見出し画像

ボクシングの競技力向上に悩む人は「手打ち打法」で突き抜けられる

ボクシングを始めたけど、なかなか上達しなくて悩んでいる人は多いです。競技力を向上させたいけれど、何をどうやって練習して良いのかわからないですよね。現役プロボクサーである私も、同じ悩みを抱えていました。

そこで今回の記事では、第41代OPBF東洋太平洋ウェルター級王者の長濱陸さんに、一般的な考え方と180°異なる「手打ち打法」についてお伺いしました。ボクシングの競技力向上で伸び悩んでいる人は、ぜひ今回の記事を参考にしてみてください。

特に後半の「手打ち打法の習得方法」は個人的に必見です。(実は私は長濱さんの手打ち打法で、プロ初勝利をあげられました。)

手打ち打法とは

ーーーこんにちは!本日はよろしくお願いいたします。まず、長濱さんが推奨している「手打ち打法」とは、どのような打ち方なのでしょうか?

真剣に取材に応じてくれた長濱さん

「手打ち打法」とは、簡単にいうとパンチを手から加速させる打ち方のことです。一方、日本のボクシングジムで広く普及しているのは、腰を回してパンチを出す「引っ張り打法」と言われるもの。

特にボクシングを始めた時に「腰を回してパンチを打て!」とトレーナーに言われることが多いですよね。しかし手打ち打法は「腕をぶん投げるよう」にしてパンチを打つ方法です。

ーーー「手打ちは力が入らないのでダメな打ち方」と言われることが多いので、手打ち打法を推奨しているのは驚きですね。

なぜ手打ち打法を始めたのか

少年革命家のゆたぼんと

ーーーでは、長濱さんが手打ち打法を始めたきっかけは何だったんですか?

実は、元々手打ち打法だったんですよ。自分がパンチを打ちやすい自然な方法が、手打ち打法だったのでしょうね。しかし、トレーナーや周りのジム生に「そのパンチの打ち方はおかしい」と言われていました。

だから僕も周りに合わせるように、腰を回してパンチを打つ引っ張り打法を練習するようになっていたんです。しかし、自分の中で何だか気持ち悪さを抱え続けていたんですよね。そんな時、あるきっかけで「手打ち打法が正解だ!」と確信を持ちました。

ーーーぜひ、手打ち打法に確信をもったエピソードを教えてください!

選手を引退した後の2021年の9月に、沖縄の平仲ボクシングジムで選手にパンチの打ち方を教えていたのがきっかけです。従来の腰でパンチを打つ「引っ張り打法」と、腕から拳を加速させる「手打ち打法」の2種類を教えてみました

すると、手打ち打法の方が明らかにパンチが鋭く強くなっていったんですよね。ボクシングを始めたばかりの子供からプロまで、色んな選手に手打ち打法を試してもらいました。そこで手打ち打法を試し始めてから約2ヶ月間で「引っ張り打法より手打ち打法だ!」と確信しました。

トレーナーとして手打ちを選手全員に教えていた

ーーー手打ち打法に確信を持ってから、どのように手打ち打法を使ってきましたか?

主に、選手に手打ち打法を教えていました。手打ち打法に確信を持った時は現役を引退して、平仲ボクシングジムでトレーナーをしていましたからね。しかし、自分でも手打ち打法を色んな角度で試していましたよ

ーーー自分でも試しながら、選手にも手打ち打法を教えていたんですね。手打ち打法を始めた選手には、どのような変化がありましたか?

長濱さんの指導で手打ち打法をマスターした長岡さん

パンチのスピードが速くなり、パワーは強くなります。ミットで手打ち打法の選手のパンチを受けると、インパクトの感触が良くなりますね。さらに、パンチを打つための「タメ」が短くなるので、相手にパンチが読まれにくくなるのです。

ーーー簡単にいうと、手打ち打法によってパンチの全てが変わるということですね。すごい。なぜ手打ち打法が、パンチのスピードやパワーの向上につながると思いますか?

身体のバランスが崩れないからです。「腰を回そう!」と意識すればするほど、身体が不自然で気持ち悪さを覚えるはずです。手打ち打法は引っ張り打法よりも自然に腰を回せているので、重心のブレが少なく、力が分散しません。

ーーー手打ち打法について、確信を持った上で選手に教えていたのが伝わります。長濱さんは、ボクシングを教える上でのこだわりはありますか?

教える上だけでのこだわりではないのですが、自分で納得したことしかやりたくないですね。自分が強くなるためや、選手を教えるに当たって、しっかり裏付けはしたいです。

例えば元々コンピューターが好きだったこともあり、パンチを力学でシュミレーションして、自分が納得できるための要素にしていました。力学をさらに学ぶために、今では数学にまで手を出しています

ーーーここまで考えるボクサーがいるのか?と正直かなり驚きました。

進化し続ける手打ち打法

ーーー手打ち打法に確信を持ってから、手打ち打法はどのように進化していますか?

手打ちは進化を続けている・・・!

今は、手打ち打法Ver.1→Ver.2に変わっています。パンチが、より強く速く打てるようになりました。僕自身もですが、トレーナーを辞めた今でも僕が指導しているボクサーは、競技力がグンと上がりました。Ver.1→Ver.2に移行したことで、体感ではコンマ何秒パンチが速くなったことを感じます。

ーーーボクシングをやったことある人ならわかりますが、パンチの速度をコンマ何秒縮めるのは簡単ではありません。ちなみに、Ver.2に移行したきっかけはあるのでしょうか?

感覚的な話ですけど、パンチを背中で打つイメージが掴めたからです。手打ち打法での練習を続けていく中で、パワーが前に抜けていく感覚がありました。そこで、前に抜けてしまうパワーを押さえつけるようにイメージしながらパンチを打ったことで、パンチがバーンと走ったんです。

偶然もあり、Ver.2へ移行できたんです。まだ手打ち打法Ver.2の説明が完璧にできる状態ではないので、説明できるようになったらYouTubeで発信します。

ーーー手打ちVer.2についてのYouTube動画、とっても楽しみです!

強い選手は全員手打ち

手打ち「なのに」強いのではないんです

ーーーちなみに私は、手打ち打法でなくても強い選手がいると思っているのですが、長濱さんはどう思われますか?

僕は、強い選手は全員手打ち打法だと思っています。手打ちを意識していなくても、原理的には手打ち打法になっているはず。腰を回してパンチを出すことは、意識すればできるかもしれません。

しかし、スパーリングや試合中の無意識の中で「腰を回してパンチを出そう!」などと思っているはずありませんからね。

ーーーつまり世界チャンピオンになる選手は「意識しているか意識していないか」の違いだけで、全員手打ち打法ということですね!長濱さんが手打ち打法を参考にしている選手は誰でしょうか?

ロシア出身のコンスタンチン・チューです。キャリア初期からずっと、わかりやすい手打ち打法です。強烈なパンチでダウンを奪い、3団体のチャンピオンにも輝いています。

ヘビー級だと、アメリカのジョージ・フォアマンも参考になります。特に身体が大きくなって足が動かなくなったキャリア後期のフォアマンは、かなり手打ち感が強いです。腰を回さなくても手打ちによる地面からの強い反発で、強烈なパンチが出せることがわかります。

手打ち打法を習得するには?

京都大学で手打ち打法を教えました

ーーー手打ち打法について、ますます興味が湧いてきました。「今から手打ち打法を習得したい!」という人は、何をすれば良いでしょうか?

「腕を高速で動かそう」「拳を高速で振り出そう」という意識を持ってパンチを打ちましょう。腰が自然に動き、身体のバランスが良い状態で強くて速いパンチが打てます。

身体のバランスが崩れることによるエネルギーロスが少ないので、楽にパンチが出せるようになり、ボクシングが楽しくなるはずです。手打ち打法について悩んだ時には、僕のYouTubeinstagramを参考にしてみてください。

それでも「もっと手打ち打法について学びたい!」という人は、僕が直接教えます。不定期ですが各地で手打ち打法を教えているので、こちらよりお申し込みください。

ーーー手打ちVer2が習得できれば、スパーリングや試合でも圧倒的に勝てるようになるかもしれませんね。

選手 兼 指導者として手打ち打法を武器にしたい

遠征してスパーリングも

ーーー長濱さんはこれから手打ち打法を武器にして、どのような活動をしていく予定ですか?

現役復帰して、手打ち打法を一つの武器に選手として活動していきたいです。まだ所属ジムなどは公表していませんが、来年には試合をしたいと思います。

ーーーおお!それはとても楽しみです。どんな相手と試合をしたいですか?

試合ができれば、どんな相手でも良いです。いきなり日本ランカーとでも良いし、もしやってくれるならチャンピオンと試合をしたいぐらいですよ。それぐらい、武器として手打ち打法を手に入れた今の自分に自信を持っています。

ーーー長濱さんの現役復帰、期待しています!ところで今は選手の指導もしているようですが、指導は辞めて自身のトレーニングに専念するのですか?

選手の指導は続けますよ。人に教えることで、自分のレベルアップにも繋がることを実感しているので。選手に「どう伝えようか」「次は何を教えてあげれば良いのか?」と考えるのも大事です。自分が完全に理解していないと、人には教えられないですからね。

指導している長岡さんと

従来とは全く違うパンチの打ち方である「手打ち打法」についてSNSなどで発信している長濱さん。数学や力学を利用して裏付けをしながら、たくさんの選手をみてきた結果が、「手打ち打法は競技力の向上に繋がる」という確信につながったのです。

もしボクシングの競技力向上で悩んでいるのであれば、トレーナーに言われたことだけを行動に移していても何も変わりません。長濱さんのように、自分の頭で考えて行動してみてはいかがでしょうか?

その際「手打ち打法」という考え方を、一つの選択肢にいれることをおすすめします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?