シンパシーでは無くエンパシーが必要な理由
金融中心、株主利益の最大化を目的とする欧米型強欲資本主義社会の行き詰まりが世界のあちこちで見られるようになっています。近年、ポスト資本主義がふつーに語られるようになりました。その中でも、これまでの株主中心の資本主義システムの次に来るのは、ボーダーレスに多くの人を中心にした人の本質的な幸せを実現する共感資本社会だとの論調が多く見受けられます。日本に住んでいたら、今の社会が平和で民主的で、誰にでも平等なチャンスがある世界だと錯覚してしまいがちですが、実際の世界は格差と分断が広がり、挙句の果てに大国が戦争を起こし、核兵器の脅威に世界中がおののいている、まるでディストピアになりつつあります。もちろん、日本も例外ではなく、その渦の中に巻き込まれていますし、格差と分断が暗い影を落としています。
AIによるマーケットの激変
資本主義社会は資本を生み出し蓄積させるマーケットの動向に支配されている、もしくはマーケットを支配できるものが全てを掌握しているといっても過言ではありません。しかし、一握りの権力者が支配するシステムは民衆のエネルギーが爆発した時に崩壊するのを歴史が証明してきました。課題は多くあるにせよ、一応、平和に社会が回っている日本の現状を見れば、すぐに今のシステムが破綻して、新たな社会システムに移行するイメージはつきにくいかもしれませんが、民意とかけ離れた政治や経済のシステムはどこかで大きな転換点を迎えるのだと思います。
企業が変わるよりも、マーケットが変わることで、その劇的な変容は顕在化するのではないかと私は思っています。デジタル革命、ICTの圧倒的な普及、その前提に立ったAIによる人が持ちえる情報量とリテラシーの異次元の変化は大きくマーケットを変貌させる可能性があると思っています。
AIが変えたのは知識リテラシー
私が授業を行っている職人育成の高校、マイスター高等学校では、様々な問いに対する回答を出す前に生徒にチャットGTPを使って下調べするように教えています。AIで情報を収集すれば、15歳の若者ても、大人と変わらない回答を持つのがベースになります。その上で、自分が思うことや感じたことを付け足して回答を述べるようにしてもらうと教師が知識を教えることなどほぼ無くなって、考え方や在り方の根本的な部分について共に考えるといった事業に変化しました。例えば、初めて建築現場に行く際の注意点を述べよ、との問いに対して、AIの回答は以下の通り。
私たちからすると当たり前のことばかりですが、15歳の若者の回答にしてはよくできていると思わずにはいられません。しかし、現代の社会ではこの程度の知識は、最低限、誰もが持っている前提になったのを理解すべきです。
情報格差のマーケットの崩壊
これまでのマーケットでのセールスとは、情報の格差を利用したものが圧倒的に多くありました。人は知らなかった、すごいものを見ると手に入れたくなるものです。逆に新しい商品やサービスをセールスに行っても、「それ、既に知ってます。」と言われれば、非常に売りにくくなります。あらゆる情報がネット上に溢れかえっており、それをAIが必要な部分だけ抽出して教えてくれる時代には、情報の格差はなくなってしまうと言っても過言ではありません。これからのマーケットの主役となる若者たちは、AIの使い方を完全マスターしていると考えれば、よっぽど特徴や強みがある商品やサービスしか売れなくなってしまいます。しかし、残念ながら特許や特別な知的財産を持っていない中小零細企業はコアコンピタンスと呼ばれるような独自の強みを持っている方が珍しく、何の特徴もない一般的な事業を行っている事業所は、全て淘汰される時代がやってくると思っています。
商売は常に信頼と信用
だからといって、大企業に全てのマーケットが寡占されるとは限りません。地域に住む人は、やはり地域への愛着を持っていたりするし、何を買うかよりも誰から買うか、属人的な価値を重要視する傾向を人は持っています。また、建築のような地域に根ざしたサービスは限定されたエリアからの選択となり、世界の情勢とは関係なく、地域に存在を認められることでビジネスが成り立ちます。意図や存在意義が明確に認識されるようになった時、共感、資本社会へ移行する入り口が見えてくると考えています。今後、論理や損得勘定、メリットとデメリットの比較のみで購買を決めるのではなく、信頼性や共感できるか等の感情に左右されるマーケットが必ず出現すると考えています。そして、人に共感してもらえるビジネスを組み立てるにはどうすれば良いか、その答えはまず、自分が共感する力(シンパシー)を身に付けることではないかと思うのです。
ちなみに、共感されるビジネスを組み立てるには?とAIくんに聞くと、以下の回答が返ってきます。AIでも共感されるにはまず共感を持ち、親身になって問題解決に励めと言います。
シンパシーの先にあるエンパシー
理屈や損得感情ではなく、シンパシーを感じてもらえるようなビジネスを組み立てることが重要である。ということでさえも、既にその答えは誰もが知るような常識になっており、特別なものではありません。共感力、シンパシーを感じたり感じられたりする程度では、結局、陳腐化し埋没してしまうことになります。あと1歩深く踏み込んで、本気で人の悩みや苦しみ、困り事に向き合い、真摯にその解決を目指すそんな姿勢がなければ生き残るのは難しいのではないかと思うのです。そんな観点から見ると、シンパシーを感じて同じ趣味趣向の人が集まるコミュニティー程度ではマーケットとしての機能は不十分で、人の心の移ろいと共に廃れます。あらゆるものが全て白日の元に晒される時代、嘘偽りだけでなく、薄っぺらい言葉も見透かされる様になります。そんな世界で持続可能なビジネスを組み立てるには、魂レベルで共鳴(エンパシー)し、響き合う同じ価値観の人が集まる共同体を構築する必要があると思っています。感情の共感(シンパシー)のその先にある魂の共鳴(エンパシー)こそ、私たちが今、学び感じ取り、実装すべき能力ではないかと思うのです。
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CSV経営の研究と共同体の再構築の実践を行っています。
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