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佐竹雅昭自伝「まっすぐに蹴る」を読んで。

佐竹雅昭氏の自伝「まっすぐに蹴る」は、日本の格闘技界を代表する一人の選手の波乱万丈の人生を描いた、非常に興味深い作品です。空手から始まり、K-1、PRIDEと様々な舞台で活躍した佐竹氏の生き様は、格闘技ファンのみならず、多くの読者の心を打つものがあります。

本書の特筆すべき点は、佐竹氏の率直さと誠実さです。彼は自身の栄光の瞬間だけでなく、挫折や苦悩、時には恥ずかしい経験までも包み隠さず語っています。これは単なる英雄譚ではなく、一人の人間の真摯な人生の記録であり、そこに本書の大きな魅力があります。

佐竹氏の格闘技人生は、まさに日本の格闘技の発展の歴史と重なります。空手から始まり、キックボクシング、総合格闘技へと、彼自身が常に新しい挑戦を続けてきました。その姿勢は、「闘志天翔」という言葉に集約されています。この言葉は、佐竹氏の生き方そのものを表していると言えるでしょう。

特に印象的だったのは、K-1での活躍です。佐竹氏は、K-1の黎明期から参加し、その発展に大きく貢献しました。1994年のK-1グランプリでの準優勝は、日本人選手として初めての快挙でした。しかし、彼はその栄光の裏で、過酷な減量や怪我との闘いがあったことを赤裸々に語っています。これは、トップアスリートの苦悩を知る貴重な証言となっています。

また、佐竹氏のリーダーシップも注目に値します。彼は単に強い選手であっただけでなく、後輩の育成や組織の運営にも尽力しました。特に、K-1ジャパンの選手たちへの厳しくも温かい指導は、彼の人間性の深さを感じさせます。

佐竹氏の人生には、多くの転機がありました。特にPRIDEへの参戦は、彼にとって大きな挑戦でした。立ち技の選手として名を馳せた佐竹氏が、35歳にして総合格闘技に挑戦するという決断は、多くの人を驚かせました。そこには、常に新しいことに挑戦し続ける佐竹氏の姿勢が表れています。

本書では、佐竹氏の私生活についても触れられています。特に、父親の闘病と死は、彼に大きな影響を与えました。これらの経験を通じて、佐竹氏の人間性がより深みを増していったことが伝わってきます。

佐竹氏の格闘技に対する哲学も興味深いものです。彼は単に勝つことだけを目的とするのではなく、常に「武道家」としての精神を大切にしてきました。これは、現代の格闘技界において貴重な視点だと言えるでしょう。

本書の中で特に印象的だったのは、佐竹氏の頭蓋骨陥没の怪我についての記述です。この重傷を乗り越えて再起を果たした彼の精神力には、読者も大きな勇気をもらえるはずです。

また、佐竹氏の女性観や結婚観についての記述も興味深いものでした。彼は結婚よりも自身の修行を優先する姿勢を貫いていますが、それは単なる独身主義ではなく、彼なりの人生哲学に基づいた選択であることが伝わってきます。

本書の後半では、佐竹氏の新たな挑戦である「打撃道」の構想が語られています。これは、彼のこれまでの経験を集大成したものであり、次世代への継承を目指すものです。ここにも、常に前を向いて進み続ける佐竹氏の姿勢が表れています。

全体を通して、佐竹氏の誠実さと謙虚さが印象的でした。彼は自身の成功を誇るのではなく、常に感謝の気持ちを忘れず、また自身の限界や弱さも認めています。これは、真のチャンピオンの姿勢だと言えるでしょう。

本書は単なる格闘技の本ではありません。それは一人の人間の成長と挑戦の記録であり、読者に多くの示唆を与えてくれるものです。佐竹氏の「まっすぐに生きる」という姿勢は、格闘技の枠を超えて、多くの人々の心に響くものがあるでしょう。

特に印象的だったのは、佐竹氏がK-1を「仕事」と表現している部分です。多くのファンにとって華やかに見えるK-1の舞台裏で、彼が常にプロフェッショナルとしての自覚を持ち、時には過酷な状況に耐えながら闘い続けてきたことが伝わってきます。

また、佐竹氏のマスコミとの付き合い方についての記述も興味深いものでした。彼は自身に関する記事を読まないようにしていたそうですが、これは彼の精神的な強さと、自身の信念を貫く姿勢の表れだと感じました。

本書では、佐竹氏の人間関係についても多く語られています。特に、石井和義館長との複雑な関係は、読者に様々な感情を抱かせるものでしょう。佐竹氏は石井館長に対して批判的な部分もありながら、同時に感謝の気持ちも持ち続けています。これは、人間関係の複雑さと、成功の裏側にある現実を示しているように思えます。

佐竹氏のキャリアを通じて、日本の格闘技界の変遷も見て取れます。空手から始まり、K-1、そしてPRIDEへと、彼の活躍の場は常に最先端にありました。これは、彼自身が常に進化し続けてきたことの証でもあります。

本書の中で、佐竹氏は何度も「修行」という言葉を使っています。彼にとって格闘技は単なるスポーツではなく、人生そのものであり、自己を磨く手段でもあったことが伝わってきます。この姿勢は、現代のスポーツ界にも大きな示唆を与えるものではないでしょうか。

佐竹氏の政治への関心についての記述も興味深いものでした。彼は武道の精神を社会に広めるために、将来的に政治の世界に進出することも考えているようです。これは、彼の社会貢献への意識の高さを示すものだと感じました。

本書を通じて、佐竹氏の人間性の深さを感じることができました。彼は強さを追求しながらも、常に謙虚さを失わず、また他者への思いやりを忘れていません。これは、真の強さとは何かを考えさせられるものです。

最後に、佐竹氏の将来への展望が語られています。彼は自身の経験を次世代に伝えることを使命と考えており、そのために新たな挑戦を続けようとしています。これは、彼の格闘家としてのキャリアの終わりではなく、新たな始まりを感じさせるものです。

「まっすぐに蹴る」は、単なる自伝を超えた、一人の人間の生き様を描いた貴重な記録です。佐竹雅昭氏の人生は、常に前を向いて挑戦し続けることの大切さ、そして自分の信念を貫くことの重要性を教えてくれます。この本は、格闘技ファンはもちろん、人生に迷い、悩む全ての人々に勇気と希望を与えてくれる素晴らしい作品だと言えるでしょう。

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