英語の仮定法は嘘なのだ!

日本の英語教育における「仮定法」の扱いは、「難しいよ!」という雰囲気が前面に出ていて、何だか「テストで平均点を下げるための道具」みたいに使われている節があるような気がします。ですが、仮定法は基本さえ押さえてしまえば、とってもシンプルに理解することができます。

1. 仮定法とは「正しい嘘つき」になるための方法である

仮定法の基本は、それが「嘘」だということ。「もし私があなただったら……」「もし私が王様なら……」「もし私が鳥だったら……」「もしもピアノが弾けたなら……」(ん? なんか古いの混ざってるな……笑)これらはすべて仮定の話、要は「嘘」なのです。「嘘」だから、いつもと同じように発言したのでは、「嘘つき」になってしまいます。困りますね。そうならないように、いわば「正しい嘘つき」になるために、「いま私は嘘をついていますよ、仮定の話をしていますよ」というシグナルが必要です

仮定法のシグナル = 時制をひとつぶん過去にずらす

これが仮定法の基本です。もっと具体的にすると、

現在についての嘘なら過去形で、
過去についての嘘なら過去完了形(大過去とも呼ばれます)で、表現する

ということになります。本当に仮定法はこれだけです。ちなみに、仮定法すなわち嘘ではなく、本当のことを述べる仮定法以外の言い方を直説法(ちょくせつほう)と言います。直説法と仮定法を見くらべながら、「仮定法の基本」を確認してみましょう。まずは現在についての直説法と仮定法から。

【直説法】I am a king. 私は(いま)王様だ。(←本当)
【仮定法】I were a king. 私は(いま)王様だ。(←嘘)

直説法では現在形が、仮定法では過去形が(しかも was であるはずのところが were になって)使われています。was ではなく were が使われているのは、「私はいま嘘をついていますよ!」というシグナルを強くするためだと思ってください。" I was a king. " と発言すると、「 私は(むかし)王様だった。」と受け取られかねませんから。

次は過去についての直説法と仮定法を見くらべてみましょう。

【直説法】I was a king. 私は(むかし)王様だった。(←本当)
【仮定法】I had been a king. 私は(むかし)王様だった。(←嘘)

仮定法になると、ちゃんと時制がひとつぶんだけ過去に(現在の内容なら過去形に、過去の内容なら過去完了形に)変わるというのが理解できたでしょうか。

2. if 節(従属節)と主節のそれぞれで考える

1. ですでに仮定法の基本はすべて説明してしまいました。ここからは補足です。仮定法の文は「もし○○なら、××なのになぁ。」という形になることがよくあります。この形の文は英語では " If ○○, ××. " となります。この○○の部分と××の部分のそれぞれで、1. でお伝えしたことを考えればよいのです。" if ○○ " の部分を if 節(または従属節)、" ×× " の部分を主節と呼びます。

主節の部分にはたいてい何らかの助動詞が入ります。よく出てくるのは would や could です。それは、「××だろうになぁ」「××できるのになぁ」と推量や能力のニュアンスが含まれるからです。「もし○○なら」の if 節の部分は条件を示していて、言い換えるなら、「もしこういう条件なら……」と決めてかかっているので、推量のニュアンスは入る余地がありません。すなわち、if 節に would は登場しません。could は登場します。「もしもピアノが弾けたなら……」は、" If I could play the piano... " です。いくつかの例文を見てみましょう。まずは現在についての嘘の文から。

If I were a king, I would be rich. (もし王様なら、お金持ちだろうになぁ。)
If my house were nearer to the station, I could sleep for another ten minutes. (家がもう少し駅に近ければ、もう10分寝ていられるのになぁ。)

こんなふうになります。助動詞が出てきてもビックリしないでください。would は will の過去形、could は can の過去形です。if 節も主節も、現在についての嘘を述べているので、過去形になっているのが分かると思います。別の文法事項を用いて説明するならば、これは「時制の一致」とも言えるかもしれません。if 節のところが過去形なら、主節も過去形です。

今度は過去についての嘘の文について見てましょう。

If I had been a king, I would have not fought the war. (私が王様だったら、その戦争はしなかっただろう。)
If he had left ten minutes earlier, he could have caught the train. (もう10分早く出ていれば、彼はその電車に間に合っただろうに。)

 ここに示した例文は、if 節も主節も過去についての嘘なので、どちらの節も過去完了形になっています。if 節は助動詞がないので、過去完了形になっていることがシンプルに理解できると思います。助動詞の would や could が登場する主節も同様です。少し複雑に見えるかもしれませんが、太字にした部分は過去完了形です。助動詞の would や could が過去形を、have + 過去分詞の部分が完了形を分担することで、全体で過去完了形となっていることを確認してください。英語には「助動詞の後ろに置く動詞はかならず原形」というルールがありますから、would had や could had という形はありえません。では次の文はどうでしょうか。

If I had studied harder in my school days, I could get paid much more. (学生時代にもっと勉強していたら、もっと稼ぎが良かっただろうになぁ。)

if 節は過去完了形、主節は過去形になっていますね。アレ? そろっていません。これまでに紹介した例文はすべて if 節と主節の時制がそろっていました。ところがこの例文は時制が if 節と主節とでそろっていません。例外に見えるかもしれませんが、まったく例外でも何でもありません。次の質問に答えてみてください。「学生時代にもっと勉強していたら」はいつについての嘘ですか? そうですね、これは過去(むかし)についての嘘です。では、「もっと稼ぎが良かっただろうになぁ」はいつについての嘘でしょうか? そうなのです、これは現在(いま)についての嘘なのです。そもそも、言い表したい内容が過去についての嘘と現在についての嘘のミックスだったのです。だから、それぞれの節で時制が異なっていて当然なのです。

ここまで「仮定法は嘘なのだ!」ということで、仮定法の動詞や助動詞の活用がどうなるかについて説明してきました。悪い嘘つきにならないために、いわば正しい嘘つきになるために、みなさんも上手に仮定法を使いこなしてみてください!

文法用語で言うところの仮定法未来(私はこの呼び方自体好きではないのですが……)については、この note に後日加筆するか、別の note で説明することにいたします。

ちなみに、仮定法を学ぶのにピッタリの歌があります。それは、Eric Clapton の "Change the world" という曲です。歌詞を検索してみてください。仮定法の嵐って感じですから。笑

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