「日本は世界で◯◯位」にダマされないために 女性差別に関する報告書でみる国際ランキングの読み方(Wezzy2021.03.13掲載)

「日本は世界で◯◯位」という調査結果がたびたび話題になります。ジェンダーの分野で有名なのは、世界経済フォーラムが毎年発表している「ジェンダーギャップ指数」でしょう。日本はこの男女格差を測るジェンダーギャップ指数で例年、非常に悪い成績を残しており、女性差別がいまだに根強く残っていることの証拠としてたびたび取り上げられます。ちなみに2020年の日本のジェンダーギャップ指数は153カ国中121位でした。

以前、連載「女子教育が世界を救う」でも取り上げたように、実はジェンダーギャップ指数の順位そのものにはあまり意味がありません。なぜなら、選定された指標や計算方法に疑問が残るだけでなく、全ての国際ランキングに当てはまりますが、こうした衝撃的な順位をビジネスのために利用しようと目論む人たちが、様々な曲解を出回らせて、もはや何のためのランキングなのかすらよく分からなくなるからです。

これに対し、質の高い報告書の場合は非常によく作り込まれており、内容を踏まえずに順位のみを強調するのはかなりもったいないことがあります。指標の大半が選定された理由がしっかりとしているので、指標のひとつひとつを確認して、どこに問題があり何を改善すべきかを考えることで、男女格差を是正するために活用できるからです。

今年2月、世界銀行が「Women, Business and Law 2021」という報告書を発表しました。経済的な権利に関する男女格差を調査した報告書で、日本は190カ国中80位と芳しくない評価を下されていました。なぜこのような順位に位置付けられたのか、内容を確認しながら、日本は今後ジェンダー平等実現のためにどのようなアクションをとるべきかを考えていきたいと思います。

そもそもこの報告書は何なのか?

全てのジェンダー関連の報告書やランキングには何らかの目的があります。「Women, Business and Law 2021」の場合は「女性の経済的な機会を規定する法律や規制の現状を議論すること」に目的が置かれています。

つまり、「(私の専門分野でもある)女子教育の視点がない」といったコメントには妥当性が無いですし、この報告書では法律や規制の話がされているので、「日本は価値観や文化が違うから気にすることはない」といった日本特殊論を持ち出してくるのもお門違いになります。目的をおさえることは、報告書の内容を正しく理解するためにたいへん重要なのです。

「Women, Business and Law 2021」では、ジェンダー関連の国際条約と照らし合わせるだけでなく、経済学分野の論文をレビューしたり、選んだ指標が女性の経済的な機会と統計的に関連があると言えるのかもチェックされています。実は冒頭で例にあげたジェンダーギャップ指数は、指標の選定がプロフェッショナルのものとは呼べず、あまり信頼できるものではありません。報告書の信頼性を確認するにはある程度の専門性が必要とされますが、「どのくらい信頼できるのか」という視点を持つことも大切です(フェアネスのために言及しておくと、世界銀行は私の最初の職場ですし、最近もコンサルタントの仕事を請け負ったので、その点が私の判断に影響を与えている可能性はあります)。

この報告書では「居住の自由」「平等な財産権」「雇用」「賃金」「婚姻」「子育て」「起業」「年金」という8つの領域を評価しています。「居住の自由」と「平等な財産権」があることで経済的な機会が広がり(この点は、途上国特有の問題で、先進国ではほぼ解決された問題ですが)、「雇用」と「賃金」は経済的な機会の中心であり、「婚姻」と「子育て」という家庭領域の法整備が不十分では経済的な機会を得ることに支障が出てきますし、「起業」や「年金」という領域も重要な経済的な機会です。「女性の経済的な機会を規定する法律や規制の現状を議論すること」には妥当性のある項目でしょう。

では、この8つの領域で日本はどのような評価を受けたのでしょうか?

日本の良いところ・改善が必要なところ―セクハラに対する罰則規定が必要だ

日本は「居住の自由」「平等な財産権」「子育て」「年金」の4つの領域で満点を取っています。

「子育てで満点!?」と驚かれた方もいると思いますが、内容を確認すると理解できると思います。この領域で評価されているのは、「14週以上の産休・育休が保障されているか」「政府が産休・育休のかかるコストを負担しているか」「父親の育休は保障されているか」「妊娠を理由とした解雇に罰則が設けられているか」の4点です。男性の育休取得率があまりにも低いので勘違いしがちですが、日本は法・規制という点では整備がきちんとなされている国です。問題は慣習の方にあることを浮き彫りにする結果だとも言えます。

もちろん日本には待機児童や他の先進諸国と比べても低い家庭・教育への公的支出といった法・規制にも関係する問題は依然として存在しています。これらが評価項目から外れているのは、女性の経済的な機会という点からいえば、次に述べる課題の解決の方が優先度合いが高い、ということなのかもしれません。

日本が改善すべきところは、女性の経済的な機会のど真ん中にあたる「雇用」です。特に、日本に関する2ページのレポートで言及されているのが、セクハラに対する罰則規定の問題です。

「雇用」領域で、日本の法整備は「就職」と「性別に基づく差別に対する罰則規定」の項目は良いとされていますが、「職場でのセクハラに対する法制度」「セクハラ加害者に対する罰則・被害者に対する救済措置」の2項目で法整備の必要があるとされています。男女雇用機会均等法の中でセクハラ防止措置は確かに明記があるのですが、罰則規定がないため不十分だとされているようです。

就活でのセクハラは毎年のようにニュースになっていますし、セクハラ問題も近年メディアを賑わせています。セクハラに限らずハラスメント全般に関する法整備はすぐにでも取り組む価値が高いでしょう。

その他の日本の改善点

その他、日本が改善の必要があるとされている項目は以下の通りです。

「婚姻」-「再婚に関する男女平等」:女性のみにある「100日間の再婚禁止期間」が引っかかっています。元々、父子関係の問題を防ぐために設けられた規定のようですが、現代ではDNA鑑定も可能になっているので、確かに不必要な規定になっています。

「起業」―「金融アクセスへの男女差別」:アメリカに住んでいると金融アクセスへの差別は教育政策分野にいても見かけるぐらい激しく議論がされています。日本ではアメリカほどには顕著にこの分野で差別が無いのかもしれません。しかし、予防措置として法整備をしておく価値は十分にあるでしょう。

「賃金」―「鉱山・建築現場などで女性も男性と同様に働けるか」:労働基準法64条2の妊産婦等の坑内業務の就業制限が引っかかっています。あまりに専門外のため私には是非がわかりません。

「賃金」―「同一労働同一賃金の義務化」:日本でも大企業は昨年から、中小企業もこの4月から徹底が求められることになりました。来年の報告書ではこの点の分だけ日本のスコアも上昇するはずですが、この報告書で評価項目として入ってくるぐらいには同一労働同一賃金の徹底は女性の経済的な機会にとって重要なので、徹底的に実施される必要がある、というのは重要なポイントです。

まとめ

この手のジェンダーに関する国際ランキングが出ると、その国際ランキングが視野に入れているポイントから外れたところを指摘しながら日本の後進性を嘆いたり、逆に日本特殊論や国際ランキングの不備を指摘してそこから学べる・学ぶべきポイントをすべて無視したりしてしまう、という両極端なリアクションが起きがちです。

確かに、ジェンダーギャップ指数の教育分野のようにそもそも方法論として論外過ぎるものもありますが、この世界銀行の報告書はそれよりは方法論として健全です。特にセクハラに関する罰則規定の甘さや、同一労働同一賃金の重要性辺りは学ぶべきところが大きいですし、金融アクセスへの差別防止など「言われてみれば確かに」というポイントもあります。

人間の体重は水分量や筋肉中のグリコーゲン量で数キロぐらい簡単に変動するのに、ダイエット中に脂肪が落ちたかどうかではなく、僅かな数値上の体重の増減で一喜一憂するのがバカバカしいのと同程度には、この手の国際ランキングの順位に一喜一憂するのはバカバカしいことです。

課題は何で、それを克服できたのかどうか(≒脂肪を落とせたのかどうか)で一喜一憂できるようになりたいものです。そしてメディアには、順位をセンセーショナルに報道するのではなく、どの項目で引っかかって順位が低いのか、せめてその項目の羅列ぐらいは報道で触れて欲しいと思います。

サルタック・シクシャは、ネパールの不利な環境にある子供達にエビデンスに基づいた良質な教育を届けるために活動していて、現在は学校閉鎖中の子供達の学びを止めないよう支援を行っています。100円のサポートで1冊の本を子供達に届ける事ができます。どうぞよろしくお願いします。