憧れを捨てて、勝つことだけを考えていきたい

WBCの日本代表凄かったですね。最後、オオタニサンが大リーグを代表する大打者でありエンゼルスのチームメイトでもあるトラウトを三振にきってとったのは出来過ぎでしょと思いましたが苦笑。名場面は幾つもありましたが、個人的には大谷選手の決勝前のスピーチがとても刺さりました。日本代表のTwitterにも挙げられていた下記のものですね

憧れてしまっては超えられない。僕らは超えるために、トップになるために来たので、きょう1日だけは憧れを捨てて、勝つことだけを考えていきましょう

https://twitter.com/samuraijapan_pr/status/1638324724655886336

なぜ刺さったかというと、今の自分と日本の課題にドンピシャだったからです。今日は少し、自分が憧れていた人、日本の課題、今後自分は何をしていくかを書いてみようと思います。

憧れの人

2008年から2017年まで務めた国際機関を辞めて、ミシガン州立大学の博士課程に進学しましたが、その後半ぐらいから明確にこの人のようになりたいという憧れの人がいました。それは、Save the Childrenという世界最大手のNGOで研究部門のトップを務め、その後レゴ財団の研究部門のトップに就任したAmy Jo Dowd博士です。

彼女の存在の何が私をそこまで魅了したのかは、NGOのブログの方で詳しく解説していますが(今年の国際比較教育学の大賞論文はここが凄い!)、簡単に箇条書きにしてみます:

  • ハーバード大学で博士号を取得した後に、アカデミアでも国際機関でもなく世界最強のNGOで活躍した

  • 博士号取得後、アカデミアの人であったことは一度もないはずのに、Comparative and International Education Societyで大賞論文を取った、しかも内容が凄い

  • レゴ財団に移り、遊びを通じた学び/Learning through Playという、現在大注目を集めているグローバルな一大ムーブメントの中心にいた

彼女の活躍が眩しく見えたのは、もちろん私がNGOの設立・運営をしていて、国際比較教育分野で博士号を取得したというのもありますが、上記の点は今の日本の課題の裏返しであり、日本人の私もいつかああいう活躍をして、この国を何とかしたいと思ったからです。

日本の課題

日本の事情にそこまで詳しい訳ではないので、幾つか偏見・誤解が混じっているかもしれませんが、彼女の活躍の裏返しとしての日本の課題は以下のものが挙げられるかなと思います:

  • 博士号を取得してNGOで活躍するという道筋が無い。なんなら財団でもない。米国の主要なNGOや財団の主要ポストの中には誰かしら博士号を取得した専門家がいるものなのに、それが日本ではない(i.e., ゲイツ財団のパイパー博士とか)

  • 日本の比較教育学会は、アメリカのComparative and International Education Societyと比べると、参加者が圧倒的にアカデミアの人に偏っていて、CIESのようにNGOや財団の人が大挙して押しかけるというものではなく、実務とアカデミアの緊張関係が皆無に等しい

  • 日本のNGOや財団発のグローバルムーブメントが何もない。欧米で言われているろくでもない事をキャッチアップしているだけ

要するに、①日本のアカデミア閉鎖的過ぎ、②日本のNGOは専門家の使い方が分かって無さ過ぎ、③日本の大富豪、専門家の意見を聞かなさ過ぎ(ビルゲイツですらその分野のトップに5千万円ぐらい支払ってインプットを貰っているのに、日本の大富豪さん達・・・まあきっとビルゲイツより優秀なんだろう日本の大富豪は)、という。

日本の課題は多分途上国の子供達にとっても良くない

この日本の課題は、途上国の子供達にとっても良くないと私は考えています。

現在学びの貧困/Learning Povertyが大きな課題となっています。しかし、そもそも欧米の主要ドナー(英・米・独・仏)はどこも自国の学力水準が日本ほどは高くなく、保護者の社会経済的な背景に基づく学力格差も日本より大きいです。そんな所から出てくるアイデアなんて・・・というのがもろに反映されて、MDGsからSDGsにシフトしてSchoolingからLearningに国際教育協力のフォーカスもシフトしたにも拘らず、途上国の子供達の学力は2015年から殆ど向上していません(むしろ、新型コロナ禍の学校閉鎖で悪化した可能性すらある)。

自分の中でもまだはっきりと答えは出ていませんが、Pasi SahlbergがFinissh Lessonsの中で述べているような(Finnish Lessons 3.0)、アメリカ/アングロサクソン式のGlobal Education Reform Movement(GERM)が機能しないのではないか、より具体的に言えば世銀も押すようなEvidenceに基づいたMarket Mechanism (Choice, Accountability, and Incentive)を用いた米国式の教育政策は米国内のみならず途上国でもダメなんじゃないか?という感じです。

アメリカ国内でもほぼ似たようなものですが(Kraft, 2020)、国際教育協力でも少なくない教育プログラムは効果が出ていないですし、子供達の学力を偏差値換算で2も上げられる介入であれば大したものという程度です(Evans & Yuan, 2022)。流石に、日本の書籍とかであるような偏差値が30上がったとかいうのは、既存の研究を見てもまあまず再現性はないだろうなと思うのですが、なんぼ何でも偏差値換算で2しか効果量が無いというのは、米国と国際教育協力に対する私の疑問が疑問として成立している事を示唆しているのではないかなと思います。

GERMへのアンチテーゼが日本の教育・日本の国際教育協力なのかは疑問が残りますが、少なくともGERMを駆逐する役割は果たせるのではないかと思います。もちろん、直観的にはそんな事は無いと思いますが、日本式がGERM以上の問題児である可能性もゼロではありませんが…。

残りの人生で何をしていこうかな

さてさて、2020年にAmy Jo Dowd博士の論文を読んで、大賞受賞も知って、後を追いかけるぞと走り出した私ですが、まあ自分で言うのも何ですが自分は非凡な所があるので、Amy Jo Dowd博士が通ったSave the ChildrenのSenior Research Advisorのポスト、のオファーを2022年初頭に受けました。ここでレベル上げをして障害児研究で一大ムーブメントを起こした後に同団体内で帰国すれば、日本の課題を解決できる…はず。

なのにレベル上げも出来ないままなぜ日本に戻ってきたのかというと、まあシンプルに言えばビザ問題ですね。OPTの手続きに時間がかかり過ぎた上に、向こうが現在のH1-Bビザの倍率が高いことに気が付いて、6月にはオファーが取り消されました、Ph.D.取得の2か月前の事です。

何度目かの独身になって別に稼がなくても社会的地位が無くても良くなったし、流石にこの取り消しは痛恨過ぎて、国際協力辞める:頑張る=9:1の所まで行きましたが、内閣府のPKO事務局に国際平和協力研究員として拾ってもらって半年が過ぎ、ほんの少しですがやる気も戻ってきて(8:2)、まあ婚活なるものもやってみようかなという気も少しだけ出てきました。

そんな中、冒頭のオオタニサンの憧れてしまっては超えられないという喝を聞いて、確かにAmy Jo博士に憧れていては、彼女が成し遂げた事は超えられないよなと思いました。そこで冷静に考えてみると、彼女の後を追おうと思ったのは、以下の2点を成し遂げたいからだったなと思い至りました。

①日本の富豪にAmy Jo博士のようなちゃんとした軍師がいる財団を設立させて、Learning through Playのようなグローバルムーブメントを巻き起こさせる
②日本のNGOが学会に参加していく状況を作って、望むらくはそれが日本比較教育学会や国際開発学会に留まるのではなく、Comparative and International Education SocietyやUKFIETといった主要ドナーの主戦場に乗り込む所まで

これに加えて個人的な願望として

③博士論文で障害の重要性に気が付いたので、既存の教育経済・教育政策の知識を全て障害の観点から見直させたい(大半の教育経済学が分析したサンプルに障害児は入っていない、はず)
④博士課程の指導教官がCIESの学会誌のエディターなので、Amy Jo博士の様に大賞を取って先生にどや顔をきめたい
⑤自分のNGOを強化して、ネパールの教育をより良いものにしたい

の3つもあります。①については、PKO事務局のお仕事として何とか足がかりができないかなと考えています(先日のシンポジウムで、この件についてプレゼンしたので、ご興味のある方は是非ご一読を→リンク)。

②については、NGOの方でセミナーシリーズを展開していくので、日本のNGOの人が幅広く参加してキャパビルに繋がり、あわよくば自分のNGOと共同で研究しよう!というきっかけとなる、といった具合にならんかなと思っています(第一回は4月2日→リンク、第二回は4月8日です→リンク。どんどん開催していくので、ぜひチェックしてください)。

③もちょうど、修士の同期がモザンビークでインクルーシブ教育を展開するための団体を設立するので、連携して何かできんかなと考えています。取りあえず、4月29日に設立イベントをするので、客寄せパンダとして登壇して、世界的な障害児を取り巻く流れについて解説してきます。お時間がある方是非どうぞ→リンク

さて、④と⑤はどうしようかねといった所ですね。Amy Jo博士を超えていくためには、頑張って国際機関に戻るのか、日本で大学の先生になるのか、それともはたまた別の道が良いのか、うーん…。



サルタック・シクシャは、ネパールの不利な環境にある子供達にエビデンスに基づいた良質な教育を届けるために活動していて、現在は学校閉鎖中の子供達の学びを止めないよう支援を行っています。100円のサポートで1冊の本を子供達に届ける事ができます。どうぞよろしくお願いします。