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野猿の向く先。2話

「おいおい、勘ぐって攻撃的になるなよ。誰がクスリの話なんかしたんだよ」
木崎鉄はパーソナルチェアから立ち上がり山内の肩を叩いた。
「勘ぐるも何も鉄君とエビの仕事なんてシャブしかないが。俺はクスリめちゃ嫌いだから何も関わろうとしんかったし聞かんかったけどそんな事全部知っとるよ。」
山内の眼光は海老原に向いたままだった。
山内と海老原と木崎は同じ小さな公営団地で兄弟の様に育った。みんな両親は夜遅くまで仕事で遅く、3人とも毛糸で括られた家の鍵を首からぶら下げていた、いわゆる鍵っ子だった。山内と海老原より歳が4つ上の木崎は17になると自分で仕事を初め2人の面倒を見た。仕事といっても塗装屋からトロールのシンナーを盗んで売り捌いたり、大麻を家で栽培してる情報を仕入れてたタタキいわゆる強盗して売り捌き、金がある奴にはカジノを紹介してマージンを受け取ったり。少年の頃から裏社会にすんなり溶け込み、山内と海老原に色々と手伝わせた。しかし木崎は金が入ると必ず3人分に分けて渡していた。しかし当時木崎はシャブの売買には一切手を出さなかった。シャブはあかん、あれは完璧ヤクザのマーケットだわ、素人が市場に入ろうもんならすぐ消されるわと口癖のよう言っていた。山内は2人が裏社会で生きているのとは正反対に18になると港湾荷役の会社に勤めた。自分が子供の頃から貧乏だったからせめて真面目に働き金を稼いで少しでも裕福な生活がしたかった。違法な事には一切興味がなかった。普通のサラリーマンとして誰にも疑われる事なく暮らし、社会的信用を得て自分に家族が出来たら広いマイホームを買い庭先でバーベキューをする事が夢だった。
しかし海老原と木崎はどっぷりと裏社会に染まっていた。2000年代初頭MDMAいわゆる合成麻薬にいち早く目をつけ胴元から仕入れクラブで売り捌いた。そしてすぐプッシャーを雇い荒稼ぎをした。その頃から海老原は酒を飲みながら山内を仕事に誘った。
「やっぱ鉄君はすげぇよ。アガリも相当ケツモチに渡してシャブも始めてよ、それでもめちゃくちゃ稼いでるぜ。」
「ふーん。そんでお前は何人ものプッシャーを面倒見る麻薬王気取りか」
「そんな風に言うなよ。実際俺はネタなんか見た事ないし触りもしない、プッシャー達に連絡するだけ。携帯もトバシだからパクられない」
「もういいよ。俺はクスリ大嫌いなの。てか鉄君はたまに電話で話すけどいつもどこに居るんだ?日本中駆け巡ってない?」
「俺も詳しく分からねぇ、教えてくれねぇからなぁでも金はたんまりくれるよ。今日の呑み代だって鉄君のおかげなんだからな」
山内は海老原は長生きできないと常に思っていた。口は軽いしとにかく派手好き。しかし子供の頃から兄弟のように仲良くしてきた幼馴染だ。月に2回ほど海老原の奢りで酒を飲む仲だった。
「ほら、いい加減手を離してやれよ」
木崎鉄は山内の肘をポンと叩きながら笑った。
「なぁ、カズ、俺とエビは何もシャブの仕事なんか言ってないだろ?実はよ、仮想通貨の先物で利益がえれぇでちまってよ。それの管理してほしいんだわ。初めは遊びだったけど儲けがでたからお前にちゃんと税金はらって綺麗な金して欲しいんだわ」
「そんなん俺じゃなくてもいいが。なんでそんな俺に固執するの?カタギの俺に仕事誘わんとってよ。昔からの仲だから飯食ったりとかだけでいいが」
木崎はそうかそうかと頷きながらいいよ、とあっさり諦めた。あまりの諦めの早さに少しの違和感を覚えた。
「まぁ今日は久しぶりに3人集まったんだ。呑みに行こうぜ。エビ、車はコンビニに停めっぱなしか?近くのパーキングに入れてこい。今からタクシー呼ぶからよ」
海老原はビールの缶を開けるとグビグビと半分ほど飲み車を移動させに玄関を開けて外にでた。

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