『14歳からの非戦入門』を読んで
「本書は、近年とくに顕わになった『安全保障化』と、日本人の大半が気づいていない『緩衝国家(Buffer Stateバッファーステート)』という2つのキーワードを軸に、世界と日本の危機をどう克服するかのヒントを提示したいと思い、急きょ書き上げたものである。」と書籍ジャケットの袖に記載されています。これは、「はじめに」の最終段落に記述されている文章です。
また、著者である伊勢崎賢治氏のXには、上梓の趣旨が次のとおりツイートされています。
これまで伊勢崎氏の著書を拝読し講演を拝聴した経験の中から、氏は「市民の命」に差別なく徹底的に寄り添う方なのであろうと感じています。つまり、著者が提唱されている「非戦」とは決してきれいごとではなく、市民の犠牲をいかに防ぐかという観点から導き出されたきわめて合理的かつ現実的な戦略なのだろうと思っているのです。
そして、その戦略は、「おわりに」で述べられている著者のファミリー・ヒストリー(サイパンにおける伊勢崎家の戦争体験)によって育まれた人柄から導き出された当然の帰結と言えるものなのだろうとも思っています。
バンザイ・クリフなどでの「死の忖度」をも含めたコラテラル・ダメージ(巻き添え被害)としての犠牲ばかりではなく、あろうことか市民がメイン・ターゲットとされている【ガザ・ジェノサイド】に至るまで、「市民の命」は徹底的に軽んじられています。そんな市民に差別なく心を寄せているからこそ、一刻も早く停戦させなければと願い、また、決して新たな戦争(特に「”緩衝国家”日本」がその国土を戦場とする戦争)を起こさせてはならないと考えているのだろうと思うのです。
著者は様々な紛争の現場で、西側に軸足を置きながらも、常に、敵味方関係なく市民の犠牲を減らす努力をされてきました。軍服でもなく背広でもない立場で。これほど数多くの紛争現場で市民に寄り添い続けている人は、日本は勿論世界中を探しても、他にあまりいないのではないでしょうか。著者は、親露でも親米でもなく、市民の味方なのだと言えるでしょう。だからこそ次のように叫ぶのです。
いつまでも戦争を引き延ばされた挙句に、生活の場を爆撃され原爆まで落とされて数多くの市民が犠牲になった日本の市民だからこそ、今まさに犠牲になっている市民に寄り添わなければならないという主張は、誰にも否定し得ない至極まっとうなことであるはずです。
「市民の命を一人でも多く救う」ためには、決して戦争を起こさせてはならない。また、不幸にも戦争が勃発してしまったら(ましてやジェノサイドが行われてしまったら)一刻も早く停止させる。それに尽きるのではないでしょうか。
著者は、開戦法規と交戦法規の解説を通じて、「どんな理由があれ戦争を選択する指導者たち」が市民に犠牲を強いる戦争そのものに対する怒りを表明されているのではないかと感じました。
そして著者は、戦争犯罪やジェノサイドを法治しようとする議論さえない「無法国家」日本の非常識を憂い、本丸である日米関係に論を進めます。
論語に孔子が「知らしむべからず」と言うとおり、全ての人にすべてを知らせることなどできません。となれば、いかに本質部分を伝えて大勢の納得と合意を得るかが重要となるでしょう。著者はある時、アルジャジーラによる10.7の特集動画をXでツイートしました。それが、こちら"October 7"です。
けれども本書の中では一切そこに触れていません。様々な情報がある中で、「14歳」でも理解し納得できるようにと、情報を厳選して解説する著者の配慮を感じます。
さて、本丸の日米関係ですが、日米安保条約に紐づいた日米地位協定にはじまり、米軍が中心となって組織している朝鮮国連軍に参加する国々と日本との間で結ばれた朝鮮国連軍地位協定の話が展開されます。その前提として、まずはアメリカによる世界の分断について。
そして著者は、「この二つの戦争の趨勢を決めるアメリカという存在を、どの国より体内に内包し、かつ、その仮想敵国であるロシア、中国の目の前に位置する”緩衝国家”日本」は、「戦争犯罪の法治、つまり国際人道法に則った法の整備を拒絶する、世界で唯一の国家である」と述べています。
そのうえで、仮に「アメリカが、軍事支援でさえ忌諱する厭戦感が支配する国内政局を圧して、『民主主義と自由』を守るために奮い立ったとして、そして日本も『法の空白』にもめげずに、『明日は我が身』と奮い立ったとして」も、軍事的合理性を考えれば、中国は台湾を軍事占領できるはずがないのだということを論理的に解説します。
私たち日本人は、ブラック・プロパガンダによって安全保障化され「台湾有事」という幻想に踊らされていますが、そもそも実現不能な軍事作戦を中国が行うのだろうかという原点の問いに向き合うことが必要なのではないでしょうか。
ここで著者は、「日本の命運を支配するゾンビ」たる朝鮮国連軍について話を展開します。日米地位協定における「全土基地方式」や「統一指揮権密約」などによって日本の主権はあってなきが如くではありますが、そればかりか朝鮮国連軍地位協定によって、日本の意思が入り込む隙間のないままに、自動的に戦争に参加する可能性があるという最大の問題点を指摘されています。本書には出てきませんでしたが、著者がよく言う「緩衝材国家」が日本なのです。トリップワイヤーを仕掛けられていながら、意見をさしはさむ余地さえもありません。
最後に著者は、「『ボーダーランド』の非武装化・外交的軍縮という国防のオプション」を提言します。
著者の、この非戦の安全保障論に、私はもろ手を挙げて賛同します。
日本の為政者には、是が非でもこの道へと進んでもらいたい。
また、【ガザ・ジェノサイド】と宇露戦争に対して行われているであろう、秘密裏の停戦工作にも大いに期待します。
それでも現状を見ると、停戦工作にしても非戦の「人権大国」になるにしても、それが苦難の道であることは想像に難くありません。
戦争は、敵と戦うことのように見えますが、その実、支配者が配下に殺し合いを命令(督戦)し、敵味方なく人々を不幸のどん底に陥れる行為です。だからこそ上官責任を明確にする必要がある。けれども日本にはそれがない。考えてみれば、戦争をするかしないかの意思決定にさえかかわることのできない為政者が、責任を取りたくないと思うのは当然なのかもしれません。
そんな為政者の意識を変えさせるためには、著者の活躍に頼るばかりでなく、私たち市民一人ひとりが、緩衝材国家に生きていることを自覚し、ブラック・プロパガンダに騙されないだけの知性を磨いて、市民の側から脱安全保障化の流れを作り出すことが必要なのではないでしょうか。為政者の側から作り出された安全保障化を市民の側から逆転させる。「非戦」以外に生き残る道がないと覚悟を決めて、国民みんなで為政者に翻意を迫りましょう。
様々な立場の人々がそれぞれに力を尽くし、またそれら市民の平和的な力を結集する事によって、必ずや世界と日本の危機を克服できると信じます。
(なお蛇足ですが、このたび私は市民自らの手で軍縮を実現したいと願い、「自衛官【退職・帰郷】応援キャンペーン」を企画しました。こちらの企画書をご高覧頂ければ幸いです。)
『14歳からの非戦入門』
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