「民主主義」が死んだ国アメリカ・育たなかった国日本

良い記事を読みました。

「いい加減な方法」の候補者選び 米大統領選、なぜ複雑

私の書いた記事を読まれたことがある方なら、米国の教育システムは、基本的にその地域の固定資産税を財源とし、州政府や連邦政府からの支援を受けないもので、裕福な地域は固定資産税が沢山集まるので良い教育が、貧しい地域では固定資産税が集まらないので教育の質が低い、という大変不平等なシステムであることを理解していると思います(例えば、日本人が大好きな「ハーバード式・シリコンバレー式教育」の歪みと闇)。

米国の教育システムのもう一つの特徴は、教育委員会を選挙で選ぶものの、政党の影響が出ないようにその選挙は奇数年の春に行われるのが通例となっている点です(補足:大統領選挙が今年2020年の秋に行われるように、米国での大きな選挙は基本的に偶数年の秋に行われることになっています)。

この教育委員会公選制と固定資産税に基づく教育予算の二つを合わせると、「州政府や連邦政府からのお金ではなく、自分達で賄ったお金の使い道を自分達で話し合って決める」

という米国の教育システムの在り方が浮かび上がります。これを踏まえた上で冒頭に紹介した記事の党員集会に関する記述を読むと、ああなるほど、米国の教育システムは党員集会の様子に繋がる民主主義の学校なんだな、と理解してもらえると思います。

つまり、教育システムというのは民主主義のゆりかごである事が目的であり、教育を通じた格差の是正や人的資本の蓄積というのは主目的ではなかったので、あのような教育システムであったという事なのです。それが良く実感できる良い記事ですよね。

しかし記事中にあるように、主流は予備選挙方式に移りつつあります。また、1983年にA Nation at Riskが出版されて以降、日本との貿易戦争に負けないために人的資本の蓄積が教育の主目的となりました。このように環境が激変し、もはや教育に民主主義の学校である事が求められなくなったが故に、単なる不平等な教育システムへと堕してしまった、というのが米国の現状です。

なぜ、あのオバマ大統領でさえ教育政策が迷走したのかというと、その一因には、この「民主主義が死んだ」後の教育システムをどうすれば良いのか、米国人の間で共通理解が無くどうして良いのか誰も分かっていない、という点が挙げられます。前回の記事で、米国の教育政策・教育経済学がやっているのは、運ばれてきた重体の患者の小指の爪を治療しているようなものかもしれない、と私が言及したことも、この背景を実感してもらえると、なるほどなーと思ってもらえるのではないでしょうか。まずは、民主主義が死んだ後の教育システムの全体像をどうするのか決めない事には、全ての教育政策は小手先のものに過ぎなくなってしまいます。

畠山はどう考えるんだと思われるかもしれませんが、日本式のシステムにするしかないんじゃないかなと思いますが、政治環境的にこれは絶対に実現しないので、正直どうすれば良いのか私も皆目見当が付きません(注:オバマ政権はその末期に、もう連邦政府はむやみやたらと教育に介入しませんと反省文を書かされたので、中央からの介入を強めることは事実上不可能となっています。そして、それに悪乗りしたのがトランプ大統領&デボワ教育長官です)

ここであれ?、と思った人もいるのではないでしょうか?

そうです、日本の教育システムは、民主主義の学校の対極にある教育制度なのです。昔は教育予算の半分は国から来ていましたし、残りの多くも都道府県から来ていました。そして、教育委員会は首長による任命です(敗戦後、米国の教育制度が輸入されたので、かつては公選制でしたが、これをかなり早い段階で廃止しました)。確かにPTA制度はありますが、日本の教育システムは基本的には、自分達で賄ったお金の使い道を自分達で話し合って決める民主主義の学校、の対極にあります。

教育システムを通じて民主主義を育てる事を放棄したが故に米国よりも圧倒的に平等な教育システムを作り上げられたことが良かったのか悪かったのか、私には分かりません。塾などを通じて、教育システムの外側から不平等さが強くもたらされ過ぎていて、教育システムでは如何ともし難いのであれば、最初から平等性を確保することを諦めて民主主義の学校にしても良かったのではないかと思う一方、そもそも日本には自分達で賄ったお金の使い道を自分達で話し合って決める文化など根付くわけがなかったのであれば、今の平等を志向する教育システムで良いわけなので、どちらが良かったのかは私にはよく分からないんですよね。この辺り、是非一度、優秀な政治学者の方に話を伺ってみたいものです。

サルタック・シクシャは、ネパールの不利な環境にある子供達にエビデンスに基づいた良質な教育を届けるために活動していて、現在は学校閉鎖中の子供達の学びを止めないよう支援を行っています。100円のサポートで1冊の本を子供達に届ける事ができます。どうぞよろしくお願いします。