現代社会の三すくみの話
0.この記事は
皆さんは人生や社会人生活というゲームを楽しんでいるだろうか。
一部バランスが悪かったり仕様が分かりづらかったりする点があるが、皆否応なしに参加することになる。
この記事では少しでも攻略の助けになるようなロジックを提案したい。
(有料部分は一部のユーザーにしか関係ない、特殊な環境におけるメタゲームの話だ。一般論についてはすべて無料で読める。)
1.三すくみ
じゃんけんをはじめ、様々なゲームには”三すくみ”がある。ポケモンなら御三家(火→草→水→火)、ファイアーエムブレムなら武器(剣→斧→槍→剣など)だ。この記事において矢印記号は、強い→弱いを意味する。人生においてはその三すくみが見えづらいため、まずは三すくみを形成している3属性を定義し、三すくみを可視化するところから話を始めよう。攻略はその後だ。
2.社会の3属性は「エリート・ヤンキー・狂人」
人間は様々な属性を持っているが、今回注目するのは「エリート・ヤンキー・狂人」と名付けた3属性だ。私の考えではこの3つは三すくみを形成している。それぞれの言葉の定義は一般の用法と少しズレると思うので、ここでしっかり定義しておく。最初に断っておくが、エリート・ヤンキー・狂人は能力値には関係ない属性だ。ポケモンでいうと「タイプ」に該当し、タイプは直接は攻撃だとか素早さだとかの数値とは関係ないのと同じだ。(例:「エリート」だからといって知能が高いわけではない)
また、職業のような他の属性を制限することもない。(例:「ヤンキー」だから国家公務員になれない、というわけではない)
さらに、世間的にはどれも若干の揶揄を含んだ言い方かもしれないが、この記事では揶揄的ニュアンスがないことを明言しておく。それでも命名やあなたに与えられた属性に不満があるのなら、それはあなた自身の心の「エリート」「ヤンキー」「狂人」に対する差別意識の問題だ。自分の持つべき、あるいは本当に持ちたい属性を見直してより良いゲームライフを送ろう。
① エリート
「エリート」はモノや権威や名誉を持ち、それを守る属性だ。そして、他者からモノや権威や名誉を奪うことで攻撃を行う。
アッパークラスでタワーマンションに権威や名誉までも求めている人間は典型的な「エリート」だ。実際のモノは持っていなくて世間的にエリートと呼ばれずとも、「日本人であることの名誉」は多く持っている熱狂的愛国者の皆様も私の定義する属性的には「エリート」である。
② ヤンキー
「ヤンキー」は組織と人の、あるいは人と人の繋がりに生きる属性だ。そして、攻撃目標が持つ他者との繋がりを断つことで攻撃を行う。
いわゆるマイルドヤンキーはその名の通り「ヤンキー」属性を持っているだろう。彼ら彼女らは地元の幼馴染というコミュニティに生きている。オタクもその語源(他の愛好家に呼びかける二人称)通り、ヤンキー的側面があるかもしれない。そして主婦・主夫も人と人との繋がりという意味でヤンキー的側面の強い職業だ。また、華僑やユダヤ人コミュニティも私の定義では「ヤンキー」属性だろう。ヤンキーの本来の意味は米国人だが、組織や民族に帰属するという意味で、実際上手い属性名だと思う。
③ 狂人
「狂人」は本人自身の価値観(それは金品であったり繋がりであったり、あるいは世間的には価値がないものや「楽しさ」でも良い)に従う属性だ。相手の価値観を揺るがせることで攻撃を行う。これは結構酷い属性名な気がするが、私自身「狂っている」こと自体そこまで悪いとは思っていないので容赦してほしい。
偏執狂(マニア)は他者の評価や繋がりとは無関係にひたすらに自身の価値を求めるという点で「狂人」属性である。アカデミックにもたまに居るタイプだ。イズムや宗教の元に行動する人間もある程度「狂人」でなくては務まらないだろう。ただ、実際は同思想の他者とのヤンキー的繋がりが混在したりエリート的権威を欲しがったりしてしまうこともあるので、純粋な「狂人」であるとは限らないのが実情だろう。
これでそれぞれの属性の解説は終了だ。
ーーこれが学術書ならば、ここに「問1. 各属性に属する例を1つずつ挙げよ」という行が入るだろう。そして巻末の略解には「問1. 解答略」と書かれているはずだ。
ポケモン同様、これらのなかから複数の属性を持つ者もいる。例えばジョックス系サラリーマンは世俗的権威やモノに執着しつつも絆や人間関係、会社への帰属意識を重んじるため「エリート・ヤンキー」であろう。
3.エリート→ヤンキー→狂人→エリートの三すくみ
それでは「エリート」「ヤンキー」「狂人」の強弱関係はどうなっているだろうか。
章タイトルの通り、エリート→ヤンキー→狂人→エリート(矢印は、強い→弱いを意味する)である。この章ではその理由を解説しよう。
① エリート→ヤンキーの強弱関係
エリートは経済的・物理的・権威的な行動により、攻撃目標のモノや名誉や権威を奪う攻撃を行う。したがって、持つものが少ないヤンキーには効果が大きい。
一方でヤンキーによる関係性の剥奪は、すでにモノや権威という確固たるオブジェクトに支えられたエリートには有効ではない。
② ヤンキー→狂人の強弱関係
狂人は理解をされずに僅かな関係性や僅かな理解者の中で孤独に生きてきた。したがって、ヤンキーによる関係性の剥奪は狂人には効果が大きい。どれだけ狂っていても社会から完全に切り放されては生きていけないようだ。
一方で狂人による価値観の喪失は、仲間に価値観を依存しているヤンキーには有効ではない。
③ 狂人→エリートの強弱関係
エリートは自身の信奉する価値観に依存しているため、狂人に相対すると自身の持つモノや名誉の価値が揺らぐのだ。
一方でエリートによって奪える名誉も権威も、狂人にとっては価値があるものではないため、エリートが狂人にダメージを与えるのは困難だろう。
強弱関係の解説は以上だ。ネットバトルでもリアルバトルでも、正しく有効属性の攻撃を使うように心がけてハイランカーを狙っていこう。不利な属性攻撃を仕掛けて、「なぜ効かない!?」と言っているプレイヤーをよく見るので読者の皆さんは仕様をよく理解して効率的なプレイを心がけてほしい。
属性攻撃の使い方の悪例と好例
先日ツイッターを賑わせた宇崎ちゃんの赤十字ポスターに対するフェミニズム的観点からの反発の声(オタクに対するヘイトと呼べる声を含む)に対して、「その発言が如何にアウトな差別的論理かわかっているか?」「血を集めることが最高の目標だろう、命を救う上で非合理なことをするな」というコメントをする「エリート」属性持ちが多数いたが、これは「狂人」属性のイズムに対して「エリート」の技を使って攻撃しているのだから有効なはずがない。「論理的・合理的に考える」という行為自体が「論理・合理」というある意味究極の権威に頼るエリート的発想だということを見落としているのだ。
しつこいようだが三すくみである以上、どの属性が最高ということはない。かといって別に相容れるものでもないのでバトルの末どこかで落とし所を探さなくてはならないのだが、それを自分の「エリート」テリトリー内に見つけられるというのは思い上がりかゲームシステムの理解不足としか言いようがない。あるいは自分の溢れんばかりの「エリート」力なら属性不利を覆せるだろうという過信だ。
一方で、オタクが反発心からこぞって献血に行くのは非常に有効だったと考えられる。これは献血を通じて社会的な絆を築き上げるヤンキー属性の攻撃である。「狂人」属性だった偏執狂(マニア)が「ヤンキー」属性を強めはじめて数十年して、「ヤンキー」属性の技をうまく使えるようになった例と解釈できる。
4.ミラーマッチ 同属性への攻撃
三すくみと言うと、3つのタイプはすべて対称であるかのような印象を受けるが、「エリート」「ヤンキー」「狂人」属性はそれぞれの属性で同属性への攻撃を行った際のダメージが異なっている。
エリートからエリートへは効果は半減、ヤンキーからヤンキーは等倍、狂人から狂人は倍加されると考えられる。
理由を含めてより詳しく解説すると、エリートはすでに多くのモノや名誉を持っているため、エリートの攻撃では奪いつくせないため効果が今ひとつなのである。また、ヤンキー同士の戦いは絆の奪い合いであり、純粋に両者の絆力自体の勝負となるので属性による倍加・半減効果は無い。そして狂人同士は価値観の崩壊により一瞬で勝負が着くため、ノーガードの殴り合いの様相を呈するだろう。
ミラーマッチの例
これまた最近の話題であるが、あいちトリエンナーレ「表現の不自由展」での「反日的」展示に対する反発と、それに対するさらなるリベラル側の反発とを考えてみよう。
従来のインテリ層・エリート層はネット右翼を「ヤンキー」「狂人」だと考えていて、エリートの技で攻撃していた。しかし、上でも書いたが現代のネット右翼を含む愛国者の属性は実は「エリート」なのである。「ネトウヨ=金も地位もなく、誇りと愛国心だけが最後の心の支え」という偏見が属性を見誤らせている。実際ネット右翼は金や地位がなかろうと「多くを持つもの」に属するのだ。したがって、「ヘイトは良くない」というエリートの論理も「俺達は日本が好きなだけだ」というエリートの守りで簡単に躱されてしまう。
しかし、「助成金をもらった展示で、芸術として天皇の肖像画を燃やす」などの「狂人」的行動はかなり精神的なダメージを与えられたのだ。「お前たちの持つ愛国心だとか誇りだとかは無価値」と、価値観への攻撃を加えるのだから「狂人」属性攻撃というのが適切だろう。しかも、愛国者達が「これは公金を使った日本に対するヘイトスピーチと言えるのではないか」とエリート的な攻撃をしてきても(これは表現の自由とコンフリクトするが、訴え自体には一理ある)、エリート的な「批判の自由」を盾に攻撃を半減することもできる。
経済的に困窮し日本人としての誇りだけが最後の支えになっている人間もいるだろうに、ここまで一方的な属性攻撃をすることは政治的正しさだとか表現の自由だとか以上に正直ドン引きするレベルのガチプレイ(初心者の持ち込んだ構築済みデッキ+αに高額レア満載のTier1デッキをぶつけるようなものを感じる)なんじゃないかと思わなくもないが…
戦略
すなわちあなたがエリートならば同型対決は基本的に攻撃しないほうが得であり、狂人ならば一刻も早く先手を打って攻撃したほうが良いことになる。省庁や大学に勤務されている読者なら、エリート同士がにらめっこして後の先を狙い合う現場を見ることも多いだろう。
コラム 筆者の対戦ゲームに対するスタンスと人生のバトルに対するスタンス
私は対戦ゲームも非対戦ゲームも好きなのだが、対戦ゲームでのスタンスは「とにかくガチれ!」である。「〇〇はバランスが悪すぎるから身内では使わない」だとか「空気読め」「〇〇使うやつは寒い」みたいなのは基本的に素人がゲームデザイナーが設定したゲームの面白さの上限を勝手に下げているものだと思っている。確かに商業的理由で明確なバランスブレイカー・糞ゲー発生装置を入れてしまう運営もいるのだが、それでも経験上素人の考えたローカル縛りがそれより面白くなった試しはない(どこかで別のバランスブレイカーが発生したり、「使っていいライン」が曖昧になって後味悪なったりして却って楽しくなくなることの方が多い)。
とはいえ、私自身わざわざ明確に初心者を虐殺する目的でゲームをすることはない(かといってわざわざ止めはしない)。
ちなみにたまになら虐殺されるのは結構好きだ。「ああ、このゲームはこんなに強くなれるのか」「こんなに技術介入度があるのか」というゲーム自体に対する信頼を取り戻せるからだ。
その一方で、リアルバトルで今回導入した「属性効果」を有効活用して完膚なきまでに相手を叩き潰すのは必ずしも最良とは思えない。現実の戦争ではいかに勝っていても敵の軍が1人残らず死ぬまで戦闘を続行しないで適当なところで落とし所を見つけるようなものだと考えてほしい。ただ、その過程においては最も効率の良い戦略を取るべきだと考えていて、この記事もそのための手引書である。
5.被ダメージ一覧表
ポケモン同様、有効ダメージを2倍・今一つのダメージを1/2倍とする。
6.さあ、君自身の属性を選びとれ
属性の相性が分かったところで、自分の属性や戦場を決定しよう。あなた自身に争う気がなくとも、争う気のある相手に負けて地に伏せないようにするためには有効な属性の選択が必要だ。ヤンキー属性の多い会社に狂人属性の人間が入ってもさぞかし悲惨な社会人生活になるだろう。
同じ職場や集団であっても、あなたがどの属性のキャラクターを押し出して参加するかによって過ごしやすさは全然違うだろう。私は今4つの会社と関係を持っているが、それぞれで私の居る同僚の属性分布は「狂人」「狂人・ヤンキー」「狂人・エリート」「エリート・ヤンキー」だ(順不同、私の雇用者や同僚が読んでいてくださってもどの会社かの答え合わせはしませんw)。ちなみに過去私がいた会社や大学などの組織は「ヤンキー」「ヤンキー」「エリート」だ。
組織内で楽しく生きられない人の特徴として、不利な属性バトルを仕掛けているというのが多い。あるいは単にレベルが足りず、属性以前にレベル差で負けているかだ。後者は仕方ないのでレベルの低いダンジョンに潜り直してレベルを上げたほうがよい。この記事の提案は前者の問題である。記事で個別の事案(私の職場はどの属性でしょう?とか、私はどの属性にすればいいでしょう?とか)には対応しきれないが、属性の三すくみを頭に入れるだけでも大分勝ちやすくなるのではないだろうか?
Have Fun!!
皆さんのより良いゲームライフを応援している。
付録.理系院卒界隈でのメタゲーム(有料記事)
私は東京大学理科1類→後期教養→総合文化研究科で生物物理学(博士課程中退)ののち、統計/機械学習エンジニア・社会人/企業向け数学教師の仕事をしている。修士は鬱病での休学含めて4年かかり、博士は一切研究が実にならず機械学習を独学したり数学教師をしたりインターンをしたりしていただけになった。研究室は正直向いていなかったが、後の会社勤めは今の所かなりうまく行っていると思う。数学やプログラミングの技術とは別に、在学中から(研究からの逃避として)いろいろな組織に属して3つの属性をある程度使いこなせるようになったのも大きいと思う。
この章では、私自身も属する理系の研究系・技術系の勤務という非常に狭い界隈における2019年のメタゲームについて考察する。斯様な環境にいない人にはあまり関係ない記事なので、購入はあまりおすすめしない。
この章だけ有料にしたのは、戦略があまりに周知されることによりメタが変わり、記事を書いた意味が薄れてしまうことを危惧したからだ。
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