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医療的ケア児も「当たり前」に過ごす、インクルーシブな保育園へ——写真で知ろう!小規模保育【園運営】

2023年度より始めた、医療的ケアのある子どもの受け入れ。当初は保育士が戸惑うこともありましたが、看護師とも連携し、より豊かな関わり方を模索するようになってきました。子ども同士の自然な触れ合いもあって、医療的ケアのある子どもたちに大きな笑顔が見られ始めています。

<おれんじハウス星川保育園/神奈川県横浜市>

【園児数】13名(うち、医療的ケアの必要な子ども2名)
【保育者数】保育士11名(非常勤含む)+看護師2名
(2023年6月時点)

■ ねらいと配慮

当法人はこれまでにも、児童発達支援施設や子ども専門の訪問看護事業を通じて、さまざまな病気や障害のある子どものケアをしたり、ご家族の支援をしたりしています。系列の園では医療的ケア児の保育実績もあるなか、星川保育園(2016年開園)の地域でも「医療的ケアの必要な子どもが通える保育園がほしい」という声を聞き、2023年春から受け入れができるよう、園内の体制を整え始めました。

とはいえ、当時の園の職員には1名の看護師以外、医療的ケアの子どもと関わった経験がある保育士はいませんでした。そこでまず最初に、全員が同じ方向を向けるよう、意識合わせのミーティングを実施。インクルーシブ保育の意義や園長の思いを共有しつつ、職員の漠然とした“不安”を拭うために法人の看護スタッフにも来てもらい、「実際にどういうケア事例があるのか」「何に気をつけながら、どんなことができるのか」などを説明してもらいました。

その上で、入園を希望する保護者の方々と面談を行い、子どもたちの様子や、園に通うことで望む経験などをヒアリング。結果的に2名の2歳児さんが入園することになり、看護師も1名増やした2名体制で4月を迎えました。

■ 振り返り

今回入園した、医療的ケアの必要なAくんとBちゃんは、それぞれ異なった病気や障害があり、自ら移動することが難しい状態にありました。食事は一部を鼻からの経管栄養でとっており、Aくんには人工呼吸器やたんの吸引、投薬も必要。2人の保育には、常に職員が付き添った状態が求められます。

しかし最初のうちは、「自分のせいでこの子に何か起きたらどうしよう」という戸惑いが保育士の側にあり、関わりに遠慮が見られる場面もありました。日々のミーティングで繰り返し「何のためにこの子は園に来てくれたんだろう」「不安もわかるけれど、ケアは看護師ができる。保育士はとにかく、みんなで一緒に遊べるような遊びをたくさん提供していかないと」と話し、少しずつ“園にいる13人のひとり”としての関わり方を模索していきました。

一方で他の園児たちは、AくんやBちゃんと一緒に過ごすことを、大人よりもずっと早く「当たり前」のものとして受け止めていきました。当初こそ身体についたチューブや機械を触りたがることもありましたが、「これはAくんの大事なものだからね」などと伝えるうちに良い意味でそこへの興味を失い、ごく普通にしゃべりかけたり遊びに誘ったりするようになりました。

同時に、本人が自ら動けない状況もわかっていて、おもちゃを箱から出して目の前に置いたり、お散歩中に見つけた花をバギーまで持ってきたりする場面も。背中に熱が籠らないようにするアイスノンを、誰に言われなくても給食室まで取りに行く2歳児さんや、寝転がるBちゃんをそっと優しくなでる0歳児さんなど、子どもたちの成長に何度も驚かされました。

そうした姿を何度も見たことや、入園から2カ月ほど経ち「看護師を呼ぶべきかどうか」の判断ができるようになったことも重なり、今度は保育士自身の、2人への関わりが増えるようになりました。「この遊びじゃなかったら、こっちはどう?」などの提案も次々と飛び出すようになり、抱っこして全力でみんなとかけっこをしたり、大胆な製作あそびを一緒にしてみたり。AくんもBちゃんも、大きな笑顔を頻繁に見せてくれるようになっています。

■ 「小規模保育」としての視点

医療的ケアのある子どもを受け入れ、インクルーシブな保育園にしていくためには、保育士と看護師の連携が欠かせません。その点、これまでも少ない職員であらゆることを連携しながら進めてきた、小規模保育園ならではの経験が生きたように感じました。全員で声を掛け合って新しい提案をどんどん出しやすい、「ワンフロアで子どもも少人数」のため目が届きやすく急な対応もしやすいなど、規模が小さい環境の良さが表れたと思います。

同時に、これを小規模な園で行ったことで、「日常の保育の中で多くのケアができる」「特別なものは必要ない」とも気づけました。園舎の都合上、医療的ケア児専用の空間を用意することも、吸引のために別室に連れていくこともできませんが、だからこそ、子どもたちの遊びを中断することもなく、保育の中で自然な形でケアを行うことができています。

こうした取り組みは、各地域の保育園はもちろん、子どもが関わるあらゆる場所で行われる必要があります。医療的ケアのある子どもが地域で取り残されることがないよう、園が起点となりつつ、今回のような実践事例を広げていけたらと考えています。

【園情報】
おれんじハウス星川保育園(特定非営利活動法人おれんじハウス)
https://orangebaby.org/hoshikawa.php
神奈川県横浜市保土ヶ谷区星川1-4-1 クレスト星川
定員12名
小規模保育事業A型・管理者設置あり

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