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「SLOW MOVE」5ごはん


教室で一緒にお弁当を食べていた友達が「うちのお母さん料理あんまり上手くないんだよね」というのを聞いてあ、うちの母の料理はおいしいんだ、と高校生にして初めて気がついた。
お母さんといういきものはみんな当たり前に料理ができるものだとその時まで思っていたし、お父さんといういきものは料理をしないものだとも思っていた。
だけど父はある時期から料理をするようになった。
性格が滲み出ているようなそんな、とても几帳面な料理を作る。
逆に母の料理について、母らしいとかどうとかそんなことを考えたことが一度もなかったのは、きっと母の料理が当たり前過ぎたからだろう。


毎日大体一人でごはんを食べている。
一人でごはんを食べている時、ふと、今自分はすごくだらしない顔をして食べてる、と思う。ふとそう思って、嫌だ嫌だ早く食べてしまおうとお皿の上のものをどんどん口に運ぶ。鏡を置いて食べるわけじゃないから実際にどんな顔をしてるかはわからないのだけど、多分、そう。
おいしいものを食べられる時はうれしいと思うけど、お腹が空かなければいいのに、と思うことも多い。何を食べるか考えるのが嫌で毎日永遠と同じものを食べてしまう。食べることへのやる気のなさが、顔に120%出てしまっている気がする。
おいしい料理を食べさせてもらって育ったし、小さい頃は料理もそこそこ好きだった気がするのだけど、なぜこんなに食べるものに無関心になってしまったのか。
お金もないしキッチンもないというおかしな時代が昔あり、毎日コンビニのパンを1つだけ食べていた時期があったけど、あまり不満ではなかった。それよりも着たい服が買えないことの方がよっぽど悲しくて泣きたくなるほど嫌だった。適当なごはんでも生きていける気がするけど適当な服では生きていけない気がする。

とにかく、とにかく、食事中はわたしの前に鏡を差し出さないでください・・・


かと思えばお腹がいっぱいなのに永遠と食べ続けてしまうこともある。
最近読んでいた本の中に、研究者の熊谷晋一郎さんが過食について言ってる部分があった。
過食をしている時は、食べているものの情報やもうお腹がいっぱいだとサインを出している内臓の情報を無視してただ食べ続ける。ごはんを食べることはインプットのようだけど、別のエネルギーをぶつけるためのアウトプットなんじゃないか、というようなことが書かれていた。(ちょっとわたしには難しい本の流れの一部分なので読み取り方が違うかもしれない。「〈責任〉の生成ー中動態と当事者研究」という本です。)
その感じはわたしの感覚にもものすごく当てはまると思いすごく納得した。無闇にものを食べ続けている時は確かにものすごくアウトプットという感じ。自分は食べたいんじゃなくて、もっと別の欲望を食べるというお手軽な行為にスライドさせて実行しているような、そんな気がした。それを運動でやる人もきっといるんだろう。
よくよく考えると、何かを取り込むという行為は体側からするとまぁまぁ大ごとな気がするけど、なんでこんなにも気軽にできることなんだろう。生物的にはそうじゃないと厳しいのかもしれないけど、食にやる気のない自分のようなものはすぐにぽいぽい適当なものを体に入れてしまう。
食べるって難し過ぎないかな。


それでも最近はちょっと食事に気をつけている。
なんとなく体が重くて嫌なのと、もう少し痩せた方が気分が良くなりそうだ、と思ってやっていて、教えてもらったアプリで毎日記録もつけている。どんなものを食べたかと体重。でも大体毎日おんなじもの食べてるから、記録するのもばかみたいに感じることもある。
ちょっと痩せるぞ、という気分は定期的にやってくる。
その気分になればわたしはこういうのを一年とかそれなりの期間継続することができるけど、ふとした時に、もしくはゆるゆるとそういう気分が消えていって、また訳もわからず食べる時期がやってきて元に戻ったりする。
食べるのが面倒なのに食べたり、食べすぎて調整したり、こういうのはいつまで続くんだろうと思うとうんざりしてくる。
先日人にメイクをしてもらう機会があり、いつも眉毛が上手く書けません、と言ったら「人類の永遠の課題よ〜」と返ってきた。
食べることも永遠の課題なのかもしれない。睡眠を永遠の課題だと言った人もいた。


矢野顕子さんの「ごはんができたよ」という曲が好き。
なんで好きかを言葉にするとすると、「ボールが見えなくなった とうさんも帰る頃さ」という歌詞がいつも「ゴールが見えなくなった とうさんも帰る頃さ」に聞こえてきて、自分の父を勝手に想像して勝手にしんみりしてしまうところ。そこが好き、というのも変な話だけど、いつもその部分が気になってしまう。実際には存在しない歌詞のこと。
「ごはんができたよ」の中でもごはんを作っているのはお母さんだった。


取り留めのないごはんについてのこと。



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