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【劇場の声】北千住BUoY(東京都足立区)

みなさま、こんにちは!
東京都足立区の北千住BUoYと申します。

2016年のある日、とあるマンションに引っ越してきたアーティスト(アベちゃん)が、管理人さんに連れられて2階と地下に降りてみると、そこにはなんと900㎡の面積を持つ非現実的なレベルの廃墟がぽっかーん、と広がっていました。自分のアトリエを持つために30㎡ほどの面積を探していたアベちゃんは、若干動揺しつつも知り合いのアートディレクター兼ギャラリスト(志賀さん)に相談し、そこからどんどん人脈の輪が広がり、この場所をなんとか劇場とギャラリーを備えたアートセンター的な感じで活かせないか、ということで管理会社に相談、当初は会社からの大反対に合うも、年末12月30日に現・代表の岸本を含めた数人で命をかけた決死のプレゼン(という名の社長への直談判)を行い、大反対していた部長さんからまさかの「感動した。」とのお言葉を賜り、その後もありとあらゆる頓挫の危機を乗り越え、関係者一同はやや血まみれになりながら何とかオープンへと舵を切りました。

BUoYは、海に浮かぶ「浮標 (ブイ)」です。(実は、BUoYロゴの「o」は水面に浮かんでいます!発案とデザインは志賀さんです→「このネーミングのコンセプトは、不信の水位が知らぬ間に上昇して、誰もが足がつかず立ち泳ぎをしているような時代にあって、自らもプカプカと浮かびながら、時に目印になり時にはつかまって一息ついたりするような存在でありたいという思いで名付けました。 ロゴタイプは「o」だけが小文字で、シェイプを正円してブイに見立てました。他の3文字の上のラインが水面でプカプカ浮かせています。パッとみたときの違和感が、後にひとつのゲシュタルトとして印象に残るようにデザインしました。」by志賀良和)

浮標は沈められても沈まない指標であり、水上で方向を見失った船の目印にもなります。元はラテン語からゲルマン語に転じた稀有な単語で「励ます」「高水準で保つ」「元気づける」といった意味もあります。荒川と隅田川に囲まれ宿場町として栄えた千住の歴史を内包しつつ、先鋭的・実験的作品を発信して行く、また、若手アーティストを応援する、という意思を込めて、この名が付けられることになりました。

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先述の通りBUoYは、2階は元ボウリング場、地下は元銭湯という歴史を持つ、20年以上放置されていた廃墟を若手芸術家たちの手によって改装し、2017年10月にアートセンターとしてオープンしました。2階にはBUoYカフェと、美術の展示を行うギャラリーや稽古場があり、地下は主に演劇やダンス、現代音楽の公演を行なうスペースとなっています。オープンからまだ3年も経っていない新参者ですが、詩、建築、演劇、ダンス、飲食、映像、現代美術といった多様なジャンルのコラボレーションにより「異なる価値観との出会いを創造する」「社会的無意識という名の他者と出会う」をテーマに多岐にわたる作品やプロジェクトを発信しています。
そんなBUoYには、地元、日本全国、世界各地から数多くのアーティストや観客の皆さまが訪れてくださっています。皆様、いつも本当にありがとうございます!!

2階の元ボウリング場スペースの一角は、広々としたカフェになっています。BUoYカフェは「万人に開かれた劇場のロビー」です。コロナの影響で閉店していましたが、6月12日にカフェを再開。そしてこちらはまだ再開できていませんが、毎週月曜夜にビルのオーナー代理人と「子ども食堂」を開催しています。
子供は無料、大人は300円で有機野菜のカレーや数種類のおかずが食べ放題。地元の皆さまとBUoY利用アーティストが共に食卓を囲みます。

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オーストラリアの著名彫刻家が展示準備をしている所に子どもたちが興味津々で作品に触れたり、英語のできるお客様がその場で通訳をして下さったり、それを受けてアーティストが作品について即席のレクチャーをしてくれたり。フランスの舞踏ダンサーの公演を0歳児も含め子どもたちが走り回りながら観劇したり。冷たいビールを飲みながら地下スペースで現代演劇の公演を楽しめたり、舞台美術が観客に襲いかかるという予想外の公演内容に地下スペースが阿鼻叫喚の渦に巻き込まれたり。2階の企画と地下の公演が期せずしてリンクしていたり、そのつもりはなかったのに意外と両方のハシゴができてしまったり。

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運営側も予想外のカオスが無限に生成していくことがBUoYの特徴です。

同調することや予定調和の中で暮らしていくことが求められがちな日本社会で「当たり前」を疑い、世の中を、ちょっと違った角度から眺めるヒントをくれる場所。消費活動に巻き込まれずとも「居る」ことができる場所。そこに行けば、自分と違う「なにものか」と出会える場所。若く、先鋭的で、この社会に対する意思を持った作品と出会える場所。私たちは、BUoYをそういった場として立ち上げていくことで、より多様性に対して開かれた社会を創造していきたいと思っています。

BUoYは、特定のメンバーによる事務局のような組織を持っておりません。BUoYが好きで、演劇が好きで、美術が好きで、ダンスが好きで、詩が好きで、建築が好きで、音楽が好きで、もう好きで好きで止まらない、という現メンバー(たぶん15人くらい)が、勝手にじゃんじゃん企画や課題を上げてどんどん実行していきます。

もしBUoYを好きなあなたがそこにいらっしゃったら、ご一緒にぜひ。

3月下旬から全館ほぼ休業の状態が続き、このままの状態がずっと続いたらBUoYではなく錘を失った浮きになってしまう…という絶望的な無力感に襲われました。でも、「全国小劇場ネットワーク」のおかげで緊急事態宣言中もZoom会議で全国のスペース運営者の方々と情報交換を密にすることができ、独りで闘うのではない、全国のスペースと連携して状況を打開していくのだと励まされ、再開に向けて奮起することができました。まだまだ、状況は予断を許しません。再開後の課題は気が遠くなるほど山積みです。でも、ひとつひとつ丁寧に、でき得る限りの議論と対策を重ねて、「再開後」へ再び舵を切って参ります。

先述の通りBUoYカフェは先週から再開し、地下スペースと2階展示スペースも順次、再開して参ります。いつもお世話になっている方も、はじめましての方も、当館でお会いできる日を楽しみにしております!

北千住BUoY代表/芸術監督:岸本佳子


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