いずれにせよ、ユネスコに対する分担金の保留の被害者は途上国の子供たちになるので、ユネスコ・日本政府双方がよく話し合って、最悪の結末になるのを避けて欲しいものですね。

(ちなみに、私も今マラウイで教育省の統計能力強化支援をしていますが、これって本来ユネスコのUISが実施すべきことで、ユネスコに資金が無いからユニセフがやらざるを得ず、私のタスクが増えてしまっているので、私も分担金保留の被害者?←違)

サルタック・シクシャは、ネパールの不利な環境にある子供達にエビデンスに基づいた良質な教育を届けるために活動していて、現在は学校閉鎖中の子供達の学びを止めないよう支援を行っています。100円のサポートで1冊の本を子供達に届ける事ができます。どうぞよろしくお願いします。