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新宿末廣亭7月夜席~神田松鯉主任興行

毎年恒例となっている、松鯉先生の怪談興行に行ってきました。数年前に末廣亭の同興行を初めて観た時、ホラー映画やお化け屋敷とはまた違った、背筋がゾッとする怖さを演出する松鯉先生の語りと寄席の演出に感動したのを今でも覚えています。それ以来、先生の怪談興行は毎年行くようになりました。

今夜の演目は、日本の怪談噺の定番、東海道四谷怪談から「お岩誕生」。その名の通り、有名な「お岩さん」の出生譚です。

松鯉先生が毎回マクラで話されるのですが、この興行が始まる前に、祟りなどが起きないよう必ず神社にお参りに行くのだそうです。そういった話を聞くと、怖さが増しますね。

特に印象に残ったのは、飯炊きの伝蔵が奉公先の高田大八郎が殺した伊勢屋重助の死体を発見したことをきっかけに、大八郎に殺されそうになるシーン。自分が借金で首が回らないからと借主で有る伊勢屋を殺しておきながら全く悪びれもせず、隠蔽のため伝蔵まで殺めようとする大八郎の得体の知れない恐ろしさを感じました。また、「自分が死んだら妻のおみつやお腹の子が路頭に迷うから、命は助けてほしい」と懇願するシーンも松鯉先生の迫真の語りに引き込まれました。

ここから先は、寄席の怪談噺にこれから行ってみようという方にはネタバレになってしまうのですが、幽霊が出てくる場面の演出がまた良いんですよね。



伊勢屋の妻の幽霊が伝蔵宅に運び込まれた夫の亡骸を求めて、伝蔵が留守中のおみつを訪ねる場面になると、高座も客席も急に照明が落とされ真っ暗になり、青白い光に照らされた松鯉先生の顔だけが浮かび上がるんです。そして、ドロドロドロという太鼓の音が怖さを引き立てます。今日のお客さんは初めての方、女性の方が多かったためか、所々から悲鳴が聞こえました。(私も何も知らずに初めて怪談興行に行った際に不意打ちをくらって、めちゃくちゃびっくりしました笑)通常だと、前座さんが幽霊役(幽太)の格好で突然出てきてお客さんを驚かせるのですが、コロナ禍の感染対策のため、それが観られないのがちょっと残念です。

そして、先生の「げにおそろしき執念じゃなあ」の文句と共に拍子木がなって終演となりました。ここで客席もほっと胸を撫で下ろします。

今日の興行は客層が若く、良く笑うお客さんが多かったように思います。雰囲気がここ最近で一番良かったと感じました。

また、出演者も個人的に好きな方たちばかりでした。

三遊亭萬橘師匠は、マクラから気合全開。「代書屋」では、恋文の代筆を頼むパターンは初めて観ましたが、それが落ちへの伏線にもなっていて、非常に面白かったです。

仲入前の出番だった伯山先生はマクラをいれずにサラッと「五貫裁き」の一席で客席を爆笑させていました。仲蔵などのしっかりした長講も好きですが、「鼓ヶ滝」を初め滑稽噺も本当に面白くて、そこに出てくるキャラクターも好きです。

阿久理先生は「柳沢昇進録」から歌合せの一席。伯山ティービーをきっかけに先生の人柄を知ってからますます好きになりました。修羅場や聴かせどころでの力強い語りも良いですが、女性講釈師とあって、女性を演じたときの可愛らしさも格別です。柳沢が御前に現れた際の女中に「中川大志みたいにイケメン」と言わせてみたり、ちょっとしたクスグリも面白いです。

ヒザ(主任の前の出番)で出演されていたボンボンブラザーズのお二人は、毎回見ていてほのぼのする空気を作ってくれる寄席に欠かせない存在です。今日は桟敷席に座っていた若い男性が繁二郎先生の投げる帽子をうまく頭でキャッチしたところで客席が大いに沸きました。

最近つらいニュースばかりで気が滅入っていましたが、寄席の空間はそれを忘れさせてくれる私にとって大切な場所だと改めて感じました。

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