SINIC理論が示す意図とメタファー 〜SINIC理論研究会#2〜
私が世話人として参画している経営実践研究会ではいくつかの専門的な分科会を立ち上げています。その一つがオムロンの創業者、立石一真氏が50年前に未来学会で発表し、その精度の高さが未だに取り沙汰され、単なる予想や預言の域を超えていると近年、大きな話題になっているSINIC理論の研究会です。そこで示された、実際に現在起こっている時代の大転換が生み出す最適化社会へのシフト、これから起ろうとしている自律社会への変容を民間の実業を行っている経営者が集まって、シンクタンクとなり社会実装のための思考や概念、そして行動への指針を探る取り組みです。
在るべき世界への強い意図
実は、私は5年ほど前にSINIC理論に触れる機会があり、オムロン社のシンクタンク、ヒューマンルネッサンスの中間氏の対談などのイベントにオンラインで参加していました。社会と科学と技術がお互いに刺激し合い、それぞれが発展し、螺旋的成長を伴って世界が成熟していくはずだとの予見はリアリティーを感じると共に、閉塞感に包まれた今の世界に一条の光を見出す希望があるように感じて一気に引き込まれました。その未来予測が正解であるか否かではなく、立石一真氏が見ていたのは在るべき世界への強い意図だと感じたのです。あまりにも深く共感したので、2年前の新型コロナによるパンデミックが世界を巻き込んだタイミングで編纂し直した私が代表を務める株式会社四方継の知的資産経営報告書にはSINIC理論の図を掲載し、世界の流れ、時代に変遷に対応して私たちも変化変容を続けていくとの意思を示しました。
直接の事後承諾
昨年、中間氏が改めて上梓された書籍「SINIC理論」にもその定義を「科学が技術の種になり、技術は社会を革新する。社会は技術に新たなニーズを与え、技術はその社会的価値によってさらなる科学の発展に刺激を与える。そのような円環的な技術革新の進化」と書かれており、その原動力は人間の欲望や意欲だと示されています。その意欲が善なるのを感じて強く共感した次第です。ちなみに、SINIC理論の研究を進められているヒューマンルネサンスの代表であり、オムロン創業者の立石一真氏のお孫さん当たられる郁雄氏が今年から経営実践研究会のアドバイザーにご就任頂きました。私たちが開催するフォーラムや会議にも頻繁に足を運んで頂いており、食事の席で同席させて頂く機会が何度もありました。その際、上述した弊社の知的資産経営報告書にSINIC理論の図を無断で拝借している件を謝罪したところ、全く問題ない、使ってくれて嬉しい。とまでの嬉しい事後承諾の言葉を頂きました。まさかご本人にご了承頂ける機会に恵まれるとは思っていなかったので、本当に嬉しい体験でした。
未来を考えるということ
話は戻って、先日、第二回目のSINIC理論研究会が行われました。この研究会では書籍「SINIC理論」を読み解きながら、地域企業の実務者がそこに書かれてある未来予測と、あるべき姿を目指す強い意思を読み解き、社会実装への具体的なアクションにまで落とし込み、それを広く伝播することを目的に掲げています。その成果を来年のソーシャルシンポジュウムで発表する予定になっています。前回の第一回目に目的と行動を明確化するキックオフを終えて、チームごとに分かれて今回から各章を読み解きながら、メタファーを抽出し問いを立て、社会実装を実現するための概念をまとめていく作業に入りました。
今回、「第一章 未来を考えるということ」についての要約と解説の発表を聴いて小グループでディスカッションを重ねました。様々な業種業態の経営者が集まって感想やフィードバックを重ねる時間は一人で本を読んで感じることのない新たな視点や論点が次々と見出され、非常に有意義で学びの深い時間になりました。経営者の学びの場とはこのような場であるべきだと感じて、稀有な機会に恵まれたことが本当にありがたく思った次第です。
原理原則からの立脚
私が第一章を読んで最も強く感じたのは、根幹が原理原則に立脚しているとの点です。直接の言葉では表されていませんが、SINIC理論が示しているのは、未来は発展進化したあるべき世界であり、それは社会と科学と技術が融合して出来る状態が生み出すしかありません。「状態管理」という概念は原理原則系マーケティングの世界で最も重要視されてきた法則ですが、あるべき世界、理想を求める志向とその実装の羅針盤とされるSINIC理論はそこを根幹に押さえていると感じました。もう一つは地球は有限であるとの原則です。無限の成長への疑念と不可能の論理的視点を持たれているからこそ、私は直感的に強く共感したのだと納得しました。
メンバーとのディスカッションの中で出されたのは、時間軸を長期で見て未来を予測、あるべき未来からの逆算がされているとの、西洋的な短期で成果を追い求めるのではない在り方があるからこその理論であるとか、高度成長期の時代背景を鑑みて、敗戦国から復活し世界と勝負して勝ちたい。との強い想いが反映されているのではとの仮説も飛び出しました。また、人文科学と言われる精神社会と物質世界を繋ぐ概念であり哲学があることが現代への親和性を高めているとの意見、その原体験がオルティナブル医療でありホリスティック思考との言及が書籍にあったことを思い出し、再度腹に落ちました。
P/PCバランス×弁証法×神道
そんな研究会での議論を踏まえて私が改めて気付かされたのは立石一真氏が胸の奥に置いていたナショナリズムであり、表面的にはあまり表現されていない日本人としての精神性です。世界を見渡しても稀な多神教の国であり、あらゆるものに神が宿る八万の神の国の文化が、人の営みの集合体である社会と、あらゆる事象から論理を研ぎ澄まし新たな真理を具現化する知識体系の科学、そのアウトプットとしての技術の相関的関係を紐解き、未来への指針として体系化できたのではないかと感んじました。
SINIC理論とは日本的感性や多神教の共生の文化としての神道的な思考と相対するものから新たな答えを生み出すアウフヘーベン、円環的成長を示した弁証法、そして原理原則論として一般的に受け入れられるようになったP/PCバランスを掛け合わせたことによって圧倒的なリアリズムを備えることが出来たのではないかと想像しました。そこにあるのはシンクタンクの法人名にもなっている通り、人の心を科学する、人間回帰のヒューマンルネッサンスであり、現代のHCD(人間中心設計)から UXD(ユーザー体験設計)へと流れてきたデザインの先鞭をつけていたのだと気付かされました。
SINIC理論研究会はまだ始まったばかりでこれからです。死人に口なし。と言いますが、出来ることなら立石一真氏の意図を読み解き私たちが社会実装することで、その遺志を具現化の一助になれば幸甚の至です。
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未来を想像し、創造する若者の育成に取り組んでいます。
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