新宿末廣亭夜席〜柳亭小痴楽主任興行

柳亭小痴楽師匠の主任興行に行ってきました。今や落語芸術協会の若手真打の代表的な存在ではないでしょうか。お父さんは戦後初の真打になった故5代目痴楽です。(往年の落語ファンの中では、痴楽綴り方狂室で知っている方もいるかもしれません。)千穐楽でかつ土曜日ということもあって、一階が満席に近かったです。また、女性の方が比較的多かった印象でした。

高座に上がった小痴楽師匠は、少し前の出番で上がっていた昇羊さんの新作落語が好きなのに、寄席で古典ばっかりやるというマクラで客席を温めます。そして、落語には乱暴者が出てくるというフリから、大ネタ「らくだ」に入りました。

これまでは、寄席の浅い出番で楽屋噺や雑談、軽い噺でさっと高座をおりるところしか見たことがなかったので、面食らった感じです。

乱暴者のらくだがフグの食中毒で死んだところを兄貴分が長屋で発見するところから噺は始まります。偶然通りかかった屑屋を強請って、長屋から香典を集めさせたり、大家の家にらくだの死体を運び込ませて、かんかんのうを踊らせ、通夜のための食事を用意させるなどやりたい放題。しまいには棺桶がないから、八百屋から漬物樽まで持って来させる始末。恐い兄貴分に怒鳴られて言うことを聞くしかない屑屋が不憫過ぎて、その様子を演じる姿に思わず感情移入してしまいます。また、長屋でらくだがどれだけ嫌われ者だったかの様子の描き方も良いです。屑屋さんが、「らくださんが」と話し出すと、その話はたくさんだとばかり突っぱねるのに、死んだとわかった途端、「良いねぇ」といって態度を急変させるところが面白かったです。

噺はどんどんテンポ良く進んでいき、弔いの準備が済んで屑屋が帰ろうとすると、兄貴分に酒をすすめられます。最初は嫌々飲んでいたのに、三杯目あたりから屑屋が酒に酔ってどんどん狂気じみていきます。兄貴分と立場が見事に逆転していく様は見事でした。そして、らくだを漬物樽に入れて火事場まで運んでクライマックスへと向かっていくのですが、いったいどうなるんだろうと最後までハラハラしました。らくだを生で聴いたのは初めてだったのですが、聴き応えがありました。小痴楽師匠の人物描写がすごくリアルだったからでしょう。乱暴者の兄貴分がドスのきいた声で凄むところや酒に酔う屑屋の演じ方がすごかったです。

主な出演者(敬称略)

柳亭明楽

小痴楽師匠の弟弟子です。最初話し方がたどたどしくて大丈夫かな?と思ったのですが、見事に裏切られました。あのとぼけた感じはどこまで計算でやっているのでしょうか。顔がコワモテなのと、淡々とした調子とのギャップに思わず笑ってしまいます。時折ぼそっとつぶやく「今日は不思議と沈黙に耐えられるなぁ」の間とタイミングが絶妙。粗忽の釘をやられていて、そそっかしい人が出てくる古典落語の定番といってもよい噺なのですが、明楽さんの醸し出す雰囲気によって、また新鮮なものを見せてもらった感じです。

かけ橋さん
元々落語協会で柳家三三師匠のお弟子さんだったのですが、落語芸術協会に移り春風亭柳橋師匠に弟子入りしたそうです。前座修行からやり直して今年の4月に二つ目に昇進し、この興行は披露目の場でもありました。筋トレが趣味らしく、私もジムに通っているので親近感があります。
高座にかけた強情灸は、江戸っ子どうしの意地の張り合いの噺。お灸がだんだん熱くなって我慢できなくなっていく男の仕草が見どころです。灸を左腕にのせる場面で力こぶを見せるという演出は、かけ橋さんのパーソナリティを活かしていて面白かったです。このポーズは後の出番の噺家さんたちがしきりにくすぐりに入れていました。

笑遊師匠
高座に上がってしばし沈黙している姿だけで笑ってしまいます。そして「若いって良いね」とぼそり。今日の高座も最初のやる気がない感じから、どんどんヒートアップしていく師匠の持ち味が出ていました。
やっていたのは「片棒」。自分が死んだ後を心配する旦那が、自分の3人の息子を一人ずつ呼び寄せてどんな弔いをしてくれるかを聞いていくのですが、通夜を2日間やるとか、山車や神輿を出そうなどとんでもないアイデアばかり。旦那のカラクリ人形が動く仕草、お囃子をやる様子がバカバカしくて大笑いしました。旦那が息子を一喝するところも面白いです。また、一人目の長男が、旦那から自分の弔いをどうするか聞かれて、ちょっと嬉しそうにニヤニヤしてるところは地味ですが、個人的に好きでした笑。

立川吉笑 ぷるぷる
演目は「ぷるぷる」。ゲスト枠での出演でした。演目名だけ聞いたことがあったのですが、高座で拝見するのは初めて。小痴楽師匠のラジオの宣伝に絡めたマクラを話して、噺入った途端、リップロールという唇をぷるぷるさせながら、話し出したのが衝撃的過ぎました笑。
噺は松ヤニを間違って舐めてしまったがために唇がくっついて話し方が変になってしまうという馬鹿馬鹿しい噺。発想もさることながら、ずっと唇をぷるぷるさせながら話すのは、芸の域に達しています。唇をぷるぷるさせながら恋の相談をし始めるところなどは滑稽で笑いました。最初は何も聞き取れなかったはずなのに、不思議とだんだん話していることが客席にもわかってきます。そのタイミングを見越したかのように吉笑さんが「意外と慣れてくるな」と絶妙な一言を入れて来るので爆笑しました。

春風亭昇羊
二つ目交互出演の枠。ジャニーズにいてもおかしくないイケメンでした。演目は「2階ぞめき」。番頭が吉原通いが好きな若旦那を諫めると、「うちの2階に吉原があれば、通うのをやめる」と言い出し、実際に作らせます。ただ、街並みは作ったものの、人が誰もいないので、若旦那が一人で妄想劇を繰り広げる様子を描きます。若旦那のキャラクターが明るくて良いのと、着物のたもとがない理由を番頭に聞かれて説明するくだりでの手の仕草が面白かったです。ぜひ新作も見てみたいです。

三遊亭遊雀 
「熊の皮」を演っていました。開口一番「昇羊さん、良いじゃんねえ」で笑いをとった後早速噺に入ります。噺の中の人物に「もう噺に入んの?」「若いのに負けてらんないからな」の流れも地味に好きです。噺は、隠居のところに赤飯をいただいたお礼をおかみさんが亭主にさせにいくというもの。隠居さんの前でとんちんかんなお礼の挨拶をし始める亭主のやりとりがおもしろかったです。
遊雀師匠の寄席でかけるネタの中で今のところ1番好きです。


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