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十和田市現代美術館に行った感想

 青森の美術館旅行2日目に訪れた十和田市現代美術館の感想を、忘れぬ前に帰りの新幹線でしたためるとする。

美術館の特徴

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 この美術館の最大の特徴は、美術館の周囲にアート作品で作られた公園や外壁が存在し、非常に実践的、顕在的に美術館と街の融合を果たしている一方で、館内では「一つの作品に一部屋」を与える贅沢な展示方法にあると思う。

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 館内作品は基本的に全て個室展示である事で作品のダイナミズムと直に触れ合うことができる一方で、ちょっと人が混雑すると騒がしくなったり集中できなくなるデメリットもある。が、十和田は東北の僻地なのでその心配もあまりない。

 それぞれの作品に言及する気はないが、インパクトがある実験的な作品や新進気鋭の作家、そしてそれらの中に潜む意外性など、誰もが率直にアートを楽しめるコレクションが多かったように思う。

名和昇平と津田道子が描き出す現代的認識論

 個人的に気に入ったのは名和昇平氏の『PixCell-Deer#52』と津田道子氏の『あなたは、翌日私に会いにそこに戻ってくるでしょう。』の2作品である。

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名和昇平『PixCell-Deer#52』
「PixCellシリーズは、インターネットを介して集めた動物などの物体の表面を、透明の球体で覆った彫刻作品です。常に携帯やパソコンなどを通して物体を見ている情報社会の現状を、彫刻作品として表しています。」(パンフレットから引用)

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津田道子『あなたは、翌日私に会いにそこに戻ってくるでしょう。』映像が投影されたスクリーン、鏡、枠といった複数の矩形がある空間。そこに入っていくと、思わぬ場所に自分が歩く姿を見つけたりもするでしょう。映像は、現実の風景を映しているように見えて現実を切り取っています。鏡もそうですね。ただの枠も、風景を絵画のようにして切り取ります。そのような現実を切り取ったものを重ねたり、ずらしたりして一つの空間の中に配置した時、その中を歩き回って矩形の中に映し出される私たちは、いくつかの異なる世界を行き来しているように見えるでしょう。そしてご存知のように、映像は過去を映すこともできます。時間をずらした映像がこの中に入るときには、私たちは空間だけでなく時間も旅することになるのです。映像による表現の研究を続けてきた津田が見せる、多層化しあ時空間ーそれは私達が暮らす、映像メディアが折り重なった日常のメタファーでもあります。(パンフレットより引用)

  この2つの作品に共通するのは、現代的なメディアを通した対象の見え方である。それをメディアに覆われた動物の剥製と、メディア自体の視点を通した人の見え方という位相差を相補的に描き出す共犯関係は、私たちのリアルの複雑さを黙したまま突きつける。

 津田道子氏の『あなたは、翌日私に会いにそこに戻ってくるでしょう。』は空間と時間というア・プリオリな要素をシンプルかつ画期的に利用した認識論として、名和昇平の『PixCell-Deer#52』は我々の主体性から発生する対象の見え方、認識のア・ポステオリを豪奢に表現しており、その中間に我々の身体というメディアが存在する事は言うまでもない。なんともシニカルでエキサイティングな橋渡りではないだろうか。

 この両作品が十和田市現代美術館で出会ったのは、キュレーターや学芸員の努力もあるかも知れないし、奇跡的な偶然かも知れない。

 いずれにせよ、津田道子氏の参加するインタープレイ展は2021年8月29日までの予定である。

 

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