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志とその実践こそが事業だろ @経営実践研究会

人生は選択で作られると言われます。人は皆、意識するしないにかかわらず、常に選択にさらされており、その1つずつの選択の積み重ねがその時々の状態を形成して結果を生み出します。そのように考えると、選択の基準になる考え方や観念、哲学や人生観が人生を作ると言っても過言ではありません。吉田松陰先生が言われた「志を以って万事のの源と為す」とは、このように在りたいと理想を掲げ、ゆるぎない信念を持つことで常日頃からの選択が自然にその方向に向かうようになることで、それがすべての結果を生み出せる力になるとの意味を示していると思っています。そして、その志はどこからやってきて一体どのように形成されるのかを考えたとき、私にとってあまり認めたくない、ネガティブな1つの仮説が思い浮かびます。

人生を決められる呪縛

人生を作るのは選択で、選択の基準となるのは理想を強く念ずる志。理想も志もない人間は流されるままの意味も価値も感じられない残念な人生になってしまう。万事の源となる志は生きていく中で様々な経験を積み重ねて徐々に形成されていくように思いがちですが、私は実はそうではなく、生まれた時に決められた宿命ではないのかと感じることが少なからずあります。あまり認めたくはありませんが、この世に生を受け、名前をつけられた時点で人生の方向性は大まか決められており、ほとんどの人はその通りの人生を歩んでいるのではないかとの仮説をずっと持ち続けています。
先日、行徳哲男先生が講演の中で延々と哲学を持つことの重要性を語られた際に長年哲学について考え続け、実践してきたのを振り返られて「自分の名前が哲男だからしょうがない」と言われておりました。その時も多くの人から圧倒的な尊敬を集める行徳先生の壮絶でドラマティックな生き様はそもそも生まれてきたその時から決まっていたのではないか、名前とは呪縛ではないのかと感じたのです。

志を源と為す組織

話は変わって、、最近、私がひょんなきっかけで加入することになった経営実践研究会は「社会課題を実業で解決する」との高い志を持った経営者とソーシャルビジネス界隈の有識者の先生方が集まって組織された団体です。この団体では、やり方ではなく在り方を学び、手段ではなく目的を明確にして、組織3.0と言われる営利と非営利を統合した社会課題を解決する企業をまずは1000社組織することを目指しています。志の高い中小企業の経営者の力を結集して日本の経済を弱肉強食の強欲資本主義からの脱却を図るべく、持続可能な循環と自律分散(エッジ側(現場)で個別に最適化する)する組織が集積する共感資本社会の実現を目指す取り組みを非常にアグレッシブに行っています。乱暴かつ簡単に一言でまとめると参加者は「自身もメンバーも志を見出し実践し、理想を実現する会」といった感じの熱く高潔な組織です。

良い会社=未来創造企業(Sustainable Social company )

この経営実践研究会の主たる目的は良い会社を増やすことです。良い会社の定義は未来創造企業(Sustainable Social company =実業で社会課題を解決する人に優しい持続循環型ビジネスモデルの会社)で、そのような事業所を10,000社生み出すことで日本を持続的な明るい社会に変革する。とビジョンに掲げられています。新しく会員企業になったのを機に、メンバーは未来創造企業への進捗度合いをチェックシートで確認し、欠けている部分への取り組みを積極的に行うことで良い会社になっていくと言うスキームが組まれています。そのチェックシートの項目は、持続可能性の高いモデルになっているか、社会課題の解決に取り組んでいるか、地域や社会に共感を生むような取り組みをしているか、広い視点と高い視座を持っているか、旧来のヒエラルキー型組織ではなく、多様性を認め、誰もが活躍できるような場づくりにしているかと、要するに志を実践しているか、との質問が延々と繰り返されています。

志は職人の社会的地位の向上

私自身もそのチェックシートで自社の事業内容やこれまで実践してきた取り組みを振り返りながら自己評価をしてみたところ、「えー大人やのに極端に自分に甘すぎるのでは?」といぶかしがられる位の高得点を叩き出してしまいました。自分でもさすがに気まずく、若干の気恥ずかしさを感じましたが、考えてもみれば創業の時に志を立てて、その実現に向けて計画を実践して、理想を叶えるためにこの20年間、闇雲に走り続けてきたことを考えればそんなにおかしなことでもないか、と思い返しました。
私が創業時に掲げたミッションは「職人の社会的地位の向上を叶える」です。その当時、私自身も大工として働いており、身体だけを資本にとにかく目の前の仕事だけを一生懸命やる、半年先の稼ぎも見えず、怪我や病気、台風や長雨が続くだけでも稼ぐことができなくなる、何の保証もない根無し草のような暮らしでした。はっきり言って社会的弱者だと感じていましたし、殆どの職人は今もそれは大きく変わってないままなのが現実です。

志に向き合う事業の難しさ

先行きが見えない不安感に常に追われ続け、刹那に生きるしかなかった自分自身の強烈で厳しい経験から、道具のように使われ、使えなくなるとポイ捨てされる職人の待遇や地位が低すぎる問題を根本的に解決しなければ日本の建築業界は成り立たなくなり、地域に住まう人たちのインフラを守ることさえできなくなると強く感じて、まずは自分たちから、そしてそれを日本中に広げて、学歴社会に適応できなかった若者たちの受け皿として大きな役割を担っている職人の世界を未来に明るい希望が持てて、豊かな暮らしを享受しつつ、やりがいと喜び、そして誇りを持って働けるような環境に変えたいと思い志を立てました。そして志を叶えるための事業はもちろん、収益を上げなければ持続できません。しかし、収益をあげることはあくまで手段であり、目的になり得ません。また、「皆に良くなってもらいたい」との目的を叶えるために、誰かを犠牲にすることは絶対にありえないわけで、目的の達成は遠い彼方にあるのではなく、実践段階の手段の中に点在しているものです。志に正面から向き合って事業を行うのは非常に複雑で難解で一見、矛盾に溢れているように感じるモノなのです。

概念を学び、実践で裏打ちすることで知恵や哲学が生まれる

私がこの20年間に行ってきた事は全て志を実現するための実践です。職人の社会的地位の向上を果たすために、稼げるようになる方法論を確立すべくマーケティング理論を学び、当時絵空事の様に思えた自立循環型のビジネスモデルの構築を目指しました。まず、本質的な価値提供ができるような人材育成を行うべく職人の社員化、正規雇用に踏み切って労働基準法に完全適合するところから改革をスタートしました。顧客接点として現場価値を生み出す職人には毎月の社内研修や、時間とお金をつぎ込んで外部講師を招いての研修を継続的に行い続けています。現場での顧客満足と引き渡し後も信頼関係を継続できる仕組みを社員大工とともに作り上げ、循環型モデルの入り口として、なんとか一切の宣伝広告を行わなくても必要な売り上げ、利益ができるようになったのが10年ほど前です。海賊と呼ばれた男として有名な出光佐三氏が言われた通り、実践とは目先の損得に囚われず、志を忘れることなく学んだ理論や概念に真摯に向き合い、裏打ちし続ける執着だと思うのです。

事業とは志の実践そのもの

そもそも私たちが目指していたのは自立循環型社会の構築なので、地場経済を活性化させるのも大きな目的であり、地元産の木材活用を積極的に行い、自治体と協業して一般ユーザに対する啓蒙活動やイベントを継続して行っています。今も地域活性化の団体やNPO法人等の10もの団体に加盟しており、5つの団体で理事や役員を引き受け、勤めています。自分たちだけが良ければ良いわけじゃないと、職人育成や職人の労働環境整備、そして職人以外も含めた建築実務者向けの研修を一般社団法人職人起業塾を立ち上げて全国で研修ワークショップを行っていますし、地元神戸では毎月無料の持続循環型モデル構築の勉強会である「継塾」なる私塾を8年以上も継続しています。要するに、この20年間、私が行ってきた事業自体が全て営利と非営利が入り混じる志に従った活動、実践であり、そのように考えると経営実践研究会のチェックシートがほとんどクリアできても別段おかしなことではないと感じた次第です。

志こそが経営資源の中心

ただ、これまで20年もの歳月をかけて取り組んできた私のその志を全うできたかというと残念ながら全くそんな事はありません。まだまだ道半ばと言うよりも、あまりにも遠いゴールに対して無力感を少なからず感じることがありました。しかし、時代はようやく大きな変化を見せ始め、利益やお金等の目に見えるわかりやすいものではなく、本当に大事なのは志や誰もが持っている良き意図など目に見えないものであると、世の中が認知してくれるようになってきました。現在500社を超える志しの高い、本業で社会課題を解決するのだ!と熱く語る経営者が集まるコミュニティーができている事は私にとってはこれ以上ない僥倖で、大きな勇気と共に希望を与えてもらうことができました。吉田松陰先生が言われた通り、志が経営資源の中心として認められる世界がもうすぐそこまで来ているように感じています。いよいよ本当に本物の時代の到来だと胸を膨らませています。

ちなみに、私の名前は剛志です。志を剛く持ち続ける呪いをかけられており、生まれた時に与えられたままの人生を喜んで受け入れてしまっていると少し悔しい想いも抱きつつ、宿命のままに生きています。(苦笑)

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四方よしの世界を作る!

職人の社会的地位の向上を目指す!


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