「桂馬の高跳びレッツゴー」~令和将棋新格言~
将棋ウォーズ運営チームのブライトです。
皆さんは「桂馬の高跳び歩の餌食」という将棋の格言をご存知でしょうか。
将棋界では定番の格言として知られていて、「桂馬が一人で5段目まで飛んでいっても歩で取られてしまうからやめましょう」という教えになります。
もちろんケースバイケースではあるのですが、この格言の固定観念はプロ棋士でもみな持っていて、将棋AIでの研究が全盛となる以前では盲点となる桂跳ねが多くありました。
しかし、現代では桂馬の高跳びを警戒しながら駒組みを進めないと、高跳びをされた側が不利になることが多くあります。
今回はなぜ格言で駄目とされていた桂馬の高跳びが現代では成立するようになったのか、その仕組みを簡単に説明してみたいと思います。
A図
この図は先手が3七の桂馬を▲4五桂と跳ねて、後手に△4四歩と突かれた局面です。
桂馬が次にすぐ取られる状態で逃げることも出来ず、格言の典型のようなパターンで、こういった手が悪手になることは今も昔も変わりありません。
では、うまくいく桂跳ねとはどういったパターンになるのでしょうか?
桂馬が主役の戦法といえば相居飛車の「角換わり」です。角換わりの戦いは常に桂馬から始まると言っても過言ではありません。
B図
B図はA図と同じように▲4五桂と跳ねた局面です。
結論から言うと、この桂跳ねは十分成立しています。
まず先ほどと違うのは、この手が△3三銀の銀取りになっているという点です。そのため、もし後手がすぐに△4四歩などと指すと▲3三桂成で銀を取ることが出来ます。
後手の手段は△2二銀or△4四銀の2つが有力な手段となりますが、どちらを選んでも、次に▲4五桂を取る狙いがないままに先手に手番を返すことになります。
A図では後手にとって次に先手から脅威になる狙いがなにもありませんでした。そのためすぐに桂馬を取りに行く△4四歩という手を指すことが出来ました。
先手の費やした1手(▲4五桂)に後手も(△4四歩)の1手で対抗し、次の1手(△4五歩)が指せれば桂馬を除去することが出来ます。
しかし、B図では△2二銀、▲1手自由に指す、△4四歩となり、先手の桂馬が取られるプレッシャーの無い状態で攻めの手を指すことが出来るのです。
A図との大きな違いは「手番」にあります。
将棋で手番は非常に大事なものです。
相手の番ではどんなに駒を持っていようとその駒を使うことも手番を買うことも出来ません。
逆に手番を持っていれば相手に先んじて駒を動かすことが出来て、相手はその対応に追われるため、常に先手で局面を制圧することも可能です。
B図の▲4五桂に△2二銀と逃げた局面は、サッカーで言えば自陣のゴール前で相手にフリーでボールを持たれている、そんな感覚がイメージしやすいかもしれません。
※△4四歩~△4五歩の2手が指されない間はずっと先手のターン!
桂馬の攻めはAIで進化
近年AIでの将棋研究が盛んになり、人間だけでは10年掛かっても見つけられなかったような攻め筋が発見され、現代将棋は進歩し続けています。
いままでは桂馬を飛んでも、攻めが続かずに取られてしまうだけと思われていた局面が、フリーな時間を1手稼ぐことが出来たとき、その1手を生かして一気に攻めきれることことがわかってきたのです。
そのためプロの将棋では桂馬跳ねを序盤から警戒した駒組みが非常に多くなっています。
また、一気に攻めずに桂馬を損しても意外と形勢互角以上である局面が見つかったという事情もあります。
>桂得+歩切れ vs 桂損+一歩得+拠点確保
といった折衝は桂損をしていても意外と互角に戦えることがわかってきたのです。
「桂馬の高跳び歩の餌食」は格言が出来た当時と現代将棋の環境が大きく変わったことによる格言にギャップが産まれた一例になると筆者は感じています。
最後に簡単に桂馬の単騎跳ねが成立しやすい条件をあげてみます。
・角、銀など相手の駒を次に取ることが出来るとき
・盤面が戦いが始まる直前のとき
・跳ねた桂馬に自分の駒のヒモがついているとき(ヒモとは利きがある、取り返せるいう意味)
・跳ねた桂をすぐに駒損せず取られる手が無いとき
この4要素を3つ以上満たしているとき、単騎特攻が十分成立するかもしれません。
矢倉でおなじみの▲2五桂は4つとも満たしている安心の桂跳ねです。
桂跳ねマスターは有段者への第一歩
桂馬の高跳びは「歩の餌食」になるか「鋭い攻め」になるか表裏一体の手段です。
誰しもはじめから上手く攻めることは出来ませんが、行けるかもと思ったら恐れず攻めにチャレンジしてみてください。
もし失敗しても、それが失敗するパターンだと覚えられるだけで儲けものです。
そして高跳びの成功感覚を掴んだ時、もう有段者の扉は目の前です。
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