アフガニスタンで女の子達が学校へ行けなくなったのは遠い国の話ではなく、この記事を読んでいるあなたにも責任があるんだぞ、という話

タリバンがダメダメな理由

アフガニスタンでは既に、女子の中等教育へのアクセスが停止されてしまっていましたが、ついに高等教育へのアクセスまで停止されてしまいました(ニュース)。まだ中等教育の停止は許容範囲内でしたが、高等教育の方は超えてはいけない一線を越えた感じがあります。

一つ目の理由ですが、国際教育協力では中等教育の空洞化などと言われたりしますが、ドナーの支援も初等教育か高等教育へ行きがちで、その中間である中等教育はおざなりにされたりします。ただこれは、経済成長や貧困削減の観点からみると実は大きく間違っているわけでもなくて、世銀が出したペーパーを読むと、中等教育への教育投資収益率は、初等教育や高等教育のそれの半分以下だったりします。つまり、

・初等教育は比較的誰でも行けるし収益率も高い→貧困削減効果
・中等教育は誰でも行けるわけでもないし収益率もそこそこ→?
・高等教育は富裕層しか行けないけど収益率は高い→経済成長効果(ただし、格差拡大という負の効果付き)

というわけなので、中等教育はまだしも、女子の高等教育へのアクセスまでもが閉ざされてしまうと、女性は人口の半分を占めるわけなので、言わば片翼のエンジンをぶっ壊した状態で、経済成長という飛行機を飛ばさなければならないようなものです。これがムリゲーなのは、大学院で女性は男性の半分もいないし、旧帝大で女子学生は1/3もいないうえに、もう30年以上も経済が停滞している日本の人なら感覚的にもわかる話だと思います。なあそうだろ?

二つ目の理由は、今回の措置はタリバンが望む社会の実現すら不可能にするからです。タリバンが望む社会というのは、女性が健康に問題があった時は女医さんに診てもらえて、女子は女子校で女性教員に教えてもらうという社会です。まあこの部分の是非は置いとくとして、女性が大学に行けなくなったら誰が女医さんになるんですか?誰が女性教員になるんですか?、という深刻な課題が浮上します。

しかも、この問題は女性の間だけに留まるような生易しいものではなく、男子・男性にまで悪影響が出るのですが、タリバンそこ分かっているんですかね?

例えば、妊娠出産は日本では比較的安全なものですが、女性が適切な医療を受けられないとこれがかなり危険な行為になります。2000年頃のアフガニスタンでは出産の際に100人に1.5人の母親は亡くなっていました。残された子供に男子がいたら、その子も大変な事になりますよね。さらに言えば、乳幼児も10人に1人は死んでいました、当然その中には男子も含まれるはずです。しかし、アフガニスタンはこの20年間で妊産婦死亡率も乳幼児死亡率も半減させてきました。女子を大学に行けなくすることで、女医の育成も止まるわけで、この20年間の努力を水泡に帰すんですかという。

また、女性教員の育成が止まると、女子向けの女子校も運営できなくなります。なぜか父親の教育水準は関係ないのに、母親の教育水準だけは子供の教育に大きな影響があります。母親の教育水準が下がったら、アフガニスタンの未来を支える男子の学力も下がって、国や社会の発展にも悪影響がでるのは必至ですが、それでええんですかという。

女子の高等教育へのアクセスを止めるのは、男性社会にとっても自殺行為なんですけど、それ理解していますか?というのがタリバンがダメダメな理由。

国連がダメダメな理由

とは言え、途上国がなぜ途上国なのか考えれば、まともな政府が存在しているのを期待するのがそもそもの間違いとも言えます。であれば、それを支えるべき国連はいったい何をしていたんだ!、という話になります。

女子を大学に行かせなくするのは急に湧いて出るような話ではなく、中等教育へのアクセスが停止になった段階で予想できた話です。そうであれば、現地にいる教育分野の国連職員は、日ごろからその動きに釘を刺し続けるのが重要な仕事としてあったはずです。当然ですが、女子教育を止めようとしている相手に、女子教育について会議しませんかと誘っても来てくれるわけがありません、そんなのは誰だってわかる話です。

どうするかと言うと、例えば「出張者が美味しいお茶をお土産で持ってきてくれたんですけど、お茶しません?」とかどうでもいい理由をつけてちょくちょく関係者と顔を合わせる機会を持って、ワールドカップで優勝するのはどこだとか家族は元気かとかどうでもいい話を続けて、機会をうかがい続けるしかないんですよね。事前に女子高等教育の収益率の推計や女医や女性教員を養成出来ないことの影響の推計(学術的に厳密なものではなく、全然適当かつラフなもので大丈夫)をして1Pの資料を作っておいて、信頼関係ができて偶然女子教育に話題が及んだ時に、「そういえば、俺こんな資料作ってたんだけど、ちょっと読んでみる?」といった感じで始まるのが政策対話なわけで、出張で先進国のどこかからビューンと飛んできて、エビデンスを突き付けてなんてものではないんですよ。

そういった事が不十分だったから今回アフガニスタンでここまで事態が悪化してしまったわけで、任に当たっていた国連職員の失態だと思います。ただ、私も二度も離婚をしているように、人間は誰しも失敗をしてしまう生き物です。問題は、失態を犯した時に挽回できるかどうかです。

しかし、国連はここでさらに致命的なミスを重ねたように見えます。まず、国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)はタリバン政権の今回の決定に対して非難声明を発表しました。UN Womenの代表のぞっとする(appalling)という強い表現を用いた非難声明を発表しました。

しかし、相手に強い非難を投げつければ、話し合いに応じてくれると考えるのは余りにもクレイジー過ぎます。現地にいる国連職員が何とか解決の糸口を見つけるために関係者と話す機会を作ろうとしても、こういった強い非難をみなが投げつける事でその機会が消滅してしまうなんてのは全然あり得る話です。もう打つ手が何もない状態に陥ってから非難声明を投げつけるのならまだしも、タリバン政権の決定から非難声明まであまりにも時間が短く、現地の国連職員が動ける時間は殆ど無かったはずです。相手を強い言葉で非難して悦に浸るのはインターネットの活動家がする事で、国連がなすべきは粘り強い対話だったのではないかと私は思います。

この記事を読んでいるあなたがダメな理由

国連がどうしようもない失態を重ねて、アフガニスタンの女の子達が学校に行けなくなったのは、もちろんタリバンも悪いし、国連も悪いのですが、PCか携帯電話の向こう側で呑気にこの記事を読んでいるあなたにも全く咎が無いわけではありません。

今回なぜ国連の上の方が、現地にいる職員を信頼して政策対話の道を模索するのではなく、ネット評論家みたいなムーブをかましてしまったのでしょうか?

前述のようにもう打つ手がない、ないしは現地にいる国連職員が無能で政策対話の可能性が無い、という状況は一つの可能性としてあり得ます。ただ、安西先生は「諦めたらそこで試合終了ですよ」と言っていた気がします。

であると、国連にお金を出している先進国の意図を忖度したんだろうなと、私は思います(ないしは国連の上の方が、先進国のそういう思想に染まってしまった)。国連が資金不足に陥っているのは、折角博士号を取得したのにポストが無くて帰国した私の存在が象徴的かもしれませんが、例えばUNOCHAが国連が発表した緊急支援に関するデータを公表していますが(こちら)、必要な資金の半分程度しか集まっていないことからも良くわかります。

そんな状況なので、現場で働いたことがある国連職員の人なら分かる話ですが、ドナー国に札束で頬っぺたをペチペチされたら、組織のミッションと余りそぐわない様なプロジェクトでも実施せざるを得ない感じになっています。国連機関に十分な資金があって現地の方を向いて仕事ができていれば、あんなインターネット活動家みたいなムーブをするのは相当な悪手だと分かりそうなものですが、資金が無く現地ではなくドナーの方を向いて仕事をしているのであれば、ああいうムーブになってしまうのもむべなるかなと、私は感じました。

さらに言えば、ドナー国もまともであれば、国連がああいう悪手を打った時、これを窘め、粘り強い交渉をするように求めていたはずです。しかし現実は、ドナー国自身もネット活動家みないな事になっているから、国連もそれを忖度or染まってしまうわけです。では、なぜドナー国がそんな体たらくなのかというと、それは先進国の皆様の投票によって選ばれた政府がそうだからとしか言いようがありません。

アフガニスタンで女の子達が学校に行けなくなったのは、皆様の一票→ドナー国政府→国連→政策対話の大失敗、というたったの3ステップで繋がった現象であり、決して遠い国の話なんかではなく、この記事を読んでいるあなたの責任は極めて小さいとしても、それは絶対にゼロではないと私は思います。

私もだめよーダメダメ

途上国の教育政策支援と女子教育を専門にしていて、10年以上に渡って二つの国際機関で本部と現場のどちらも経験して、教育政策で博士号も取得した私が任に当たっていれば、もう少しなんとかしようがあったのではないかと思ってしまいます、というか絶対できたと思います。

しかし現実は、アフガニスタンの空の下どころか、アフリカや南アジアでもなく、15年ぶりに引き戻された東京で国際教育協力とはあまり関係のない仕事をしていて、リクルートやマイナビといった転職サイトから送られてくるメールを読んでは、国連でしてきたような心が躍るような仕事は国内にはなかなか無いもんだなと、ため息をつきながらメールを消去する毎日を送っています。久しぶりに会う旧友たちには、最近どうなん、日本ではアプリを使って婚活するんやでとも言われますが、この現状でそんな気持ちにもなれるわけもなく。

そんな有様なので、アフガニスタンの女子教育の状況を聞いても、特に憤ることも無く実はほーんと思って聞き流してしまっている自分がいて、国連よりも何よりも今の私が一番ダメなのかもしれないですね。

サルタック・シクシャは、ネパールの不利な環境にある子供達にエビデンスに基づいた良質な教育を届けるために活動していて、現在は学校閉鎖中の子供達の学びを止めないよう支援を行っています。100円のサポートで1冊の本を子供達に届ける事ができます。どうぞよろしくお願いします。