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三方よしの真実 

先日、私が所属する経営実践研究会の実践研修で、三方よしの聖地、近江八幡に行ってきました。社会人としてデビューする前に商家の跡取りになべぶた売りの修行と言うか、経験を積ませる天秤の詩はつとに有名ですが、まず相手にバリューを渡し、信頼関係を構築してから商いを行う近江商人の商売観の本質を学ばせて頂きました。今回、その天秤の里にて現代に受け継がれた本物の近江商人から三方よしの本質を学ばせていただく機会に恵まれました。

近江商人 商家訪問

三方よしの真実と現実

江戸時代から現代に至るまで、政権の転覆、革命や敗戦、アメリカによる植民地支配など数々の大きな環境の変化を乗り越え、事業を継続し続けて来ただけではなく、事業を通して地域を潤し数多くの社会的な貢献も続けてきた近江商人の物の考え方、思想をこの度、経営実践研究会のアドバイザーでもあるツカキグループのオーナー、塚本喜左衛門会長に直接学ばせてもらいました。改めて感じたのはふんわりとした語感で良い商売をすることと捉えられがちな三方よしを叶えるのは非常に厳しい決意と覚悟、そして持続するための事細かで丁寧なリスクヘッジとその構造化がなされている事でした。決して、世のため、人のために良いことをしたい、と善なる意図を持って商売に向き合いうだけではなく、持続可能性を高めるには厳しさを同時に持ち、その覚悟を実践し、事業に実装して初めて三方よしを実行出来るのだとの現実は生易しいものではありませんでした。以下に備忘録として今回の実践研修の気づきを書き留めておきたいと思います。

船大工の技術を生かす家

バランスとコミュニケーション

江戸時代に始まり、今日に至るまで事業を継続し、巨額の富を築き上げ、地域社会だけに止まらず日本全体にまで大きな影響力を持つに至った近江商人の特徴をまとめると大きく三つ挙げられると思いました。まず、初めに注目すべきは天秤棒を担ぎながら近江の国から全国に商いを広げるきっかけになった行商人としてのバランス感覚とコミニケーション力です。はじめは地元の産地で作られる蚊帳や畳を売り歩きながら、行商に出向いた先々の各地で人々から求められるものを汲み取っては他の地域からそれを調達し、商材を次々に変えながら儲かる商品を売り捌くことが出来たのは柔らかな物腰で、相手の立場に立った思考のなせる技であり、人の心はどこにあるのか?との現代のビジネスにも底通する本質を見極めて商売に実装していたのだと思います。

近江八幡に残る商家の佇まい

丁寧で厳しいリスクヘッジ

2つ目は、リスクヘッジについての注意深さです。ツカキグループのオーナーである塚本会長のお話でも三分割法として商いも資産もひと所に固めるのではなく、常に3つに分散させる重要性を繰り返し口にされておられましたが、リスクヘッジに対する用心深さは事業の持続性を高めるのに不可欠なのだと改めて深く感じさせられました。その用心深さは商家としての肝となる人材育成にも色濃く反映されており、丁稚と言われる子供の頃から長い時間をかけて人を育て、才能と可能性を見極めて少しずつ役割を広げ、与えて、最終的に独り立ち出来るスキルを身に付けたものに暖簾を分ける。また、時には成長しない者を見限って家に返してしまう厳しさを内包したキャリアシステムは長い目でみたリスクヘッジを構造化している最たるものだと感じました。

近江八幡に残る豊かな暮らし

強かさと目的意識

3つ目はやんわりとした柔和さの奥に秘められた強かさです。江戸時代の身分制度では士農工商の序列が付けられており、商人は最も低い地位にありました。にもかかわらず、国境を超えてモノを売り買いして財を蓄えて地域を豊かにした近江商人は時の権力者とも繋がり、特権とも言える地位を確保しました。また、商売相手にバリューを提供しつつも自分たちの事業を継続する、家を守り、地域を潤すと言う目的を明確に持ち続けて、しっかりと儲けることにも執着を切らすことはなかったようです。天秤の里の記念館に展示されてあった資料に「近江泥棒、伊勢乞食」と言われるほど、商売に長けていたことを揶揄されていたと書かれてありましたが、商いを通して日本全国の農村地帯に金融経済圏を広げ、近江商人の通った後にはぺんぺん草も生えないと言われるほど忌み嫌われた時期もあったようです。ヨーロッパにおけるユダヤ人の立ち位置にも似たような存在だったようで、現在社会においても大きな影響力を持っていることも含めて、類まれな強かさを持っていたのだと感じました。

近江商人のお宅訪問

理想と現実と商売10則

商人として社会にデビューする前に跡取り息子に鍋蓋の行商をさせる天秤の詩は先義後利こそが商売の要諦であるとの近江商人の在り方を端的に示しています。しかし、三方よしの実現は圧倒的な稼ぐ力=信用と信頼が必要であり、その力を身につけ、蓄えるには用心深くリスクを回避する慎重さが必要。理想的なビジネスの関係性を構築するには家訓で在るべき姿を掲げ、厳しい教育を通して思想を伝承つつも、決して理想を語るだけではなくリアリストの一面を持たねばならない。柔和な雰囲気で優しい語り口で事業継続の要諦を解いて下さった塚本会長の目の奥の鋭い光はその厳しさを言外に伝えて下さった様に感じた次第です。私も理想を見つめつつも厳しさから目を背ける事なく、持続可能な事業を構築して100年続く事業を次世代に継げるように気張りたいと思います。最後に近江商人の商売10則を転載しておきます。日本版、卓越の法則だと思います。

「商売の10教訓」
1.商売とは世のため、人のために奉仕することである。世のため、人のために勤勉に働いていけば、利益はきちんと後からついていくものである。
2.店の大小は問題ではない。商売をする場所が良い悪い、という問題でもない。良い商品を、お客さんのために提供できれば、おのずから商売は繁盛するのだから。
3.「お世辞を言って商品を売りさばいてしまえば、それでいい、その後のことは知らない」というのでは商売は繁盛しない。売った後に、いかに面倒を見るかが大切である。
面倒のいい商品には、常連客が集まるものである。
4.資金の少ないことを嘆くことはない。むしろお客さんへの信用の足りないことを嘆くべきである。信用のない商人は、絶対に繁盛することはない。とにかく信用を得ることにまず励むべきである。
5.商品を無理やり売りつけることはしてはいけない。お客さんの「好むもの」を売るのも、本当の商品ではない。本当の商人とはお客さんの「ためになるもの」を売るものである。
6.良い商品を売ることは前の行いと言える。良い商品を、多くの人たちに買ってもらうために努力を重ねることは、それだけ世の中のためになることであるから、やはりよい行いと言える。
7.紙一枚のサービスであっても、お客さんは喜んでくれるものである。商品を買ってくれたお客さんには、何でもいいので、サービス品を提供してあげるべきである。何もつけてあげられないならば、あなたの「笑顔」を分け与えてあげなさい。
8.「正直な値段」で、一生懸命「正直な商売」をするのが商売繁盛のコツである。不当な利益をとろうとすれば、お客さんは離れていくものである。しかし、一方で無理な値引きをすれば、自らの商売が成り立たなくなることも忘れてはならない。
9.つねに損益のことを考えながら商売をするのが本当に商品である。いい加減などんぶり勘定の商売をしていては、末長く繁盛していくことはできない。今日1日でどれだけの損益が出たか、しっかり計算して明らかにちないうちは、夜寝てはいけない。
10.「今は景気が悪いから、物が売れない」というのは言い訳にすぎない。景気が悪い時であっても、繁盛する商人は色々な努力や工夫をして、儲けを出していくものである。
経営実践研究会 近江商人実践研修

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三方良しの実現の為の研修やってます。

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