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原体験と憤の力 One day project@楓工務店

私が代表理事を務める一般社団法人職人起業塾と共催で経営実践研究会のワンデイプロジェクトなる企業訪問研修を奈良で開催した。講師は従業員がやりがいを持てる企業調査でアワードを受賞し、新卒採用とITを駆使した人材育成で大きな成果を出されており、「笑顔を創り続ける」企業理念を軸に建築業界を牽引する株式会社楓工務店の田尻社長にお願いして、50名を超える大人気の研修イベントとなりました。参加者からは口々に非常に勉強になったとの声を数多く聞かせて貰いましたし、私自身、同じ大工上がりの経営者で自分自身の経験と重なる事も多く、胸が熱くなる感覚を覚える程、良いご講演を頂けたと喜びました。今回の田尻社長の講演で改めてその重要性を認識したのは「原体験と憤の力」でした。以下にその力が及ぼす大きな影響と効果について備忘録として書き残しておきます。

楓工務店田尻社長

①理念、ビジョンと解決すべき課題が明確になる

講演の冒頭で田尻社長がしっかりと時間を取って語られたのは起業するキッカケとなる原体験とそこに感じた不条理、憤りの経験でした。ハウスメーカーの孫請けの大工職人だった時、契約の数字ばかりを追いかけ、契約後はおざなりな対応の終始する元請け営業マンと、現場で出会い、やりとりをする中でハウスメーカーへの不信を募らせ怒りだす施主との間で、子供に胸を張れるまともな家づくりの仕事をしたいと考えて起業したとの件は私と全く同じ流れで、嬉しくなりました。創業時から現在まで掲げ続けている「笑顔を創り続ける」とのシンプルな理念は田尻社長が感じられた建築業界の課題解決を深く心に刻み込んだ言葉なのだと深く納得した次第です。顧客にとっては一生に一度の大きな買い物かも知れない住宅を建築業界はあまりにも蔑ろにしてきました。それは住宅販売会社に成り下がったハウスメーカーと言われた事をそのままやるだけの下請け体質の職人の共謀です。田尻社長(弊社も同じくです)は営業、設計、現場、アフターサービスを一貫して行う事業所になる事で作り手と施主の間の齟齬を無くす、課題解決を経営理念に据え置き、その輪を広げるヴィジョンを掲げられています。憤りが大きかった分、その解決へのエネルギーも強くなるのだと思った次第です。

②未来を決める意思が有れば逆算が出来る

楓工務店といえば若手人材の採用、育成とICTやDXをフル活用して生産性を大幅に向上させながら、その若い力を存分に発揮して業績を拡大し続けられている事で有名です。特にここ近年では毎年、10名を超える数多くの新卒採用を継続されており、なんと来期の採用予定は26名との事でした。社員数100名の会社に4分の1の数の新入社員が採用され、入社してくると言うのは一般的には考えられないことですが、田尻社長が社員さん達と共に強烈に描いた未来の姿を社内で共有し、そこから逆算してはじき出した必要な人数だと言われていました。原体験から紡ぎ出された理念とビジョンはただ闇雲に成長拡大を目指すのではなく、未来のあるべき姿を明確にし、バックキャストを元にした地に足がついた経営戦略の立案を叶えるのだと感じました。

楓工務店 採用担当坂口さん

③広く強い共感を生み出す。

新卒採用の取り組みについては入社3年目となる担当の坂口さんが登壇されて詳しい説明をいただきました。その中で衝撃を受けたのは、50名以上の経営者を前に声を張って堂々と説明をされていた彼女自身が、教育学部出身だったにもかかわらず、楓工務店の理念「笑顔を作り続ける」と言う言葉と、それを実現しようとする社員の熱量に感化されて入社されたとの体験談でした。もちろん、優秀な学生さんと数多く出会える場を熱心に作り込んでいる同社の採用担当者の成果の表れでもありますが、強烈な憤の力から紡ぎ出されたリアルな理念と、あるべき姿からバックキャストして経営計画を立て、着実に成果を挙げられている若者達の姿は同じ志向を持つ人に響き心を動かすのだと改めて感じました。経営理念自体はどこの事業所も当たり前のように掲げています。私は経営者が一人で定めてトップダウンで押し付ける系の社員の行動を強制する経営理念は今の時代に合わないし、却ってチームビルディングを阻害する要因になるのではと思っていますが、楓工務店の様にたとえ経営陣が定めたものであっても社員全員が共感し、深く理解して事業の目的として業務に落とし込み、坂口さんは「同じ船に乗り込む」との表現をされていましたが、事業所全体が一体になれる理念は本当に素晴らしいと思いました。

満員御礼の経営実践研究会のイベント

激しく厳しい経験、そこで見出されるのが良知

3時間半にも及ぶ長時間の講演会の中で、田尻社長の口からも、採用担当坂口さんの言葉でも何度も繰り返し語られた同社の理念「笑顔をつくり続ける」。そのシンプルな言葉の裏に存在するのは間違いなく、孫請け大工時代に田尻社長が感じた建築業界にどっかりと横たわる悪習への憤りです。その原体験を陽転思考に切り替えた経営理念はマイナスのエネルギーが強い分だけ課題解決のためにプラスに転じた時に言葉だけではないリアリティーと本気さ、そして大きな輝きを生み出して若者達の心を鷲掴みにしてきたのだと思います。その昔、戦国武将の山中鹿介は「願わくば、我に七難八苦を与え給え」と三日月に祈ったと言われますが、激しく厳しい経験はその時は苦しいばかりの様に感じても、それを乗り越えて根本的な課題解決へと向かうとき、良知と呼ばれる人が生まれながらにもっている、是非・善悪を誤らない正しい知恵に至るのかも知れないと思いました。致良知という概念を世の広めた王陽明も大きな挫折を味わったのちに心即理・知行合一説を提唱したと言われていますし、私の受けた印象もあながち間違いではないのかも知れません。厳しく、辛い経験はやがて大きな力になると信じて自らキツイ選択をすることを若者には強く勧めたいと思います。

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建設業界が抱える課題の根本解決を教育を通して実現させようと取り組んでいます。


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