憧れ

久しぶりにnoteを書く。
知っている人は私がなぜ「アマ大会の個人戦にはもう出ない」とまで断言したにも関わらず、アマ名人戦の予選に来ていたのか不思議に思うかもしれない。
聞かれる度にはぐらかしてきたが、近況報告に
ついてはいずれまた。

今回の記事は昔憧れた先輩棋士の話。
僕は修業時代、相当な数の記録係をこなした。
奨励会の後半から独り暮らしを始めたこともあって、生活のために記録でもらえる報酬で主に生計を立てていた。生活するためには長い持ち時間の記録をたくさん取らなければならない。平日はなるべく順位戦の記録を取って勉強しながら生活費を稼ぐのが当時の日課だった。
当時から言われていたことだが、記録係で将棋の勉強をするというのは効率が悪い。AIで研究する時間に当てる方が効率がいいし、棋譜を見るだけならわざわざ記録を取らなくても後でデータベースで確認すればいいからだ。
ということで今も昔も敬遠されがち(特に三段)なのだ。記録を好き好んで取るメンツというのはだいたい固定されていて、職員さんにも顔と名前を覚えてもらいやすい。おかげさまで普通は三段が取るであろうタイトル戦の記録を取らせてもらえたりもした。今思えばありがたい話だ。

その日の僕は順位戦ではなく、早指しの予選の記録係だった(ちなみにだが早指しの記録はそこそこ人気があって、家に帰ってから将棋の勉強をする時間が取れる上に報酬が貰えるのが美味しいのだ)。
たくさん記録を取ってきたが、その先生の記録は初めて、しかも過去にA級になった経験もある大御所…ということで、少し緊張もした。
対局の内容はもはや圧巻だった。申し訳ないけど手合い違いとしかいいようがないくらい、その先生の圧勝で、早指しなのに持ち時間も残してしまう余裕っぷり。

「A級って、こんな強ええのか」

帰り道にそんなことを思った。
記録を取って対局者のことを強いな、と思ったことは何度もあるし、自分が弱いのが悔しいのでその度に「もっと強くなりたい」と前向きな気持ちにさせて貰えるのが記録のいいところだが、その中でも本当に強いと思ったのはこの先生と郷田先生、木村先生、深浦先生だけだ。

先生のことを嫌う人も内外問わず大勢居るんだろうけど、僕は風雲児たる先生のスタンスが本当に大好きだった。
この文章が先生に届くことはきっと無いだろうけど、僕にとっては子供の頃からずっと、そしてこれからもアイドルであり続けると思う。


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