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第五話 理想と現実〜後編〜

当たり前なことなんて何一つない。
一瞬にして当たり前な日々は消え失せる。

昨年以上の成績を残す、すなわちそれは

「夏のクラブユース」
「冬のJユース」
「年間のプレミアチャンピオンシップ」

の三冠を目指すことを意味する目標を掲げて挑んだ高校3年。

僕は昨年の経験を結果という目に見える形でチームに貢献しようと決心していました。
シーズンが始まると嬉しいことに昨年以上にJ3リーグの出場機会が増える反面、プレミアリーグの出場機会が昨年より減少しました。

正直ユースの仲間と一緒の試合に出たいという気持ちもありましたが、上のレベルでプレーすることは自分にとって意味のあるものだと理解していたので迷いはありませんでした。
僕はどんな試合であれ自身の成長に繋げるため、チームの勝利に貢献するため、そして高校生活ラスト1年、この仲間とプレーできるラスト1年を充実したものにするために日々の練習に全力を注ぎました。


1年間を通して行うリーグ戦とは別に短期間で結果を残さなければならないという真価の問われる夏の全国大会。(クラブユース)
僕は昨年同大会でチームとしての結果は出たものの、個人としては何一つ結果を残すことができなかったためこの大会に懸ける思いは人一倍強く持っていました。

また、進路のことを考えた時に大体夏までにプロに昇格できるか否かの判断がチームから下されるので、この大会が最後のチャンスであり、自分の手で掴み取るしかないと考えていました。


そして幕を開けた全国大会。

チーム一丸となり勝ち続けていましたが、自分自身圧倒的な結果を残すことができず、またしても不甲斐なさを感じていました。大会は準決勝まで進んだところで会場が東京になるため、一度解散し、自宅からの集合となりました。
何としても結果を残すと意気込み、準決勝前日に母親に髪を短くカットしてもらい気合を注入したことを覚えています。

そして迎えた、7月31日、準決勝当日。
少し早めに目覚め、イメージトレーニングや体を起こすためにもサッカーを始めた頃から練習している近所の公園で1人ボールを蹴りました。
幼稚園からのサッカー人生を振り返りながらも、体の調子を確認し、試合での自分のプレーのイメージを膨らませていました。
良いイメージができたところで家に帰り、食事を摂り、万全の準備をして会場へ向かいました。関東大会でも対戦経験のある相手だったからか、さほど緊張しなかったのを覚えています。

いつも通りのアップをし、入場整列時は1番後ろに並び、写真撮影時は前列左端で隣の人の膝に手を置く。大好きなサポーターさんたちがチャントを歌ってくれる中、試合開始のホイッスルが鳴りました。
試合が落ち着き始めた前半15分。相手サイド選手のドリブルを内側から右足でボールを奪取しようとした瞬間

ブチッ


今まで聞いたことも感じたこともない音と感覚が僕を襲いました。

一瞬何が起きたのかを理解できませんでしたが、すぐさま右膝に経験したことのない異様な違和感を感じました。

立ち上がることすらできず、右膝を抱えたまま担架でピッチの外に運ばれ、そのままロッカーに一度戻ると当時のトレーナーが僕の足を診察してくれました。
そのとき自分でもこれはかなりやばいと思っていましたが、とっさに出た言葉が

「どのくらいで治りますか?」

でした。

この試合は無理でも、この大会は無理でも、もっとこのチームのみんなと闘いたいと強く思っていたからです。
トレーナーはあえてあまり詳しい話はしないでくださり、とりあえず明日病院で診察を受けることだけを伝えてくれました。
試合自体は仲間の活躍のおかげで勝つことができ、試合終了時には松葉杖をつきながら、客席に挨拶をすることもできました。
両親が迎えにきてくれた車での帰り道、僕は怪我の軽傷を願うばかりでした。

翌日、病院での診察結果は

「右膝前十字靭帯断裂」。

僕のユースサッカー生活が終わりました。

それでも、明日に控えた決勝への闘志は消えていませんでした。
仲間一人一人に自分はプレーできなくともなんとしても勝ってほしいと強く願いを込めてメッセージを送りました。
この時の僕はこれから待ち受けている過酷な生活のことなど知りもせず、心にポッカリ穴が開いた気分でした。


決勝当日、この日も病院で診察のために皆とは少し遅れて会場入りし、スタンドで試合を観戦しました。

正直いってこの日が1番心の底から皆を応援できた最後の日でした。

スタンドから見る仲間のプレーは実に逞しく、自分はこんなチームでプレーしていたのかと自信を持てるくらい強いチームでした。自分はスタンドからサポーターさんたちや後輩と応援していたわけですが、試合終盤になるにつれて、なんだか一つの感情が込み上げてきました。

「もうこのチームで、この仲間と一緒にプレーできないのか。もっと皆とサッカーしたかったな。」

試合終了の笛がなった頃には、嬉し涙か悔し涙か自分でもわからない涙が流れていました。
チームは見事勝ち、大会2連覇を成し遂げ、表彰式に自分も参加させてもらいました。松葉杖姿ながらも金メダルを受け取り、チーム全員でのカンピオーネ(チームで輪になって歌って飛ぶ)は気持ちよかったです。

物心がついた頃からボールを蹴り始めている僕にとってサッカーをする日々が当たり前でした。
そんな当たり前な日常が一瞬で消え去り、長い暗闇の中での孤独の闘いが始まるのです…

思った以上に長くなってしまったので今回はこの辺にさせてもらいます。
最後までお読みいただきありがとうございました😊

次回も前後編にわけて、自分の財産となるリハビリ生活を記していきたいと思います!

【次回予告】

第六話 苦悩と葛藤のリハビリ生活
〜前編〜

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