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解決困難な社会課題に対する2つの視点と未来創造

私は本業で社会課題の解決を目指す企業が集まるコミュニティ、経営実践研究会に所属して地域から、企業から世の中を良くするにはどうあるべきか、どうするべきかを学び研究と実践を行なっています。現在の世の中は非常に不安定で先行きの見通しが見えにくく、未来に対して不安を抱えている人があまりにも多い、もしくは未来に目を向けることから目を背けてしまっている人が多すぎると感じていて、その原因は解決の糸口さえ見えない難しい社会課題に満ち溢れているからだと思っています。もう少しいい社会にして次世代に引き継ぎたいとの想いで、50歳半ばのえー歳になっても精力的な活動を行っています。

対処は解決ではない

社会課題の解決と言うのは同じ問題が二度と発生しないように根本的な解決を目指さなければなりません。目の前で起こっている喫緊かつ重大な問題への対処はもちろん大切ですが、表面的な手当てを繰り返していても何度も同じ悲劇を起こし続ける訳で、そこにいくら注力しても決して本質的な解決に向かう訳ではありません。解決というのは本来、対処ではなく予防の考え方に基づくべきだと思うのです。しかし、目の前で苦しんでいる人を捨て置いて大きな事ばかりを追い求めるのも人の在り方としてどうか、という議論もあるし、そこに手当をすべきなのも当然です。解決困難な課題が同時多発的に噴出している今、対処に追われ根本的なアプローチに目が向かない風潮が世の中全体に蔓延している様に感じています。

解決しなかった理由

私が長年、生業としてきた建築業界では現在、若者の職人が圧倒的にいなくなり、毎年職人の数が激減し続けています。大工だけの統計では1980年代に80万人いた大工が現在20万人を切っていると国土交通省の報告書に上がっています。単純にこのままの減少率が続けば2030年に大工は絶滅することになってしまいます。地域のインフラを守り、新たな産業を生み出すのに不可欠な建築職人は毎年のように起こる自然災害の復興や予防の役目も担っています。その職人達がいなくなるとこの国の社会インフラの安全保障が損なわれると考えれば、これは建築業界だけの問題ではなく日本全体の非常に大きな社会課題だと言えます。しかも10年前からこの課題は官民両方で問題視されて来ましたし解決に向けて様々な取り組みがなされて来ました。しかし、全く功を奏していないのは、表面的な対処に終始して根本的な問題に目を向けなかったからに他なりません。

出典:国土交通省レポート


見逃し、先送りの原因

課題に対する向き合い方は2通りあり、既に顕在化している事象に対して対処するのと、未だ顕在化していないがそこはかとない違和感や危機を感じる潜在的な事柄に対して、問題が表面化する前に未然に予防の方策を講じる姿勢です。本来、こちらに注力すればトラブルや不幸な出来事が起こるのを阻止できるのですが、人は目の前に問題が顕れないとつい先送りしてしまう生き物です。また、喉元過ぎれば熱さを忘れると言われるように、対処を行ったら根本的な解決になっていなくても、一旦解決できた気分になってそこから目を逸らしてしまいます。これでは同じ失敗や問題を繰り返すことになってしまうと誰もが知っているはずですが、現実は忙しい毎日に終われる暮らしの中で、目の前の事だけに振り回されてしまいがちです。私は社会全体が近視眼的な思考に陥ってしまっている原因に一つに、米欧式の短期会計方式が日本の企業に浸透したことが大きく影響していると思っています。株式市場、株主に四半期ごとに良い報告をして評価を得ることが株式資本主義の中心的な考え方であり、それが根本的な課題解決から目を逸らし、先送り思考に陥っている一因だと思うのです。

課題の根本解決と未来創造

根本的解決へのアプローチというのは言い方を変えれば顕在化していない問題を未然に防ぐ為の未来への投資です。そして、認知されていない問題やトラブル、不幸な出来事を回避してもそれは成果として認められにくいのが現実です。投資に対するリターンが実質無いと判断される可能性もあります。出来るだけ早く投資を回収し、収益をあげるべきとの現在の資本主義のスタンダードな考え方の下では理解されにくく、事業計画に組み込んでも予算を承認されない可能性が高くなります。これが、世の中に社会課題が数多く蔓延し、複雑に絡み合い解決不可能だと言われる様になっている主たる原因だと思うのです。しかし、そろそろそれも限界に近づいているのは昨今のニュースを見れば誰もが気付くところでは無いでしょうか。格差の拡大と分断、世界中で巻き起こっている紛争や戦争、気候変動と自然破壊、それらは全て、今だけ、金だけ、自分だけ思考が蔓延しているから顕在化した問題であり、この世の中をもう少し未来思考を持つ人を増やして行かなければ本当にヤバイと感じています。

共感資本経済へのシフトが未来を創る

上述の職人不足問題の根本的な解決へのアプローチは、職人という働き方が職業選択の自由を持っている若者に選んでもらえる職業にならなければ始まりません。それは、現在殆どの職人が実質は労働者であるにもかかわらず、一人親方と呼ばれる個人事業主扱いで社会保障の枠組みの外に投げ出されている現状を見直すところから取り掛かる必要があります。ちなみに、電気工事や給排水、ガス設備等のライフラインに関わる職人は絶滅するような減少傾向にありません。その理由は専門の資格を必要とする設備系の事業者は建築系の事業者に比べ単価の下落を抑え、職人の正規雇用と社会保障を付与する労働環境を整えてきたからです。建築職人を育成するにはまず、事業所が今まで削減してきたコストを負担する覚悟を決める事から、未来の為にリターンが計測出来ない投資を行う思考に頭を切り替える必要があります。そして、新たにかかる様になるコストを捻出する方策を考え、成果に結びつける必要があります。非常に難しいですが、そのヒントは行き詰まりを見せている「今、金、自分」を中心にした資本主義経済の思考から脱出し、未来思考で社会的価値を生み出す事で多くの人から支持を集める共感資本経済へのシフトだと思います。

人としての本分

現在の社会が抱えている課題は圧倒的な量でしかも多岐に渡り、また複雑に絡み合ってしまっています。一見、解決不可能だと諦めてしまいそうになるくらいですが、諦めてしまったらそこでゲームセット、次世代を担う子供達に今よりももっと悪い環境にして引き継ぐことになってしまいます。福沢諭吉先生が万物の霊長たる人間ならば目的を達しなければならない、その目的とは先人から受け継いだ文明、文化より良くして次の世代に継承することである。と学問のススメの中に書かれておられましたが、数多くの社会課題を生み出したまま解決を諦めてしまってはご先祖さまに面目が立たない、後進に申し訳が立たないことになってしまいます。まさに、人として生を受けた意味を成さずにこの世に悪を撒き散らしたまま去っていく事になります。そうならない為に、目に見える事だけではなく、表面に表れていない課題や問題に心を配り、未来に対する価値を残せる思考を判断基準にすべきだと思います。私は建築業界の職人不足の解決を糸口にしてグレー、ブラックだと言われ続けている建築業界のガバナンス整備を進め、日本の社会インフラの安全保障が毀損しない、レジリアンスな国になる礎を作りたいと思っています。絶賛、同志を募っておりますので、未来思考の経営者の方は是非お声がけ頂ければと思います。共に未来を創造しませんか?

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未来を担う職人育成の高校設立プロジェクト進めています!

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