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たった一つの図からやいのやいの言ってみるPISA2022

なんかここ数か月毎週出張に行って講義をしていて、一昨日も秋田の国際教養大学に行ってGender and Educationの授業をしてきたところですが、忙しすぎて話題に乗り遅れましたがPISA2022の結果が出ましたね。もう既に色んな人がやいのやいの言っているので、普通のことを言っても何も面白くなさそうです。というわけで、今回は報告書の中にある沢山の図表の中からたった一つの図だけ使うという縛りをかけてどこまで言えるかやってみたら楽しそうなので、そんな感じで私もやいのやいの言ってみたいと思います。

1. 独仏米よ、お前らは黙っとけ、二度と喋るな

今回使用する図は、PISA報告書の1巻の136ページにある、国民一人当たり所得と数学の成績の相関図です。基本的に国が豊かになればなるほど子供達の成績も上がっていきます。そうすると、中には豊かではないのに成績が良い凄い国、豊かなのに成績が悪いどうしようもない国も出てきます。

豊かでないのに成績が良い凄い国の代表例はベトナムです。ベトナムが凄いというのは国際教育協力では長年言われていて、What Explains Vietnam's Exceptional Performance in Education Relative to Other Countries? Analysis of the 2012, 2015, and 2018 PISA Dataといった論文もEconomics of Education Reviewという教育経済学の学術雑誌から出ているほどです。

豊かなのに成績が悪いどうしようもない国は…そうだよお前だよ、アメリカ。私が去年15年ぶりに帰国して驚いたのが、教育関係者の中にもアメリカの国際学力調査の成績は日本よりも良いと思い込んでいる人が多くて、君達ちゃんとデータを見ろよと思うとともに、日本は永遠に第二次世界大戦での敗戦を精神的に背負っていくんだろうなと思わされます。あんなに新型コロナでばたばた人が死んだ国が見習うべきまともな国なわけないじゃんね。まあそれはさておき、アメリカがエグいのは国内の格差も大きいという点です。詳しくは「日本の死角」という本の「「ハーバード式・シリコンバレー式教育」の落とし穴」という章で論じているので、ぜひ冬休みのお供に読んでみてほしいのですが、米国の教育学者が呟いていた所によるとマサチューセッツ州の学力は今回も日本などのトップ国と比類するそうです。そう、比類するのに平均がここまで低いということは、学力が低い南部諸州の成績は恐らく中進国のそれと同じぐらいだということです。南部諸州が貧しいと言っても、最貧のミシシッピですら日本よりは豊かなので、オーマイとしか言いようがないです、オーマイ。(注:実は最貧州のミシシッピの学力は米国の平均並みにまで改善しているそうです。それを解説したNYTの記事がメチャクチャ面白かったので、ぜひ読んでみてください、リンク

米国がどうしようもないのはさておき、フランスとドイツも米国と同じぐらいの成績です。アメリカよりは貧しい国々なので国の豊かさから予想されるぐらいの成績になっているものの、この二か国は途上国に対する教育支援大国です。ベトナムよりも圧倒的に豊かな国なのに、ベトナム程度の数学の成績しか残せないのであれば、一体何ができるというのでしょうか?むしろ、圧倒的に少ないリソースで同じぐらいの成果を出せているベトナムから教育のイロハを教えてもらうべき立場にあるのではないでしょうか?ここの三馬鹿トリオは国際教育協力の潮流に偉そうに口をはさむのはやめて頂けませんかね、途上国の子供達のためにも。

2. カンボジアとベトナムの比較は面白そう

私はこれまで主にアフリカと南アジアで仕事をしてきたので、東南アジアのことはよく知りません。ただ、今の職場(PKO事務局)に来てから、日本が最初にPKOを派遣した国としてカンボジアのことを色々と調べるようになりました。あと、うちのNGOの副代表がベトナムに住んでいるので、ベトナムはイオンモールがある比較的豊かな国だというのも認識しています。そして、この二か国が隣接していて戦っていたという歴史も勉強しました。

カンボジアとベトナムは、経済的な豊かさで言うと倍ぐらい違うのですが、ベトナムが高学力国家であるため、その経済的な違いからは想像がつかないほど二国間の学力格差は大きくなっています。特に、カンボジアはクメールルージュがあったとはいえ、8割ぐらいの子供が真っ当な学力を身に付けられていないようです。

君達、隣り合う国なのにどうしてこうなった?という分析は、既にあるのかもしれませんが何かとっても面白そうだな―と思います。何かいい本をご存じでしたら教えてもらえると、ダルバートぐらいご馳走させていただきます。

3. カナダ・イギリスと移民達

カナダとイギリスはどちらもコモンウェルスの国という共通点があり、豊かさのレベルも学力水準も似たような位置にあるという共通点も持っていますが、前回今回とPISAである興味深い結果を叩き出した国という共通点もあります。

それは何かというと、移民の子供と非移民の子供の成績に遜色が無いという共通点です。例えば、日本で6番目に多い外国人はネパール人ですが、ネパール人の子供達が日本人の子供達と同じ成績を残したとすると…超驚きですよね。今ちょうど「厨房で見る夢 在日ネパール人コックと家族の悲哀と希望」という本を読んでいるのですが、むしろネパール人の子供の教育問題は深刻で、日本人の子供達と同じ成績を残すなんて無理無理無理のかたつむり状態なので、このカナダとイギリスの結果は驚きももの木20世紀です。移民が増えている&増やさないと立ちいかないであろう日本は何か学べるところがあるかもしれません。

ただ、私も詳しくは見ていないのでわかりませんが、もしこれがコモンウェルスからの移民が圧倒的多数で、文化・言語的に障害が低い移民の子供が圧倒的多数であるのなら、確かに第二次大戦で負けてコモンウェルスの形成に失敗した日本にはあまり参考にならない結果かもしれません。この辺り、日本の教育課題として移民の子供の教育は大きなトピックなので、詳細な分析をして確かめる価値は全然あるのかなと思います。特にイギリスの大学院へは日本人も多く留学しているので、ぜひこの点見てきてほしいなと思います。帰国した時に見てきたことを教えてくれたらダルバートぐらいはご馳走します。

しかし、仮に英・加の移民の子供の圧倒的多数がコモンウェルスからであったとしても、これらの国々から学ぶべき国があります。それは…お前だ、フランス。英語圏アフリカと比べて仏語圏アフリカにテロや貧困が蔓延っているのもそうだけど、なぜイギリスにできる事を君は出来ないのだね。その癖にユネスコやOECDのような教育を扱う機関をホストしてデカい顔をしているのは…顔を洗って出直してきたまえ。

4. 今こそ世界はフィンランドから学ぶべき

フィンランドはかつて、高学力国として世界中から注目されていました。しかし、年々学力を落としていき、今では極めて平均的な学力で、しかもそれは国の豊かさから予想される範囲内、という超平凡国家になりました。フィンランドと言えば、私と同い年のサンナ・マリンさんが2019年から2023年まで首相を務め、主要閣僚を女性が占めたことでも話題となりましたが、フィンランドの長期的な学力低下というトレンドを止めることが出来ず、話題先行で終わってしまった残念感があります。

もうそんな平凡な国ほかっておけよという人も多いと思いますが、私は今こそフィンランドから学ぶべきことは多いと考えています。

フィンランドの学力低下は随分前から内部の人に指摘されていて、著名な人物としてPasi Sahlbergが挙げられると思います。彼は、フィンランドの学校の先生だったのですが、大学院を出て行政へと移り、その後は世銀で働いたりとグローバルな活躍をしています。彼は高学力時代だったフィンランドの秘訣をFinnish Lessonsという本としてまとめましたが、その続編では、フィンランドがGlobal Education Reform Movement (GERM)に侵され始めた点を指摘し、フィンランドの凋落の兆候に言及していました。

GERM(病原菌)とは上手く言ったものだなと思いますが、日本の教育政策を見ても、特定の政党はGERMの特徴を持った教育政策を導入しようとしていますし、私もその政党が政権を担ったら日本の教育は多分終わるなと思っています(小さな政府志向なのに、教育無償化のような大きな政府が取る政策を掲げている矛盾もずっと気になっています)。GERMに罹患したフィンランドが如何にして転げ落ちていったか、反面教師としてそのプロセスを詳しく理解することは大いに意味があると思います。良いとされる所から学ぼうとするのは誰でもできますが、ダメになった所から学ぼうとするのは、その重要性に比してやろうとする人が少なすぎます。今こそ世界は反面教師としてフィンランドに注目すべきなのです。

5. 天然資源による偽りの豊かさの見つけ方

なぜこの図を二次で近似させたのかよく分かりませんが、外れ値群を除けば一時近似でもかなり綺麗なものになりそうな感じがあります。さてその外れ値群にはどのような国が入っているのか眺めてみると、カタール・ブルネイ・アラブ首長国連邦・サウジアラビア、とある特徴に気が付くはずです。

君達、産油国だね!天然資源が豊富に取れる国では、国内の富が爆上がりする一方で、その恩恵は庶民に行き渡らず、国民一人当たり所得と国民の実質的な生活水準が乖離して、平均値と中央値と最頻値が無茶苦茶なことになるのは有名ですが、産油国はやはりそうなるんだなというのが如実に表れているデータだと思います。公衆衛生系でも似たようなことが出来そうだし、人的資本論の真逆を言っていますが、国民の平均学力からその国の平均的な生活を知ることが出来そうです。

恐らく、サウジアラビアの平均的な国民の生活水準はメキシコとかタイとか中進国と同じぐらいで、カタールやUAEはチリとかブルガリアとか新興のOECDぐらいで、ブルネイは一度行ってみたい国。


…日本について何かないのかだって?国民一人当たり所得が東欧と同じぐらいの貧しい国だったんだね、つらたん(涙)

サルタック・シクシャは、ネパールの不利な環境にある子供達にエビデンスに基づいた良質な教育を届けるために活動していて、現在は学校閉鎖中の子供達の学びを止めないよう支援を行っています。100円のサポートで1冊の本を子供達に届ける事ができます。どうぞよろしくお願いします。