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日本のコミュニティーバンクのリアル @京都信用金庫

昨年、オランダのトリオドス銀行が同行としては英国で初となる個人普通預金口座の開設を開始したとのニュースが話題になりました。トリオドス銀行は、融資先を社会価値や環境価値の高い事業者に限定していることで有名な銀行でソーシャルバンクやコミュニティーバンクと呼ばれる共感資本社会の新しい時代へのシフトが金融機関に広がり始めた象徴的な銀行です。日本でも、鎌倉投信などESG投資での資金運用が徐々に広がりつつありますが、まだまだヨーロッパのような広がりを見せるには時間がかかりそうです。そんな中、京都で大活躍をしていると噂になっているコミュニティーバンクを自認する京都信用金庫を訪問してきました。時代の大転換とともに銀行も変わらねばならないと熱く語られた榊田理事長のお話は、日本でも新しい資本主義への転換が進み始めたことを実感できる素晴らしいお話でした。以下に榊田理事長の講演の要点をまとめてみます。

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金融排除から金融包摂

今までの日本の銀行は融資をする取引先は決算書で判断して、基本的に小事業者、無保証、無担保、赤字決算の事業所は融資先から排除するのが通例で、晴れの日に傘を差し出し雨が降ったら傘を取り上げると言うふうに揶揄されていました。これでは業績の良い企業と苦しんでいる企業の格差が広がるばかりですし、新しく起業した事業所にはチャンスが巡って来ません。それでは地域の産業がダメになると京都信用金庫はスランプ、スタートアップ、スモールの3つのSの事業所に積極的に融資を行うことを基本方針にされたとの事でした。中小零細企業に寄り添い、提案型の金融機関としてお節介バンカーを自認して顧客に対して様々な提案を行うとのことで、昨年その模様がNHK目撃日本 にて放映されて大きな反響があったとの事でした。

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財務から非財務

榊田理事長はこれまで銀行の中心的な業務とされてきた決済+仲介を行うだけでは存在価値がないと強く言い切られました。金融機関が行うべきは財務だけではなく企業が抱える課題解決であり、多くの経営者が抱え、悩んでいる4つの課題、事業の拡大、コストコントロール、人材育成、組織活性化に対して解決できるような提案を行い、資金面の支援をすることこそ自分たちの行うべき業務だと言い切られています。最近のプロジェクト例として、コロナ禍で売り上げが打ち込んだ飲食店と操業率が下がった工場をマッチングしてお土産店やECサイトで販売する商品を開発し、脱飲食業へのシフトを後押ししたり、人材バンクの社内ベンチャーを立ち上げて顧客先同士の人材をマッチングし、老舗のDX化を支援したりと様々なプロジェクトを手がけられているとの事でした。非財務の業務を中心に活動されているというのがよくわかりました。

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業績優先から顧客優先へ

私は全く観ておりませんが、昨年、北川景子の主演で放映され、一部で話題になったらしいTVドラマ「家売る女」では、住宅営業の担当者が顧客の本質的なニーズを汲み取り、ノルマ達成を最優先にした売り手目線ではなく、買い手目線、住まい手の気持ちに寄り添い住宅の提案をすることで次々と成約を取り付ける話だったそうです。この姿勢こそが営業マンのあるべき姿だと榊田理事長が是非とも一度観て欲しいと絶賛されていました。そして、実際にその思想が現場で実践されるようにと営業ノルマを撤廃されて、これまでの評価基準を大きく変えて360度評価を導入するなど、言葉だけではなく、仕組みとして顧客優先の業務が出来るように環境を整えたとのことでした。その結果、顧客から返ってきたアンケート結果に「ずっとそばにいて欲しい営業マンです」との言葉をもらえるようになったとのことで、組織の在り方から見直し、本質的なサービスを目指されているのは本当に凄いと思いました。

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お金持ちから信用持ちに

金融機関の理事長の講演で、まさかキングコング西野君の言葉が引用されるとはよもや思いませんでしたが、これまでの金融資本主義から共感資本社会へのシフトを敏感に感じ取った施策も数多く行われていました。そのフラッグシップモデルが自社ビルを建て替えて作った複合施設、クエスチョンで、銀行業務を行うのは路面ではなく6階にして、1・2階にはコワーキングやBarを、他にもシェアオフィスや学生専用のワークスペース、大型キッチンを併設したコミュニティーフロア、会議室に大学のように雛壇になったプレエンテーションルーム、さらにビールを片手に夕涼みできる屋上テラスまでおよそ金融機関とは思えない建物で、館内の案内を受けながら、よく金融庁が許可を出したものだと驚きの連続でした。榊田理事長はこのコミュニティービルを作った理由を明確に「人と人が交流する場を作りたかった。」と言い切っておられ、ただハードを整えただけではなく、ソフト面の方にさらに注力されていました。「集い」「対話」「気付き」「共感」を生み出す場として運用されており、その中でも肝は「問いの掲示板」という誰もがなんでも疑問に思ったことを聞けるシステムを整えられていました。施設にあるQRコードを読み込み問いを投げかけると、コミュニケーターを通して200人のアソシエイトパートナーと問いを共有、48時間以内に何らかの回答が返ってくる仕組みを構築されています。全国的にも稀なオープンイノベーションの建物であり信用で繋がった人達が「みんなで寄ってたかって考える」ことで生み出される価値の実証実験の場になっているとのことでした。

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マネー資本主義から共感資本社会へ

京都信用金庫はスランプ、スタートアップ、スモールの3つのSの事業所に対して積極的な融資を行うルールを定めていると上述しました。それがこれまでの金融機関の課題に対する解決ですが、未来を見つめて4つ目のS(ソーシャル企業支援)にも斬新な取り組みをされていました。大量生産、大量消費の工業化社会は多くの社会課題を生み出しましたが、その課題の解決は消費者と供給側の両サイドの価値観の軸が変わらないと一向に前に進みません。同信金ではユヌス財団と締結されたソーシャル企業認証を独自で行っており、今後、80%の融資先をソーシャル企業に変えていく目標を掲げられています。また、預金者が預金の使われ方を選択できるソーシャルクッド預金を既に運用されており、預金者と事業者を繋げることで地域経済の活性化を後押しされていました。まさに共感資本社会の金融機関へのシフトを着実に進めておられます。

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ヘトヘトからワクワク

榊田理事長による講演の最後の締めくくりは自行の組織改革の取り組みの紹介でした。コミュニティービルを作り、ESG融資を行い、地域事業者へのプロジェクト型事業支援を実践されている背景にあるのは、対話型経営とノルマの廃止を行なう等、日本一コミュニケーション豊かな金融機関を目指して進めてきた組織改革、行員の意識改革にあるのは想像に難くありませんでしたが、その内容は私の想像を大きく超えて今回の視察研修で最も驚かされました。業種業態にかかわらず答えは全て現場にある。と言うのは経営の常識になっていますが、そこから炙り出される課題に対して向き合うのに、スピード感を上げる毎朝の経営会議と対話の多さが生み出す近い距離感、半年に一回全スタッフで行う2000人のダイアログ等はPDCAの高速回転を生み出して停滞することなく次々と新たなチャレンジに進める体制になっています。また、行内で感動の共有や人材育成のためのマイスター制度も確立されており、全店舗で70名のマイスターが弟子をとり専門知識、スキルの移転を行うことで全社的なパフォーマンスの底上げをしておられました。その他にも副業解禁や360度評価の導入等、考えつくこと全てに前向きに取り組んで榊田理事長が「理念と風土と人」だと定義された「いい会社」の実現に確実に歩みを進められていました。

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強く感じたのは可能性

今回の視察研修に京都信用金庫さんに伺って最も強く感じたのは私達が進もうとしている共感資本社会に適応した事業構築、社会課題の解決と持続可能な収益を挙げるビジネスモデルを創り上げていく方向は間違っていないという安心感です。想像を大きく超えた素晴らしいこんな金融機関が日本に生まれている事に驚くと共に本当に心強く感じました。同信用金庫は今後、大きな活躍をされるでしょうし、それは同時に地域経済の活性化に直結します。その大躍進をできることなら全国に水平展開してもらい、日本中の金融機関が本来の役割を果たし、良い社会を作るインフラとして整備されることを心から願います。そして、私達のようなローカル・スモールビジネスに取り組む事業者が京都信用金庫さんと同じ価値観に立ち、組織を変え、提供する価値を最大化して地域に貢献することで、少しずつ日本は良くなると思いますし、それが広がれば世界平和へも寄与できると思います。一人の千歩より千人の一歩。多くの仲間と共に、本業での社会課題解決を進めて行きたいと改めて胸に刻みこみました。京都信用金庫の皆様、榊田理事長、そして企画運営を担当頂いた経営実践研究会の京都メンバーの皆様、大変勉強になりましたし、気づきも多く頂きました。本当に有り難うございました。深謝。

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共感資本を集める四方良しの経営を目指しています。

建築業界の根本的課題解決に取り組んでいます。


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