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【V字回復の経営】成功要因とステップ(全13項目)


23年リニューアルした『V字回復 2年で会社を変えられますか』から、V字回復に至った成功要因についてまとめられています。

7年連続赤字のアスター事業を2年間で黒字(体質)にV次回復させるのか、2006年原著では10ステップでしたが、加筆修正され今回は13要因・ステップとなっています。P.413エピローグから。

V字回復の経営 成功13か条

1)改革コンセプトへのこだわり
2)存在価値のない事業を捨てる覚悟
3)戦略思考
4)実行者による計画作り
5)実行フォローへの緻密な落とし込み
6)データ志向
7)ミドルの参画
8)時間軸の明示
9)オープンで分かりやすい説明
10)聞く側の心理分布の移動
11)気骨の人事
12)しっかり叱る
13)ハンズオンによる実行

エピローグP.413~(以下同様)

※補足:登場人物名はそれぞれ実在。以下分ではその原文ママに。
・黒岩:三枝匡(ターンアラウンドコンサルタントとして社内変革リード)
・川端:鈴木康夫(タスクフォースリーダー、後にコマツ専務にもなった実在の経営者)


1)改革コンセプトへのこだわり

改革には有効なフレームワークが必要である。黒岩とタスクフォースは、まず負け戦の原因を徹底的に洗い出し(「強烈な反省論」)、「全体」の悪さと「個人」の悪さをつなぐ赤い糸を洗い出した。それによって社員は「自分もまずかった」と反省し、皆が一斉に行動を変える地合いを生んだ。「戦略」と「ビジネスプロセス・組織」の同時変革を狙った。
本書の改革はこの二つをセットにして総合的な「壊創変革」を狙ったことに最大の眼目がある。その目的は「時間サイクル」を画期的に早め、市場での戦闘力を上げると共に、人々の目を輝かせるような組織形態を生み出すことだった。

▶フレームワークとは?
一般に流通する経営学者や戦コンが提示する思考の枠組み(PEST、3C、5Fなど)だけではなく、経験値から導きだされた持論に近い。ただしその持論も端的で本質を突くものであり、他者でも理解しやすいものが望まれると著者はいう。

2)存在価値のない事業を捨てる覚悟

アスター事業で過去に失敗した改革では、事業を続けることが前提だった。うまくいくように見せた作文を書き、経営陣がそれを承認し、実際には実現せず、問題の先送りを繰り返してきた。 今回は、社長が「魅力ある事業にできないなら撤退」と決断した。背後の橋は切り落とされ、改革に全力で当たる以外に道はなかった。

▶トップの真の覚悟
まさに背水の陣の状態。この状況を作り出したそもそものトップの決断、意思決定に胆力があることは間違いない。日本企業ではなかなかここまで踏み込めるのは現在でも数は少ないのではないか。

3)戦略思考

ただ生き残ると いう発想を捨て、攻めの戦略にこだわった。「勝ち戦」を狙い、弱い分野は捨てるという「絞りと集中」の戦略を実行した。

▶守りから攻めの戦略思考へ
生き残るという発想を第一(守りの戦略)から事業縮小の道がシナリオもありえた、というトップの想定もあったが、これだけでは結局、一過性のV字回復にしかならないということ。守りが得意な日本企業、いかに攻めの思考に転じるかがキーになりそう。

4)実行者による計画作り

経営企画室のような部署に人を集めて考えさせ、実行責任はラインに引き渡し、プランを立てた人は批評者の立場をとるという形は初めから否定された。アスター事業では改革シナリオを「実行者が自分で作る」ことにこだわった。タスクフォースに、人事を含めて、全面的権限が付与された。彼らはのめり込んでシナリオを作り、その苦しい作業を通じて、実行への覚悟が生まれた。

▶企画と実行の一気通貫
企画と実行の分離。これが現実起こりやすく、変革が進まない一番の要因ではないか。2つの分離によって、実行力は3~5倍近いという調査結果もある。いかに、改革シナリオをつくった企画者が自ら先頭に立ち、実行をリードできるか、これがキーになりそう。

5)実行フォローへの緻密な落とし込み

タスクフォースは、開発商品のセグメンテーション、顧客のセグメンテーション、営業進捗管理システム、「顧客魅力度」の判定ツールなど、戦略を具体的な実行管理ツールに落とし込み、現場末端の活動までフォローが連動するように工夫した。また「目で見て分かる管理」へのこだわりがあった。

▶活動フォローの原点は「可視化」
不振事業の症状19【現場の実態】のとおり、実績活動の正確かつリアルタイムの可視化が経営管理には重要である。実行管理するツール(システム)がなければ、フォローもしきれない。いまだ多くの企業でこのあたりが感覚値や力業、アナログ管理されていることが多い。

6)データ志向

圧倒的な量の「データによる事実の裏づけ」を行った。組織の政治性を抑え込むためには、データと事実の提示が重要な役割を果たす。

▶組織の政治性を排除するには?
不振事業の症状35【組織の政治性】のとおり、戦略性のないゆえに政治性(社内力学)が蔓延してしまうことがある。戦略性の肝は、データと事実である。政治性の強い人は、裏付けの薄いアバウトな議論が得意であり、時に改革否定や否定になりがち。圧倒的かつ正確なデータと事実こそ、戦略性のキーとなりそう。

7)ミドルの参画

反省論やシナリオ作りに現場ミドルが加わり、改革を「自分たちの問題」と受け止める作業が行われた。それが社内の共感を広めるために有効だった。但し人選やサブチームの運営を間違えると毒にもなる。

▶屋台骨であるミドルリーダー
タスクフォースなど重要な改革チームは現場の力量あるミドルが中心となるべき。ときに、声だけが大きい古参や、熱意はあるが経験と能力が乏しい若手などはタスクフォースのスピードやパフォーマンスを落としてしまうリスクもある。実行面を見据えても、組織の屋台骨であるミドルリーダーの重要性はキーとなりそう。

8)時間軸の明示

社長と黒岩による時間軸の設定が強いインパクトを与えた。2年と1年の期限が初めから設定された。守旧派の退路を断つとともに、「徹底的に切り込め」というエールでもあった。

▶冗長では覚悟は迫れない
日本航空や日産自動車も2年という期限の中で経営改革が実行され、V字回復を遂げた企業の代表例。ともに守旧派という改革に対して保守的、あるいは、懐疑的な一定の層に対して”退路を断つ”という決断と実行、覚悟を迫るには、時間時の提示は重要なメッセージになりそう。

9)オープンで分かりやすい説明

部門の全社員に会社の悪さ加減が赤裸々に知らされた。「現実直視」や「強烈な反省論」を迫った。社員の抵抗が起きかねない論点は、黒岩と川端が語り、ベクトル合わせを図った。早期の成果(Early Success)をタイムリーに開示して、士気を保つ工夫がなされた。

▶小さな成功が変革を後押しする
多くが現実直視で挫けてしまうことが多い。そのためにデータや事実も重要であり、また、同時に間接話法(社内の噂・伝聞※不振事業の症状36)に頼らず、オープンに明快に説明すべき。
また、改革の初期段階の成果についても、どんなに小さくとも開示することが重要(コッターの8stepでも同様)。壊創変革の要諦42【Early Success】のとおり、最終的なゴール(単年黒字というV字回復)のマイルストーンや手前の成果を全体で共有することは「自分たちが間違っていなかった」という認知形成のキーになりうる。

10)聞く側の心理分布の移動

天王山での勝負で、社員に「自分もまずかった」と感じさせるための赤い糸が示され、社員は厳しい改革に向かう心理になった。改革の初期段階では、改革先導者(イノベーター)は 社内の絶対少数派である。そこで改革者はストレートに真実を明らかにして、社員心理の分布を一気に改革側に「移動」させることが必要である。

▶社員心理を解像度高く観察できているか?
改革がスタート、どれだけその改革にポジティブ/ネガティブな状態の社員がいるか…またその内訳についても解像度を高く観察できているか、まずはこれが重要となるはず。肯定/否定の2分類だけになっていないか?
本書では、13パターンにまで細分化し、それぞれの型に応じた傾向と対策を考慮している。最終的には多くが改革志向度の高い状態に移行するのが理想(ただし現実は全員は難しい、その対処についても本書に記載がある)

出典:V字回復の経営(P.273)

11)気骨の人事

伝統的日本企業では、アスター工販(注釈:販売子会社)のようなドラスチックな人事を容認できない会社がまだ 多いが、トップ経営者がその気になればできる。旧来の人事体系にこだわってそのまま全員 が沈んでいくのか、それとも尖兵を選び出して活性化し、そのメリットを他の社員が享受す るというサイクルに入るのかどうかの選択である。

▶人事は改革のメッセージ
改革の実行フェーズには当然「人事」つまり上位役職者の新しい配置も同時に行われる。新たな人事(配置)が旧態依然のまま(例えば、年功序列、背番号による順番、組織政治(派閥など))である場合、社員が受け取るメッセージは「いつもと変わらない」にしかならない。本気の改革をするのであれば、受け手がどのようにそのメッセージを捉えるのかも考慮すべき

12)しっかり叱る

人を叱るにはエネルギーがいる。叱ればそれだけ自分も厳しい規範が求められる。最近の日あいまい本企業では叱ることが減っているが、黒岩と川端はしっかり叱った。曖昧な叱り方ではなく、「一発で」当人に問題が認識され、直ちに是正されるよう明確に指導した。恐怖政治にならないようにするには、明快な論理と説明を伴うことがカギである。

▶パワハラを恐れ何もできない(しない)管理職
この論点は根が深い。現代のマネジメントの多くが悩む、適切に”叱る”という行為不足による弊害は大きい。特に本書のような改革においては”流れ”、空気感というのがある。適切に叱ることができずに、全体が崩壊してしまうリスクを肝に銘じた(これについてはまたどこかで論じましょう)


13)ハンズオンによる実行

改革の「積み木」は驚くべき早さと緻密さで積み上げられた。トップ経営陣が「ハンズオン」 で現場に目を配り、積み木を崩しかねない要素を早め早めに排除していった。それなくして、 二年以内という改革スピードを実現することはできない。

▶スピードこそ実効力を決める
2年という時限のなかでいかに実効力、改革の実行性とその効果を高めるのか、重要はスピードだと思う。改革スピードが遅くなるほどPDCAサイクルも回すことができない。どれだけスピードを高めることができるのかがキーになり、そのスピードを高めるためにもトップのハンズオンが重要。現場に降り、時に陣頭指揮を取り、素早い意思決定が求められる。

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