撃たれない、と思っているなら撃っていい?(RPGで)

Yahooニュースの個人ライタージャンルでないことないこと(いやあることもごくまれに書いてる?)書き散らしてる、自称サブカル専門ライター、まぁいろんなところで「サブカル(××←自粛)ライター」と言われているライターさんがおりまして、本日掲載された「ファミコン 誕生から37年も“現役” ブランド健在の理由」(リンクは付けません)でも出鱈目なことが山ほど書かれておりまして、すでに多くの識者の方の怒りゲージが頂点に達しております。一部の人は自分のブログとかでケチョンケチョンにぶった切ってやる、と宣言している方もいらっしゃいます――というくらい酷い内容で。
Yahooニュースの個人記事に苦情申し立てのシステムが存在せず、Yahoo Japan側から内容の精査がされないことをいいことにさらなる適当な情報を垂れ流し、というシステムが大きな被害を呼んでおります。

いい加減にしろよ、と思いつつ、自分でもちょっと気になった部分を書き出してみようかなと……。

ファミコン発売後1年間の空白
(国内だけで100万台売れました)

1983年にファミコンが登場し、1984年にサードパーティ製タイトルの「ロードランナー」「ゼビウス」が発売。特にゼビウスは多くのゲームファンの人気を集め、ファミコン人気を不動のものにした――というのが一般的なファミコンブームの始まり、と言われています。そのライターさんもファミコンは1984年(後半)にヒットしたもののその空白の1年間は理解できてないようです。

特に立ち上がりから1年内の人気ぶりについては、一応の説明はつくものの疑問点があるのです。

が、それだったら発売1年で100万台売れている、という話はないわけで(それでも任天堂からしてみればヒットではない、という認識が凄いわけですが)。
まず前提として、任天堂は1983年、ファミコンを発売するまでははこんな商品を売っていました。

●ゲーム&ウォッチ
●花札・トランプ・麻雀用具
●業務用ビデオゲーム

この業務用ビデオゲーム、というのがミソでありまして、当時はタイトー、ナムコ、セガ、コナミ、データイーストと並ぶ大手メーカーの一角でした(カプコンはまだなかった)。任天堂がアーケードでリリースした主なタイトルがこちらです。

●ドンキーコング
●ドンキーコングJr.
●ポパイ
●マリオブラザーズ

ファミコンのロンチタイトルは上の3タイトル。11月にはマリオブラザーズが発売されます。1983年当時のゲームの王様はアーケードゲームであります。当時のゲームのカースト制度があるとすればアーケードが頂点で、次にPC、そしてコンソール。今から見ると逆ですが、これは誰がなんと言おうと覆すことのできない事実です。かのスパイク・チュンソフト会長の中村光一氏もドアドアを作る前は「スクランブル」などのアーケードの移植ゲームで人気をはせていたくらいなのです。
従って、ロンチの時点で任天堂の人気アーケードゲーム3作、さらに最新作も稼働年内に登場というのは十分にキラータイトルだったわけです。
なお、セガのSG-1000も発売年のタイトル(セガにも発売日のデータが残ってないとのことでロンチタイトルがどれかは不明)として「スタージャッカー」や「コンゴボンゴ(ティップタップ)」、「シンドバッドミステリー」といった最新作に加え、「ボーダーライン」「サファリハンティング(トランキライザーガン)」といったアーケード移植ソフトが人気を博していました。同様にぴゅう太では「スクランブル」「ターピン」といったKONAMIアーケード移植作品、M5では「パワーパック(スーパーパックマン)」「ギャラックス(ギャラガ)」などのナムコアーケード移植作品が人気でした。MSXもナムコ・KONAMIの移植作品に加え、ソニーも独自に移植タイトルを開発していました。

もう一つのファクターとして、グラフィックス機能の強さを忘れてはいけないと思います。今でこそPixel Classicと言われますけれども、ファミコンのグラフィックは他社の追随を許さないものでした。1982年~1983年に登場した主なコンソールゲームのハード機能はこちらです。

MSX
CPU:Z80A
グラフィック:256×192ドット 16色・スプライト 16×16ドット×1色
サウンド:PSG3音(AY-3-8910)
ゲームパソコンM5
CPU:Z80A
グラフィック:256×192ドット 16色・スプライト 16×16ドット×1色
サウンド:PSG3音(SN76489)
ぴゅう太
CPU:TMS9995
グラフィック:256×192ドット 16色・スプライト 16×16ドット×1色
サウンド:PSG3音
SC-3000/SG-1000
CPU:Z80A
グラフィック:256×192ドット 16色・スプライト 16×16ドット×1色
サウンド:PSG3音(SN76489)

すさまじく似かたよった構成ですが、それもそのはず、グラフィックチップはこの4機種ともTMS9918を採用しています。そりゃー同じになるわけだ。なお、このチップはハードウェアでのドット単位のスクロール機能を持っていません。そのため、スクロールはキャラ(8x8)単位となっています。

そこに登場したのがファミコンです。

CPU:6502ベース
グラフィック:256×240ドット 52色・スプライト 8×8/8×16ドット×3色
サウンド:4音

家庭用のゲーム機のスプライトは単色表現が常識、なところに最大3色のスプライトが使用できた、というのは当時としてはオーパーツレベルの代物です。マリオがちゃんと色付きで出ているなど、アーケードの表現をほとんどそのまま再現できるというのは他社製品と比較した場合、極めて大きなセールスポイントだったはずです。

なお、スクロール機能はロンチタイトルがほとんど固定画面ゲームだったため、タイトル画面でしか使われていませんでしたが、ロードランナーやゼビウスで滑らかなスクロールを使用し、当時のゲームファンをうならせました。

この記事でいわゆる横井イズム・枯れた技術の水平思考などを持ち出して「任天堂のスタッフがリコーの推薦したチップの導入を反対した」などと書かれてはいますが、実際のところ、それをやったらMSXやSG-1000と同レベルのものしか登場せず、ファミコンに関しては寧ろ逆を行っていた――というのは頭に入れておくべきでしょう。つーか、リンク先のインタビューに「リコーにドンキーコングの基板を持って行ってそれを家庭用で実現できるチップを作らせた」って書いてるじゃねーか!!!!(怒り爆発)なお、スタッフが反対したのはCPUに6502ベースを採用すること(アーケードの開発はZ80が主流だったため)でした。この論理飛躍は酷い展開だわこれ。

ということで、歴史を語るのであれば、その背景にあったことくらいはきっちり調べて、ツッコミの入らないスキのない記事を書くべきではないでしょうか。その前の野球ゲームの記事とかも一切合切含めて。

あと、Yahoo Japanさんには個人ニュースに対してツッコミが入れられるシステムの早期導入をお願いします。マジで。


なお、非常に参考になる記事として、日経Xtechの「ゲーム産業、イノベーションのルーツを探る(ファミコンはこうして生まれた)」があります。こちらは有償サブスク登録必須ですが、すくなくともYahooニュースのサブカル××ライターの記事をサブスク購読するよりははるかにためになると思います(とはいえ、電子書籍などで売っていただけるとありがたいのですが)。

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