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「最悪なる災厄人間に捧ぐ」プレイ感想

Switch版、だいぶ前にセールで買っていたのを今になってプレイ。
以下、核心には触れないですがシナリオの大枠やゲーム内容に言及していますので、今後プレイする予定のあり事前情報をなるべく入れたくない方はバック推奨で。

一週間くらいかけて、じっくり読みました。シナリオ100万字、40時間以上という謳い文句は伊達じゃなかったです。

率直な感想としては「よくまあこんな難しい物語をきちんと最後まで描き切ったな」と。
全ての人間が見えなく、聞こえなくなってしまった災厄人間「豹馬」と、全ての人間から存在を知覚してもらえなくなった透明人間「クロ」のふたりが偶然出会い、彼らに降りかかる大きな災厄を乗り越えようとする。災厄の原因を探りそれを避けるため依存・協力する中でふたりの関係がどうなっていくのか、がシナリオの肝だが、主人公達の設定からして相当難しいテーマであるうえに、基本的に登場人物はふたりでビジュアル的な変化に乏しいため、プレイヤーが退屈に感じるリスクもある。よほどシナリオでプレイヤーを飽きさせない工夫がないと、長い話を引っ張って最後まで読ませるのは難しかっただろうと思う。
不安な冒頭に始まり、様々な困難を乗り越え、ふたりの行く末に希望が灯るものの切なさ一杯のラストまで、充分に楽しませてくれたシナリオに素直に拍手を贈りたい。

話の展開としては、いくつものパラレルワールドを行き来しつつタイムリープも繰り返しながら災厄の原因を探り立ち向かうという、魅力はあるが若干手垢がついたものである印象も否めず(個人的には大好きなテーマだけど)、広げた風呂敷をうまく畳めないと目も当てられない、という難しさもあっただろうと思う。しかしパラレルワールドのそれぞれの「クロ」の性格付けや起こる事象の相違、少しづつ深まる謎、そして世界を俯瞰する存在や、パラレルワールドを移動する意外な方法など、飽きさせない工夫が随所に見られ、また、物語の折り返し点からの「復路」では世界の謎が明かされ災厄が少しずつ解決していくカタルシスもあり、そして残酷なドロドロした話でありながらも最後にはすべての主要キャラクターに一定の救済がなされるなど、読後感は決して悪くなかった。

特に、トゥルーエンド後の追加シナリオでは、「災厄の原因」側の視点から再度トゥルーエンドが描かれるのだが、それまで頼りになると思っていたあるキャラクターの意外な一面が明らかになりある意味恐怖すら覚えたりもする。しかしそれも踏まえたうえで「災厄の原因」側にもある意味救いのある結末が用意される、という納得のいくラストであり、自分的にはあの追加シナリオも含めてこそのトゥルーエンドだと思っている。

豹馬やクロがその境遇に至った経緯などに若干ヘヴィーな描写はあるものの、「レイジングループ」「ひぐらしのなく頃に」「シュタインズ・ゲート」などが好きな人には自信をもってお勧めできるタイトルであるといえます。
災厄が起きる複数の世界とそれを上位層から見下ろす超越者が存在するという世界観はひぐらしのそれを彷彿とさせるし、それまでの経験をもとに各パラレルワールドでの災厄を解決していくという展開は「シュタインズ・ゲート」の後半を彷彿とさせるものがあり、両作とも大好きな自分にとってはなかなか胸熱な展開でした。

最後に一点だけ、本作を「ゲーム」として見たとき残念だった点を。
本作を手に取ったとき、5人の「クロ」が存在するパラレルワールドを行き来することによって物語が展開する、という情報は得ていたし、平行世界を並べた時系列チャート(世界観の理解には大きく役立った)もあったりしたので、サウンドノベルの名作「街」のように物語の途中でプレイヤーが任意に平行世界を行き来してフラグを立てたりして謎を解くような展開もあるのかと期待していたのだが、シナリオとしては世界を行き来することも含めて完全に一本道であり、バッドエンドへの分岐はあったものの、基本的にプレイヤーが考えて謎を解くといった要素が全くなかったのは少々残念ではあった。
ただこれは個人の高望みであり、シナリオ展開上決まった順番で世界をなぞっていかねばならないストーリーであったため、そういうゲーム的要素は切り捨てたというのは結果的に正解だったとは思う。

「世界の構造と止まない災厄に絶望しながらも、現象に、世界に抗い、わずかな可能性に賭けて何度も挑戦する」、そんなシナリオがお好きな方、この「災厄世界」で唯一姿を見ることのできる「クロ」と二人きりの時間にいっとき没入するのも悪くないと思います。
おススメです。

最悪なる災厄人間に捧ぐ 公式サイト
https://www.kemco.jp/game/sss/index.html

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