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課題解決のステージと事業の持続可能性との深い関係

私は神戸の片隅で、地域密着の工務店と地域コミュニティー事業を営む株式会社四方継と、全国展開している建築実務者向けの研修及び職人のキャリアプラン構築を軸とした人事制度改革をサポートする一般社団法人職人起業塾の2つの法人の代表を務めています。起業してから20年が経ち、株式会社四方継では現在事業承継の取り組みもスタートさせており、ようやく自分で立ち上げた事業が少しずつ持続可能なモデルになってきたと感じられるようになりました。これまでの歩みを振り返ったとき、その時々で感じていた課題を解決し、その視野が少しずつ広くなるにつれて事業全体が安定するようになってきたように感じています。昔から「商売とは人の困りごとを解決することである」と言われますが、まさにその通りだと感じており、多くの人の課題に目を向ければ向けるほど、事業は安定するのだと体感しています。以下に私が歩みを進めてきたステージ毎の課題解決とそこから得たものについてまとめてみたいと思います。

自己課題解決

私は元大工です。起業した際は弟子と2人で、当時私が持っていたリソースといえば、下働き時代に経験を積んで身に付けた大工技術と大工道具と軽トラックのみ。とにかく自分たちとその家族が何不自由なく暮らせることだけが目的で闇雲に働いていました。その当時、私は自分の仕事を通して誰かを幸せにしたり、課題を解決するなんて事は全く考えず、ただ儲かればいいと目の前に与えられた仕事を一生懸命やるだけでした。大手ハウスメーカー専属の下請け大工として働いていたのはそんな時です。ただ、工事が終わって施主宅に伺った際に、工事中はとても親切だった施主がどこか冷ややかな雰囲気を醸し出していて、何とも言えず苦しい気分になることがしばしばあり、大枚を支払ってせっかく手に入れた夢のマイホームがそんなに良いものではなかったのかと虚しい気分になりました。自分がやっている仕事の本質的な価値があまり無いのだと気づかされる瞬間でした。

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社内課題解決

大手ハウスメーカーにぶら下がっていたお陰でそれなりに安定した仕事量に恵まれるようになり、だんだんと社員職人の数も増えていきました。それでも建築の仕事は繁閑の差が激しくて、常に売り上げが見えているのはせいぜい3ヶ月から半年先まで。雨が降ったりの天候不順で仕事に空きが出て休みが続くこともあり、いつも少し先の将来の不安に怯え、働ける時にできるだけ働こうと社員の大工スタッフと共に日曜日も休まずにずっと働き続ける毎日でした。そのうち、ハウスメーカーだけでなく、その他の不動産会社やデザイン事務所などの仕事も請け負うようになり、少し受注が安定してきた頃、創業前から一緒にやってきた弟子が会社を辞めたいと言ってきました。彼に言われたのは、「銭金ではなくこんなに働きづめでは家庭が壊れるので辞めさせてください。」との厳しい一言で、私は自分がやってきたことが本末転倒だったのだと気づかされました。その時から一緒に働きたいと集まってくれた社員たちに安心して暮らせる環境を整えたいと考えて必死になって経営とマーケティング、そして労働環境整備の勉強をするようになりました。それが即ち社内の課題解決です。

業界課題解決

先輩経営者に師事してマーケティングや理念構築の勉強会に足を運んだり、様々な本を読んだりして、原理原則論に立脚した、信頼をベースに循環型のビジネスモデルを構築する理論を実践し、創業から10年が経った頃には一切の宣伝広告や販促活動を行わなくてもご縁があったお客様からの紹介やリピートの受注で会社が回るようになってきました。建築業界に激震が走った姉歯事件や悪徳リフォーム問題、リーマンショックなど大変なことがたくさんありましたが、社員と一緒に必死になって取り組んだマーケティングの実践によるベースの売り上げができていたことで数々の荒波を乗り越えて何とかこれまでやってこれました。未だに建築業界の集客の中心になっている反響営業から脱したことが持続可能性を高めたのだと感じて、このスキームを活用することで建築業界にはほとんど存在しない、職人の正規雇用と育成ができる事業モデルにシフトできると考え、建築業界団体でのセミナーや、実務者向けの研修事業をスタートさせました。同業者を支援して、創業時の志である「職人の地位向上」を叶えられるように業界の課題に向き合い、業界全体を変えていきたいと思ったのです。

地域課題解決

2015年から職人を取り巻く環境、業界全体の構造を変えたいと考えて全国での研修事業をスタートさせて、対外的な活動を増やしましたが、それと同時に本業である地元神戸での建築事業もより地域の人に喜ばれ、存在意義を認めてもらえるようにと兵庫県の山から産出される材木を使った家づくりを推進する団体の代表としての活動を進めたり、地域でのビジネス交流会に参加してより密接に地域事業者とつながったり、また、2年前には「建築、暮らしだけじゃない、その先に」とスローガンを掲げ脱建築請負業、地域コミュニティー事業へとリブランディング、社名と共に事業ドメインを変更し、地域の課題解決に向けて現在取り組みを進めています。地域の事業者の応援や、マッチング、メンテナンスサービス等を絡めた有料会員制度のサブスクリプション事業はまだまだ収益化には程遠いですが、地域の人たちとつながることで建築事業にも好影響があり全体を俯瞰して見ればリブランディング以前よりも持続性が高まっていると感じています。

社会課題解決

これまで私が行ってきた事業の変遷を振り返り俯瞰して見れば、はじめは個人レベルだった課題解決の輪が徐々に広がって、その度に、吹けば飛ぶような小さな会社ではありますが、徐々に地力をつけて持続可能性を高められてきたのではないかと思うのです。地に足をつけて「今、金、自分」思考から抜け出して少しでも人の役に立ちたいと課題に対して諦めることなく正面から向き合い視野を広げてきたからだと感じています。「自分だけ良ければいい」と思う人に誰も仕事を頼みたくないし、一緒に働きたいと思わない。そんな当たり前の事から鑑みれば、ごく当然のことではありますが課題解決に向き合う姿勢を持ち続け、そのステージを上げていくことこそ事業の信頼性を高め持続性を向上させることに外ならないと思うのです。私としては次のステップは、深刻な社会課題になりつつあるモノづくり産業の人手不足、職人不足を根本から解決する業界スタンダードの変革に取り組みたいと思っています。デジタル化、バーチャル化が際限なく進みつつある世界ですが、実際にモノを作れる人材がいなくなるとこの世は立ち行かなくなってしまいます。しかし、これはさすがに私の力量では叶いそうにないのを踏まえ、志を同じくする同志を募って小さな取り組みから徐々にムーブメントを起こせるように小さな火を熾したいと思っています。これができなければ、50兆産業の建設業界も衰退の一途を辿るし、近年頻度を増している地震や台風などの自然災害への備えもままなりません。レジリエンスな社会を次世代に残すため微力ながらも奮闘したいと考えています。賛同いただける方と知見を共有して新しいプロジェクトを立ち上げたいと考えておりますので、興味を持って頂けた方にお気軽にご連絡をもらえれば幸いです。

誰もが世界を変えられる

最近のスタートアップ企業の経営者は若くして志を掲げ、社会課題解決に邁進されている方が少なからずおられます。そんな若者たちを見るにつけ、頼もしく感じ、日本の未来は決して暗くないと思いますが、同時に一握りの起業家だけではなく、全ての中小零細企業の経営者に事業を通して生み出せる価値に気づき、志を高く持ってもらいたいと思っています。ここまで偉そうなことを書きましたが、私も起業した当時は自分のことだけに必死で、世の中の問題や課題に目を向けることすらありませんでした。そんな私が少しずつ変わって来れたのは問題に対して正面から向き合ったこと、助けを求めて学ぶ姿勢を持ち続けたこと、そしてメンターや師匠といった先達との出会いがあったお陰だと思います。そして、学んだことを実践する理解あるスタッフがいてくれたこと。そう考えると誰でもどんな業種業態でも少し意識を変えるだけで世界を良くする意義の深い事業に取り組める様になると思うのです。現時点で志を掲げている人もそうでない人も含めて力を出し合って、少しでも良い世界を子供達に継ぎたいと思うのです。

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職人の正規雇用、キャリアアップに取り組む企業を支援しています。


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