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ないものはない

人生に気づきを与え、豊かな価値あるものにしていくのに必要なのは、人との出会いと旅と本である。と言われたのは現代の知のの巨人とも称されるライフネット生命のファウンダーでもある出口治明さん。私のこれまでの50数年の人生を振り返ってみても、人との出会いで人生を大きく変えてきたし、1冊の本からの学びで仕事だけではなく、あり方そのものを見直すきっかけを得たりもしました。また、事業を始めてから大きな転機を迎える際はいつも(研修や合宿も含めて)遠くの地に足を運んでいた気がしています。純粋な旅とは少し違うかもですが、出口さんが言われる事は、なるほど確かにその通りだと少なからず思います。そして、その中でも旅での気づきはその他の2つとは少し違うような気がしています。

西表島の空と海

人との出会い、本、そして旅

人生を変える。と言われる人との出会い、先人の経験を間接的に得られる本での学びと旅での気づきの大きく違うところは日常の中にチャンスが潜んでいないと言うことです。旅に出ていつもの日常と違う時間を過ごし、違う世界を見ることで発見したり気づきを得たりするのは不思議なことではありませんが、まずいつもの暮らしを抜け出すアクションを自ら起こす必要があります。そして、旅はレジャーや娯楽と同じように目されがちで、単なる楽しみと捉えられがちなゆえに後回しにされることも少なくないと思うのです。また、旅に出ると言うのは日常のルーティーンを崩してしまうことでもあります。あらかじめ予定している休暇を活用してバカンスに行くのはそんなにハードルが高いわけではありませんが、日常生活の中で時間を作って旅に出るのは決して簡単ではありません。しかし、少々無理をして時間を作る位の方が貪欲に意欲的に時間を有意義に過ごそうと意識する分、気づきや学びは多いように感じています。

サガリバナ

悟りや気づきは大自然の中にあり

今回私は、沖縄県の離島、石垣島と西表島に初めて行ってきました。最近、沖縄の人や企業との交流が増えてきており、業務提携の案件があったり、沖縄ではありませんがリゾート施設の開発に携わるなど、仕事を含めた様々な絡みもあって、半期の決算前の忙しい時期ではありましたが、スケジュールを繰り合わせて行くことにしました。日本の固有種であるイリオモテヤマネコが発見されたことで有名な西表島は未だにコンビニエンスストアもなく、タクシーもほとんど走っていない離島で、都会の便利な暮らしとは真逆のいわゆる何もないところです。今回、人の手の入ってない山奥に分け入って大自然に触れることで、先日から私が所属している実践研究会のコミュニティー間で話題に上っていた「ないものはない」と言う概念について、なるほど。と気づく瞬間がありました。古の修行僧や修験者が厳しい自然の中に入って修行や鍛錬を繰り返し悟りを開いたとよく耳にしましたが、確かに大自然には不思議な力があるのかも知れません。

ないものはない

「ないものがない」と言う言葉には日本語ならではの様々な意味が含まれます。文字通り、ないんだから致し方ないと言う開き直りやあきらめを促す言葉でもありますし、一見、何もないように見えるが、本当に必要なものは全てあるからないものはないと言う逆の意味に捉えることも出来ます。そして、ないものはないし、あるものはある、ただその事実だけを受け入れることが肝要であると言うあり方を示していたりもします。都会に暮らし、煩雑な日常を過ごしていては感じられない「ないものはない」と言う観念を未開の地の大自然の中に身をおくことでなるほど、こういうことかと腹の底で理解できたような気がします。それは「無い」と言う不足や枯渇、足らずの感覚を持つことで、それまで感じていなかった「ないもの」が生まれ、その感覚を消し去るもしくはそもそも感じなくなればないものはなくなると言うことです。

炭鉱跡のガジュマル

幸せを知ること

禅問答のような小難しい言い回しになってしまいましたが、端的に言い換えれば、人の幸せを考えたときに、足るを知ると言う感覚や感性が非常に大きなファクターとして存在すると言うことを体感したということなのだと思います。西表島でネオチャーガイドをされている方々と話をしてみると、9割方は地元の人ではなく本土から移住してきた移住者がこの島の神秘的な場所を案内しているとのことでした。全てがあると思われている都会での暮らしを捨てて、何もないと思われている離島に暮らす選択を自ら行った人たちは全員が「ないものはない」のを理解されているのではないかと思いました。農業と漁業しかほとんど産業がない離島、しかもそもそもは縁もゆかりもない土地に暮らすのはそんなに簡単な決断ではないと思います。由布島で出会った女性は、西表島が好きで20年間通い詰めた挙句、最近になってやっと移住してきたと話されていました。それはこの島にそれだけの魅力があるということでもあるし、20年間も決断できなかったということでもあります。本当に「ないものはない」のだと肌感覚で掴めた時に行動に移したのかも知れません。足るを知ることで幸せな暮らしを手に入れたのかな、と感じた次第です。

夜明け前のマングローブの森

旅が人生を豊かにする。

近年になって、私は仕事の絡みもあって毎年数回、屋久島や沖縄、台湾などの南国に足繁く通うようになりました。以前から未開の地として生物学会でも大きな注目を浴びていた西表島にも行ってみたいとぼんやりと思っていましたが、実は私が西表島に興味を持つようになったきっかけがもう一つあります。それは「波の上のシネマ」という昭和初期から戦後の私が生まれたくらいまでの年代を時代背景にした小説の舞台に西表島が出てきていたことで、尼崎の少年が半ば騙されて炭鉱夫として連れてこられて地獄のような強制労働に従事させられ、脱走を試みるくだりで深く漆黒のマングローブの森、白い砂浜、満天の星空など、細やかで躍動的な描写に魅了されたことがあります。一度、その森に行ってみたいと小説を読みながら思ったのでした。そんな想いもあって今回、ガイドさんにお願いして、普段は誰も行かないんですけどね、と言われながらも特別に炭鉱跡に案内してもらいました。そこには朽ち果てた炭鉱のトロッコ線路を支えていた煉瓦の架台がガジュマルに覆われて絞め殺されていました。そこで確かに感じたのは古今東西、あらゆる文明は栄枯盛衰を繰り返してきたし、栄えたものは滅亡する運命にあるとの現実と、最終的に全てを取り込み、受け入れ同化させる自然の偉大な強さです。人も生き物の端くれであると考えれば、人工物も自然の営みの一つ、長い時間軸で見れば結局、この世界にないものはないのだと改めて深く感じる瞬間でした。旅が人生を豊かにする。確かにその通りだと思います。
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自然の摂理に則ったビジネスモデル構築の研修やってます。


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