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その昔、素晴らしい日のこと

もう10年近く前、大阪の寺田町fireloopというライブハウスに大学の先輩のバンドを見に行った。
この日のことは今でもたまに思い出してしまう。そんな素晴らしい日であった。


この日は先輩のバンドに加え何バンドか出るイベントだった。ライブハウスの中は薄暗いけれども、その日はいかつい男もバンギャもあまりいなかったような気がする。とりあえずハイボールを喉に通し、薄暗い箱の中、白目を向いていた。
バーカウンターの後ろのほうにいらっしゃる方がおそらくハヌマーン育ての親、野津さんだろうなぁ、いかついなぁとか思っていた。


先輩のバンドの演奏はイカしていた。淡々と日常の生活を歌われており、とにかく心地が良かった。さよならサンデイという曲が胸を打った。


そして、その後出てきたバンドが本当にもやしだった。ボーカルの男は覇気があまりなく痩せ細っており、ベースも、ギターも、ドラムも、パッと見は冴えない感じが溢れていた。
不気味な感じの人たちだなぁと思いながら、演奏が始まると、それはそれはとんでもない熱量だった。ボーカルの人は痩せ細った体を絞り上げ唄っていた。ギターの人もエクスプロージョンしていた。ベースのアニオタみたいな出立ちの人はめちゃくちゃコーラスしていた。
MCを聞けば、ボーカルの人は直近まで病気をしていて入院していたそうな。いかにも入院してそうな出立ちであった。
彼らのバンド名はハンブレッダーズというらしい。覚えにくい名前ではあるが、演奏がとにかく熱かった。初期衝動をそのまま鍋にぶち込み煮込んだような曲たちにただただ感動してしまった。

ライブ後、感動の勢いで彼らのCDを2つ買った。耳鳴りが止まぬうちに足早に帰路につき、CDをインポートした。この2つの音源は今でもiPhoneに入っている。そこから1年ほどは擦り切れるくらい聴いていた。
YouTubeに昔上がっていた「烏丸御池のアパートで」という曲がとんでもなく切なく当時とても好きだった。就職活動をヨーイドンで始めさせられ、無理矢理黒染めした就活ギャル達を横目に、大人の世界に取り込まれるような日々の寂しさや違和感をこの曲が埋めてくれていた。

その後、ハンブレッダーズはメンバーチェンジをし、メジャーデビューし、万単位のフォロワーを抱え華々しく活動するようになった。音楽もビジュアルもどんどん小綺麗になっていき、あの頃、泥のような演奏をしていた彼らの面影はなくなった。メジャーの音楽は商売品であることを痛感する。
今の彼らを見るたびに、私が見たハンブレッダーズというバンドはもう存在しないと寂しい気持ちになる一方、あの頃の初期衝動全開の彼らの姿を見れたことがすごく幸運だったなぁと思う。

ハンブレッダーズを見た日のことに戻すと、その日のトリにモケーレムベンベというバンドが演奏していたが、今までで1番くらいではないかくらいに感動したライブであった。彼らのCDもその日何枚か買って帰って擦り減るまで聴き散らかした。
彼らはハンブレッダーズのように陽なたに出ていくようなことはなかったが、それからもずっと同じような温度感で日常を曲にし続けてくれている。今でもずっと聴いている。

その日は本当に素晴らしい一日で、それ以来ふらっとライブハウスに行く癖がついてしまった。今でもたまにではあるが発作を起こすと、ふらっとライブハウスに入ってあの頃感じた感動や初期衝動を探してしまうおじさんになってしまった。

あの日ライブに誘ってくれた先輩には、足早に帰ってしまったことへの謝罪と、その後初期衝動探しおじさんになってしまったことをご報告したい。

ハンブレッダーズ/口笛を吹くように

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