天才詐欺師バーニーサンダースを担ぐ恥知らずと騙されるアホ

博論の資格審査が控えているので手短に。これはあれですね、期末試験直前になると部屋の掃除をしたくなる感覚と同じですね。

今年は米国の大統領選挙の年で、誰が大統領になるかで私の進路も大きく左右されるので固唾を飲んで見守っています。現在は民主党候補者選びのスーパーチューズデーの直前ですが、誰がトランプ大統領のクビを取ってくれるのか私も注目しています。

有力候補の一人が日本でも知名度の高い、バーニー・サンダース氏ですが、もちろん私は政治学の専攻ではないので彼の全体像は分かりませんが、彼の掲げる教育政策を見ると、ムチャクチャ酷い、というか完全に詐欺師です。日本にも彼に似た詐欺師的な政治家がいるので、なぜバーニーサンダースは天才詐欺師なのか、ほんの少しだけ解説してみようと思います。


まず、サンダース氏が掲げる教育政策を確認してみましょう→リンク。一応日本語で要約すると次の通りになります。

①高等教育機関で学ぶ授業料をタダにするために毎年480億ドルつぎ込みます

②1兆6千億ドルにも上る全ての教育ローンに徳政令を出します

③貧困層やマイノリティ向けの奨学金を充実させます

④職業教育を充実させます

⑤低所得層の学生が大学を卒業できるようにする支援プログラムを充実させます

この内、圧倒的にヤバいのが①と②です。少し解説していきましょう。

まず、高等教育機関で学ぶ授業料をタダにするとなぜマズいのかですが、なんと、過去の私が「アフリカから学ぶべき日本の教育無償化のダメな議論」という記事の中で詳しく解説しているので、そちらを参照ください。過去の自分、グッジョブ。そんな記事読みたくないよという怠惰な人のために要約すると以下の通りになります。

①無償化によってより多くの学生が高等教育へ来るが、その混雑に拠る教育の質低下を補う資金提供までしないと、むしろ全体の教育効果がマイナスに行ってしまう可能性がある

②高等教育を無償化しても、幼児・初等・中等教育がズダボロで、高等教育へたどり着けない貧困層が出続けるので、この貧困層の高校中退・高卒が働いて納めた税金で、中間層が大学に行く、逆所得移転が起こる可能性がある

といった感じです。「日本人が大好きな「ハーバード式・シリコンバレー式教育」の歪みと闇」という記事の中でも解説しましたが、米国の基礎教育システムは、日本の教育システムからは想像もつかないほど不平等なものになっているので、上の②の点は、日本の高等教育無償化とは比にならないレベルでマズい影響を及ぼします。


次に、教育ローン徳政令がなぜヤバいのかの解説です。先の無償化はマズいのにサンダース氏がこれを強行しようとしているのは、単なる無知だと思います。しかし、この教育ローン徳政令のマズさについては確実に理解してやっているので、私はサンダース氏が天才詐欺師だと判断します。

まず、米国の教育ローンの特徴について簡単に説明します。このブルッキングス研究所のレポートを読めば、一発で理解できるので、頑張って読んでみて下さい→リンク。余談になりますが、その記事の著者のスコットークレイトン先生は、今アメリカの高等教育研究で最も勢いのある先生の1人ですが、その下で学んでいる友達の柳浦さんは、私のようなインチキと違って、高等教育政策・教育経済学に精通していて、実務者としての経験も豊富なので、もし日本が真面目に高等教育改革に乗り出すのであれば、彼がその中心でキーパーソンになっていないといけないと思っている程の人なので、彼のTwitterをフォローしてみると面白いと思いますよ→@t_yanagiura

より短いバージョンとしてダイナスキ―先生が解説した記事もあるので、めんどくさい人はこちらを読めば十分だと思います→リンク。再び余談ですが、ダイナスキ―先生は米国の教育経済学・教育政策のドンですが、そのお子様はホームスクールで、名門大に進学されたので、とても興味深いなと思っています。

余談が多くなりましたが、米国の教育ローンの特徴を要約しましょう。

①教育ローンを借りる人も借りる金額も増加しているが、それにより破産する人も増加している。全ての学生の4人に1人以上は教育ローンによって破産するし、教育ローンを借りている人に限って言えば、10人中約4人は破産する

②直観に反するかもしれませんが、額を多く借りている人ほど破産せず、50万円程度しか借りていない層がよく破産している(因果関係ではなく相関関係なので、いっぱい借りればいいんだな、みたいな狂気を起こさないように)

③実は大学を卒業できた人の破産率はそれほどでもなく、中退した人の破産率が高く、卒業できた人の3倍程度の確率で破産している

④黒人がよく破産している一方で、アジア系は殆ど破産しない

⑤4年制の大学よりも2年制のコミュニティカレッジ(厳密にいえば全然違うけど、日本の短大に近い存在)でより破産が起こる

⑥営利大学(for-profit)の学生の間で破産率が極端に高く、コミュニティカレッジの学生の4倍の確率で破産する

これが示唆することは幾つかあります。

①沢山教育ローンを借りているアジア人や白人は、将来医者や弁護士、ベイエリア、金融やコンサルファームで働き、年に数千万円も稼ぐ人でもあるので、1千万円や2千万円ぐらいの教育ローンなら余裕で返せる

②大学を出れば何とかなるけど、退学してしまうと高確率で破産。退学率は基本的にランクが低く、リソースが無い大学ほど高い

③営利大学への進学は基本的にアウト

これを見て、え!そうなの?、と思った人が多いはずです。なぜなら、この記事に出てくる登場人物もそうであるように、メディアが報じる教育ローンがヤバいという話は、基本的にリソースがある・ランクが高い大学を、高額の教育ローンを抱えて卒業する、でも学生運動をやる余裕ぐらいはあるアジア人・白人にばかりインタビューに行っているからです。念のため振り返りますが、こういう人達は実際は殆ど破産などせず、教育ローンを返しきります。それに対して、50万円ほどしか借りていない黒人は物凄い勢いで破産していきますが、こういった学生は街頭デモをやる組織力も余裕もない上に、メディアがこういった黒人を取り上げることは殆ど無いからです。

これで分かるように、サンダース氏の教育ローン徳政令計画は、いっぱい借りて、いっぱい稼いで、余裕で教育ローンを返しきる将来の富裕層にとって大変ありがたい話である一方で、たかだが50万円程度の借金で破産する黒人にとっては破産宣告が先延ばしになるだけで、またすぐに新たな借金に手を付ける必要が出てきて破産する、大して恩恵も無い話なのです。

ではサンダース氏は、大学無償化のように知識不足でこれを提唱してしまっているのか、それともそうでないのか、一体どちらなのでしょうか?

これは断言できますが、サンダース氏はこの状況を誰よりもよく理解しているはずです。なぜなら、先に言及したダイナスキ―先生が米国の上院議会で2018年にこの問題について証言しているからです(リンク)。上院議員であり、かつこの問題に深い関心を寄せているサンダース氏が、この証言の内容を聞いていないわけがない。それにも拘らず、サンダース氏は営利大学の問題を完全にスルーし、リソースが不足しているコミュニティカレッジへの支援も特段行う訳でもなく、教育ローンはチャラにしようというのです。

ここからは推測になります。もう一度、サンダース氏のHPの教育政策の所を見ましょう→リンク。写真がありますね。この写真には黒人は映っておらず、一番目立つ女の子はIVYリーグの一角であるコーネル大学の帽子を被っていますね(一応解説すると、コーネルは親の平均年収が1700万円ほどで、コーネル大学を卒業した人の、平均の新卒の給与は700万円ほどになります。新卒にも拘らず、日本の平均世帯収入の、なんと…悲しくなるので比較は止めましょう)。この子たちは典型的なヤッピー(Young Urban Professional)となっていきます。その一方で、民主党の中では、オバマ政権で副大統領だったバイデン氏が黒人からの指示を多く集めていると言われています(オバマ政権の教育政策はダメダメだったので、私はバイデン氏もダメだと考えています)。

恐らくではありますが、サンダース氏は、教育ローンをチャラにすることで自分の支持層であるヤッピーの支持をより強固なものにしようとする一方で、本当に苦境にある黒人や、ラストベルトに住む白人にはオマケ程度の教育政策しか用意していないわけです。これを分かってやりつつ弱者の味方面しているわけですから、お前、天才詐欺師だな!、としか言いようがありません。とは言え、もうこれが最後の大統領になるチャンスですから、私もかつては文部科学大臣になってユニセフかユネスコのトップに立ちたいと考えていたので、その気持ちは痛いほどよく分かります。

そして、サンダース氏・教育ローン徳政令を支持するヤッピーたちは、自分の親も金持ちなわけですから、だいたい自分が将来どれぐらい稼ぐのか分かっていて、教育ローンが多額であっても返せるであろうことを理解しているのに、教育ローンをチャラにしようと叫んでいるわけです。もう、Shame on you(恥を知れ)!!!としか言いようがありません。

このような事情から、私の知る範囲ではサンダース氏を支持する教育政策・教育経済学者はあまり見かけません。しかし、これらの分野外のリベラルチックな人が熱狂的にサンダース氏、いや天才詐欺師を支持しているのはよく見かけます。

まず、一律に何かをするというのがあまり機能することが無いことぐらいは理解しておいてもらいたいものです。これはベーシックインカムにも通じる話ですが、個々のニーズが全然異なるのに、そこを考慮せずに一律な対処をしてしまっては、取り残される人が出てきます。

次に、高額な何かをタダにするというのは、もちろん財の性質にもよりますが、基本的には高所得者層を利する可能性が高いということも、よく理解しておいてもらいたいものです。そもそも、そんなに無料が好きなのであれば、自分で言うのもなんですが、公平で効率的な教育政策を通じて貧困の無い自由で平和な社会を作る事を目指している私の仕事のお手伝いをタダでやってくれよと思います。国際機関の仕事や、慣れない日本語での原稿の執筆や、ネパールでNGOの運営や、日本の教員多忙化解消委員会の仕事でバカみたいに忙しいので(あれ、博士課程はどこに行った…)、無料で手伝ってくれ…いや逆に仕事を増やす足手まといにしかならなさそうなのでやっぱりいいや…。

私は教育政策以外はよく知らないのであれですが、教育政策だけ見るとブティジェッジ候補が一押しです。なぜかは気が向いたら解説しますが、パートナーの方が、オバマ大統領とダンカン教育長がボッコボコにしたシカゴ学区の公立学校の先生だったこともあってか、よく現実が分かっているなという感じの政策が並んでいました。トランプ大統領は、教育ローンで破産するのは、教育ローンの種類が多過ぎて、学生が適切なものをチョイスできないからだと去年の一般教書演説でぶち上げたのに、学校選択制(チョイス)の拡大が一番の目玉政策という、僅か数行の間でとんでもない矛盾をやってのけているので論外です。

今、米国で必要な政策は、①最大で年額70万円しか出ないPell Grantの圧倒的拡充(この点については、サンダース氏も押していて、大変評価が出来ます)、②Pell Grantに申し込むためのFAFSAの簡易化、③営利大学の廃止、④貧困地区にある高校のスクールカウンセラーの拡充、⑤学区制を廃止して、州政府・連邦政府による教育負担といった所が思い浮かびますが、私の専門は途上国の教育政策だし、高等教育ではなく基礎教育、特に障害児教育と幼児教育で、全然執筆する気が起きないので、もし気が向いて時間があったら解説します。

最後に、なぜこれほど教育政策・教育経済学が充実しているアメリカの教育政策がこれほどまでにダメなのか、上級教育経済学の授業で一緒になった白人の学生の言葉と、その授業の教授の言葉が印象的でした。

多臓器不全で倒れた患者が運び込まれて、倒れた際に割れた小指の爪を一生懸命に治療しているのが、我々がやっている事なのではないか?
教育経済学が存在できるのは、データがあって因果推論がかけられる領域だけだ。教育政策全体で考えた時に、それは暗闇の中で鍵を落としたのに、見ることができるからという理由で、鍵を落としたところから遠く離れた電灯の下を探しているようなものなのかもしれない

サルタック・シクシャは、ネパールの不利な環境にある子供達にエビデンスに基づいた良質な教育を届けるために活動していて、現在は学校閉鎖中の子供達の学びを止めないよう支援を行っています。100円のサポートで1冊の本を子供達に届ける事ができます。どうぞよろしくお願いします。