松岡譲『法城を護る人々』復刊のきっかけのひとつになった話
こんにちは、笙古書店です。
2022年よりオンラインショップで古本などを商っているものです。
タイトルどおりの内容ですので普段わたしのことをご存じないかたもこちらをご覧になるかもしれないな、ということでまずは自己紹介を。
このたび松岡譲『法城を護る人々』復刊のきっかけにちょびっとだけ関わったというお話をいたします。
ほんとにちょびっとだけ。
なお当記事の文責はすべてわたしにありますので、この文章に関するお問い合わせなどは版元さんなどになさらないように願います。
あくまできっかけのひとつにちょっとなったかもしれないな、くらいのことですので、文学者の作品の復刊に対するアプローチにはこんなパターンもあるかもしれないというくらいのことをお伝えできましたら。
さて。
まずは2022年初夏のこと。
わたくし、とある本のイベントに参加しておりました。
そうして参加者のかたがたとお話をしていましたところ、そのうちのおひとりが大学の、しかも学部までご一緒の同期だと判明。
おたがい卒業してン年も経った身、イベント開催地は大学に縁もゆかりもなく、そんな偶然があるものですねとさらにお話するうちにあちらが法藏館におつとめのかただと知る。
イベントにはプライベートで参加されていらっしゃいましたので、そうなんですねそうなんですよというくらいで、ただぼんやりと頭には残っておりました。
出会いに乾杯ということでこのイベントに参加されたかたがたとはSNSでもつながって、なかには件の同期のかたもいらっしゃいました。
それから半年後、2022年12月にわたくし笙古書店はご縁あって「GIVE ME BOOKS!!」に参加させていただくことになりました。
おなまえどおり本のイベントであるこちら、書店さん、古本屋さん、出版社さん、そのほか本に関わるかたがたが奈良の地に会されました。
「GIVE ME BOOKS!!」はとっても素敵なイベントで、参加できてよかったといまもしみじみ感謝をしています。
主催のかたがたのすばらしさなどいろいろ語りたいことは尽きないのですがひとまずそれはさておき、その会場に法藏館さんも出展されており。
そうしてそのブースに、先にお会いした大学の同期のかたがいらしていました。
法藏館さんてほんまやったんや(いや疑ってはないですけども)、こらご挨拶いかなとお伺いしたところにこやかにお迎えくださり、よろしくお願いしますとふたことみこと交わしてわたしも自分のブースに。
そのときふと思いだしたのは、文アル好きのおともだちのひとことでした。
「松岡譲『法城を護る人々』を法藏館さんに注文したところ、上巻が品切れで中巻下巻は倉庫から出してもらった」
この記事をご覧のかたはおそらく十中八九「文アル」すなわち「文豪とアルケミスト」についてはご存じかとおもいますが念のためふれておきますと、近現代文学史に名を残す「文豪」たちが美青年美少年に転生して敵と戦うソーシャルゲームだそうです。
だそうです、という末尾からもお察しのとおりわたしは文アル未プレイ。
ただ周囲には何人も文アルユーザーがおり、その方々の「推し活」の模様を日々拝見しております。
その人気はいまやゲームというコンテンツのみにとどまらず、2.5次元の舞台や文学館などのコラボなどとどんどんと広まっているとのこと。
その「文豪とアルケミスト」の登場人物のひとりに松岡譲がいるということもあり、おともだちは『法城を護る人々』を求めたのだそうです。
これ復刊したらおもしろいんちゃうかな
そう思ったわたくし、その場で件のおともだちに連絡をしました。
「いま法藏館さんがおなじ会場にいらっしゃるので『法城』復刊希望のファンの声を聞かせてほしい」
おともだちは即座にお返事くださり、かくしてわたしの手元にはそのおともだちふくむ数人のかたの『法城』復刊希望の声、またおともだちによる「文アルにおける松岡譲の立ち位置と『法城を護る人々』の意義について」の要点が届きました。
持つべきものは仕事のできるおともだち。
さて、ということでイベントも閉場間近、客足もすくなくなったところでわたくしふたたび法藏館さんのブースへ。
プレゼンの内容は長くなるので下記にまとめますがだいたい次のとおりでした。
・文アルユーザーの『法城』復刊希望の声(上記参照)
・『憂鬱な愛人』復刊という実例
・ゲームをプレイする・グッズを買うなどにとどまらない文アルファンの推し活ぶり(好きな文豪の初版本を買ったというポストをXにてお見かけするなど)
とはいえおたがいイベント会場でブースを守る身、短いあいだの立ち話でのことですからすべてを過不足なくお伝えできたわけではありません。
われながらぐいぐいいけたのも、多分に大学の同期という勝手ながらのシンパシーもあってのことでした。
ちょっと学生時代のノリみたいなところもあったかもしれません。
とりあえずワーワーまくしたてて気が済んだというところ、お仕事で来られていたあちらには申し訳ないことをしたなあと次の日には反省もしたり。
いえ。お仕事で出ていたのはわたしもですが。大丈夫です、そちらはそちらでちゃんとたくさんいろいろな素敵なことがありました。
それはさておき。
マア自分にできることはしたし、これでほんとにいつか『法城』復刊したらおもしろいなあとのんきに構えていたところ。
そう、あれはイベントから6日後のこと。
件の法藏館さんからお知らせがありました。
「法城』思いのほか早く文庫化するかも」
早くない?
いや早くない?
おもわずDM画面を開いては閉じをくりかえしたわたしをいったいだれが笑えるというのでしょうか。
1週間経ってない。
いくら年末進行にしてもお話してからまだ1週間も経ってない。
仕事が…早い…!
おそらくは当時すでに多くの『法城』復刊希望が集まっており、こちらのプレゼンめいた立ち話もそのきっかけのひとつ、草の根運動のさらにひげ根のようなものだったのだろうなと弁えつつも、当時のわたしの衝撃をすこしでもご理解いただけましたら幸いです。
びっくりした。
それから2年後の2024年11月、松岡譲『法城を護る人々』復刊となられましたことあらためてお祝い申し上げます。
この2年は「復刊したらおもしろいなー」という当初の感覚そのままに、一読者として告知をお待ちしておりました。
ほんとにちょびっとのきっかけづくり、なにかのお役にたてたならというきもちでいたしましたプレゼンの顛末です。
あちらにご確認したところ、noteに書いてもいいよということでしたのでこうしてしたためてみました。
こういうこともあるんだよということで、なにかの一助にでもなりましたなら。
あとは末尾ながら、なぜ文アルユーザーでもない身がこうしたふるまいをしたかについてすこしだけ。
あなたの私事はよろしくてよというかたはこちらまででどうぞ。
不肖わたくしいまは古本屋などと名乗っておりますがそれまでにいたる道はといえば大学院で昭和文学を専攻し、アルバイトをふくめて書店、出版社、図書館、古書店などの業種を遍歴した身です。
わたしの学生時代といえば、これは多分に大学の方向性によるものかもしれませんが、日本文学といえばせいぜい近世まで、近現代文学はなかなかメインにはならないような頃でした。
古書店に勤めていた当時の主軸もまた中近世文書や地図、時代が近くなったところで錦絵、絵葉書、短冊。
初版本で食べていけるのは東京のひと握りとあとすこしだけというのがおそらく業界の共通認識でした。
要するに、近現代文学がだいすきな身として、いろんなところが盛りあがったら楽しいなと、そういう思いがわりとずっとあります。
古書店に勤めていたとき、近現代文学に関する資料が数千円で出品され、しかもその作家の記念館や文学館がそれを予算で買うことができないというのを見聞きしました。
いま文アルユーザーのかたがたが、たくさんの文学館や記念館や図書館や博物館にいらしているのをお見かけするたび、良かった、と思います。
そんな感じです。
いちど品切れとなった本を復刊するには時間と手がかかり、そのあいだにたとえばめあてとしていたゲームが終了したり、終了しないまでもキャラクターになにがしかのことが起こる、ファンが離れるなどのリスクも想定されるのだろうなと、これはまったくの憶測ですけども。
わたしが知るかぎりの2年の歳月にもいろいろなことがあったのでしょう。
ほんとにちょびっとだけでも、なにかしらの流れに関わったのかもしれない身として、『法城を護る人々』復刊お祝い申し上げるとともに、誠心誠意をもって予約購入いたしますということを付記しつつ。
ここまでご覧くださりありがとうございました。
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