ユニセフにひどく失望した件

博士資格審査試験の直前なので手短に、ユニセフにひどく失望しました。

ユニセフの教育部門の大きな方向性として、少し前にGeneration Unlimitedという物が出てきました→リンク

内容を要約すると、10-24歳の若者を対象とした、教育・研修・職業教育を重視し、ユースにスキルをつけて、ユースが持つ可能性をフルに生かせるようにしようというイニシアティブです。

このイニシアティブはユニセフ内で大きな影響力を持つようになってきていて、実際にJPOの募集でもスキル・中等教育分野を対象とした空席がGeneration Unlimited特別版として追加で大量に出ました→リンク。特別版でない方のユニセフの教育部門のJPOの募集(リンク)と比較すると一目瞭然ですが、空席の数は圧倒的に基礎教育よりもユース部門の方が多くなっています。JPO募集の締め切りは明日に迫っていますが、この流れを鑑みると、教育部門で今年のJPOに出願する場合、基礎教育分野で勝負をかけると大分厳しい事になるので、ライフロングラーニング・スキルといった部門で出願書類を整えていくと勝ち目がぐんと上がるでしょう。

なぜ、Generation Unlimitedが残念過ぎるのか簡潔に解説します。

①ユニセフの教育支援を必要としているような国は、まだまだ小学校を卒業できない子供が多く、中学校に行ける子は圧倒的に富裕層出身です。ユニセフは最もmarginalizedな子供にこそ支援を届ける機関ですが、その支援のフォーカスを幼児・初等教育から中等教育へシフトさせてしまうと、比較的裕福な子供の支援をする一方で、支援を必要としている子供達を見捨てることになります。

②ユニセフの教育支援を必要といているような国は、まだまだ初等教育システムが脆弱で、小学校を卒業しても読み書きがちゃんとできない子供が少なくない割合で出てきます。日本でも、高校までの教育の積み残しを大学に押し付けられても困るという話はしばしば聞きますが、途上国でも同様で、小学校が激しく積み残しを出している状況で、それを中学校で対応することなど不可能です。中等教育支援の前に必要なのは、初等教育から積み残しが出ないように、初等教育の質改善・教育システムの強化を支援することです。

③ユニセフは、子供の最初の1000日の支援が重要だと繰り返し訴え、それを実行してきたように、ユニセフが他の機関に対して比較優位を持っているのは、幼児教育や小学校の低学年の支援です。中等教育以降については比較優位が全くなく、職業訓練を実施しているILOや、少女に焦点を当てているUNFPA、歴史的に職業教育を重視してきた世界銀行が圧倒的優位を持っています。なぜ、ユニセフは比較優位を持つ分野ではなく、他の機関が圧倒的に強みを持つ分野にわざわざ殴り込んでいくのか?

④世界銀行も、時を同じくしてLearning Poverty(リンク)という新たな方向性を打ち出しました。これは、全ての子供が10歳になるまでに読み書きが出来るようにしなければならないというものです。当然の帰結として、幼児教育や小学校の低学年にフォーカスしつつ、「全ての」子供が対象となるので、リテラシーを身に付けられないリスクが高い貧困層の子供に注力しなければならないですし、障害児もそうなるようインクルーシブな教育システムを目指していくことになります。

そうです、それって本来ユニセフが目指さなければならないものですよね。なぜ世界銀行がユニセフが目指すべきものを目指して、ユニセフが伝統的に世界銀行が強かった分野に乗り出しているのか?これ以上のあべこべなんてこの世に存在するのか?、というレベルです。

博士号を取得出来たら、イギリスのアカポス・ドバイ/シンガポール/ケープタウンのアカポス・ユニセフ復帰を考えていましたが、このGeneration UnlimitedとLearning Povertyのどちらがよりmarginalizedな子供に貢献できるのかを考えると、復帰すべき先はユニセフではなく世界銀行だろうなと思いを変えました。

おーい、ユニセフよ、目を覚ますんだ。我々が踏ん張らなければならないその理由は、marginalizedな子供でも、その権利が実現できるようするためであって、Generation Unlimitedはそこから遠くかけ離れたものだぞーだぞーだぞー(呼びかけは虚空に響き渡った)

サルタック・シクシャは、ネパールの不利な環境にある子供達にエビデンスに基づいた良質な教育を届けるために活動していて、現在は学校閉鎖中の子供達の学びを止めないよう支援を行っています。100円のサポートで1冊の本を子供達に届ける事ができます。どうぞよろしくお願いします。