国際協力のキャリアを歩むうえで若かりし頃の自分にちゃんと考えて欲しかったこと

日本人の国連職員の方が、国際協力のキャリア相談に乗るとTwitterで呟かれていて面白そうだったので、若かりし頃の自分にちゃんと考えて欲しかったことをまとめてみました。下記の5点を20代前半の大学院に行く前にしっかり考えておけば、きっと立派な援助ワーカーになっていたと思います。

① ジェネラリストとスペシャリスト

現在私はP3レベルの教育スペシャリストで、このまま順調にいくとPhDを取得してきた後にはP4レベルで戻ってくることになります。UNDPのようにレベルインフレが起こっているところはさておき、一般的な国連機関だとP4になるとDeputy RepresentativeからRepresentativeを目指すマネージメントコース(ジェネラリスト)か、Chief of EducationからRegional AdvisorやSenior Advisorを目指すスペシャリストコースかの分岐点に差し掛かってきます。

私は博士課程にいる間に今後の身の振り方をよく考えるつもりですが、若いころから考えておけばよかったなと思うのは、1)スペシャリストとジェネラリストを決断する決め手になるのはどういった要素か、2)事前にこの分岐点を明確に意識出来ていたとして、それぞれの道に行くうえで大学院・ジュニアレベルの間にどのような準備をしておくべきか、の2点です。

② 本部勤務と現場勤務

多くの国際機関では本部と現場の連携が上手く行っていません。その原因の一つが、本部や地域事務所勤務の人の中にそれなりの割合で現場勤務を経験したことがない人が混じっているので、現場のニーズを汲み取りきれず、官僚的なプロセスをただ無駄に増やしてしまう人がいる一方で、カントリーオフィスの人材は本部や地域事務所の経験がない人が大半なので、大きな開発援助の流れが見えていない人が多い、という点にあると思います。

私はなんとなーくで、世銀本部→ユニセフ現場→本部→現場と本部と現場の往復をしてきたのですが、若い頃に考えておけばよかったなと思うのは、1)現場勤務と本部勤務のベストミックスはどの辺りにあるか、2)そのベストミックスを実現するために、どのような準備をしておくべきか、の2点です。

③ 一つの機関に長く勤めることと多様な経験を積むこと

国際機関(マルチ)のカントリーオフィス(現場)でのお金の流れは、とても大まかにいうとこのような感じになっています : 一般予算(国連本部から来るもの)+その他予算(大使館などにプロポーザルを提出&寄付金)→ 相手国政府やJICAなどの二国間援助機関(バイ)と協議→NGOにお金を流してプロジェクトを実施してもらう

この流れを見ると分かるのですが、いわゆるデキる援助ワーカーというのは、a.プロポーザルを書くのが上手い、b.バイやマルチとの協議が上手い、c.NGOやコンサルタントをうまく使いこなせる、という3要素を持っているはずです。

a.については、もちろん作文が上手な人というのもいるのですが、採点基準を知っている、すなわち大使館での勤務経験がある人がとびぬけて強い印象があります。b.も、もちろん議論が上手い人というのもいるのですが、議論の相手がどのような考え方をするのか理解している、すなわちバイの経験がある人が強いです。c.も同様にNGOでの勤務経験がある人が強いです。実際にここマラウイでも超人的にできる人がいるのですが、その方はSave the Children・ユニセフ・大使館・バイそれぞれでの勤務経験があります。とは言え、一つの機関で長く勤務する方が昇進が速そうですし、内部でのネットワークができるのでジョブセキュリティも増すし、仕事を進めて行くうえでの内部政治にも強くなるものです。

私は世界銀行とユニセフでの勤務経験しかないのでわからないのですが、1) ジュニアレベルの間にどの機関でどれだけ積むべきか、2)ジョブホッピングをするコツは何か&そのために院生時代から準備できることは何か、3)究極的には一つの機関に長く勤務するのと多様な機関での勤務経験を持つことのどちらが良いのか、は若かりし頃の自分に真面目に考えて欲しかったなと思います。

④ 緊急支援と開発支援

シリア・イエメン・アフガニスタン・ソマリア・中央アフリカ・東部ウクライナ・北部ナイジェリア…、現在世界は歴史上最大規模の緊急支援が必要とされています。これに伴い、国際協力に占める緊急支援の割合も増加しています。

ただし、国際協力の中でも緊急支援と開発支援はキャリアパスがやや異なっているのが現状です。例えば私の場合は、教育部門の中でもResearch・Evaluation・Statistics/Data・Capacity building・Budget Analysis・Planning辺りを専門にしていて、中長期的に質の高い教育が平等に行き渡るための支援なので、一刻を争って物資を届けなければならない緊急支援に行くと、「遅いぞ、バカヤロー」と怒られるような仕事ばかりしています。自分でも緊急支援へ行ったら役立たずになるのは目に見えています…。実際に人事が明確にしている、国連スタッフに求められるコンピテンシーの一覧を見ても、開発支援のどの分野にも存在していないのに緊急支援にだけ求められているコンピテンシーがあり、その代表格がWork under pressureです(苦笑)。   

とは言え、近年言われているのが、緊急支援から開発支援へのスムーズな移行であり、緊急支援も開発支援もどちらもできる人材が求められていると言えます。

そこで若い頃の自分に考えて欲しかったのは、1)国際協力最初の第一歩は緊急支援か開発支援かどちらに行くべきか、2)緊急支援と開発支援を行き来できる人材になるためには学生時代からどのような準備をすればよいか、という点ですね。まあ今からでも遅くないから緊急支援の現場を経験してこいやという話ではあるのですが…。

⑤ 地域特化とグローバル

国際機関には様々な人材がいます。例えば教育を専門にしている人、保健を専門にしている人、法整備支援を専門としている人…。その中でも地域の専門性を武器に活躍している人たちもいます。特にMiddle East and North Africaで活躍するアラビストや、East Europe and Central Asiaで活躍する…ネーミングがあるのかはよく知りませんが、そういった人たちです。

そこで、1)地域特化すべきなのか、国をグローバルに幅広くカバーすべきなのか、2)特化すべきだとしてそれはどこか、という2点は若い頃に真面目に考えておいてほしかったなと思います。


お前上記の点を考えた事すらなかったのかというツッコミを受けそうですが、大学時代はインターン0・海外経験0・必修の英語を不可るという意識低い系の学生でしたし、神戸大の国際協力研究科へ進学して世界銀行のコンサルタントになったのも、感銘を受けた大学の先生にそうすると良いとアドバイスされて従っただけですし、そこから先は退学・結婚・離婚によって、世銀の職員になったり、ユニセフに移ったり、大西洋を反復横跳びしたという酷いキャリアを歩んでいるので、上の5点を真剣に考えたことがなかったんですよね、もはやJPOも卒業して名実ともにミッドキャリアに入って今さら考えてもどうしようもないことですし。。。

そういえば、この前ケニア人のオフィスメイトと、別の国のユニセフオフィスにいらっしゃる私より7歳上の日本人の方の話をしていて、私が「あの人めっちゃ優秀だから、あの人がどこかの教育チーフになったらその下で働いて勉強したいんだよね」と言ったら、「ファ!?お前、あの人より年上やろ、何を言ってるんや???」という返事を頂きました。まあ、名実以上に貫録の方がミッドキャリアになっているようです。。。

サルタック・シクシャは、ネパールの不利な環境にある子供達にエビデンスに基づいた良質な教育を届けるために活動していて、現在は学校閉鎖中の子供達の学びを止めないよう支援を行っています。100円のサポートで1冊の本を子供達に届ける事ができます。どうぞよろしくお願いします。