『Olivier』 〜1993年 フランス人の男〜 vol.11
「重慶大厦」とドライバーが言った。
巨大なビルの前でタクシーは止まった。
男がドアに近づいてきて「Happy Dragon?」と微笑んだ。
安宿なのに出迎えがあるなんて! と少し心が弾んだ。
男についてビルに入り階段で6階に上がった。
部屋に入る直前に「友達が先についているはずだけど」と話すと、男は眉をしかめて首を振り「Go!」と低い声で言った。
「What?(えっ?)」
「Go!(出ていけ)」
そこは『Happy Dragon』ではなかった。
僕はその男に騙されていた