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小川絵梨子(演出家・翻訳家)さんより

想いをともに

 学生時代から部活動として演劇を始めてはいたものの、本格的に演出を学んだのはアメリカであり、帰国後の日本での創作活動もまだ10年ほどという私は、日本の演劇シーンに関してまだまだ学ぶべきことが多い状態です。殊に国内各地域にどのような劇場があり、どんなアーティストや地域の方々と協働して舞台芸術を盛り立てているかを知る機会は足りておらず、全国小劇場ネットワークさんの活動、そこから教えていただくことが非常に多いと感じています。

 スタッフ・キャストが創作に邁進する姿勢は、どんな地域でも変わらないもの。ただ、これはあくまで私の印象ですが、大都市圏では作品に直接的な結果や成果が問われ、商品としての作品がめまぐるしく生産・消費され続けているように感じます。作品の多彩さや観客数の多さなど、都市圏ならではの豊かなさもある一方で、そのサイクルの速さゆえに置き去りにせざるを得ないものも出て来てしまう。それら課題にいかに対処するかが、現在の私の興味の持ちどころであり、そのための具体的な方法や長期的展望を模索しています。

 全国小劇場ネットワークに参加されている劇場の方々、そこから発信される活動や地域との結びつきは、作品という収穫だけでなくその創作過程や、遡って地域の文化芸術を生み出すための土壌から見つめ直し、豊かにしていこうという、実に健康的な取り組みをされていると感じています。

 もちろん、地域ごとにそれぞれのご苦労はあると思いますし、課題として取り組んでいらっしゃることも多いでしょう。けれど、それらを解決すべく生まれる創意工夫や、つくり手と観客互いの立場を超えたコミュニケーションは、経済や創作の規模に関係なく、地域と人に確かな実りとして還元されていくと思えるのです。

 大都市偏重の活動は、それが経済であれ文化であれ、既に生じ始めている歪みがこの後も進んだ場合、早晩、何らかの行き詰まりにぶつかるはずです。その行き詰まりに絡め取られぬためには、自分たちが今、居る場所とは異なるところにある視点から刺激を受け、新たな気づきや学びを得る必要があります。場所、立場、状況など様々な違いは断絶を生むものではなく、凝り固まった価値観や考え方を手放し、可能性を広げるものであるべきだと私は思うのです。

 多くの業種がその活動に甚大な被害をこうむり、非日常が日常になった今、私たち舞台芸術に携わる者に何ができるのか。表現活動を続けるため、ともにある観客の信頼を取り戻すべく何を考え、どう注意を払い、実践すべきか。考えることは山のようにあり、それらに対し、誰もが頷くことのできるような、決まった正解を導き出すことも難しいとわかった今、世代や立場に隔てられることのない対話や情報の共有こそが、真に必要とされていると思います。

 2018年の新国立劇場演劇部門 芸術監督就任に際して掲げた三つの指針の一つに、「横の繋がり」があります。国内外を問わず、それぞれに活躍の場を持つ舞台芸術の専門家との交流を劇場として積極的に図り、多彩な経験と知識を創作物以外の形でも観客に還元していくというものですが、皆さまの活動はこの指針にも大いに重なるところがあると思います。

 私自身、まだ学びの途中にある身ではありますが、皆さまの活動に強く賛同するとともに、私の想いもまた、常にそのそばにありたいと願ってやみません。

小川絵梨子(演出家・翻訳家)
東京都出身。2004年、ニューヨーク・アクターズスタジオ大学院演出部を卒業。演出家としてさまざまな作品を手がけ、紀伊國屋演劇賞個人賞、読売演劇大賞優秀演出家賞ほか受賞。2018年9月より新国立劇場演劇部門芸術監督に就任。
小川絵梨子さんは、上土劇場の再開公演となるTCアルププロジェクト2020『じゃり』を演出されます❗

TCアルププロジェクト2020『じゃり』
脚本・演出:小川絵梨子
出演:串田和美、近藤隼、武居卓、細川貴司、下地尚子、深沢豊、草光純太、坂本慶介/毛利悟巳、田村真央
7月22日(水)〜26日(日) 会場:上土劇場
※詳細 http://age-geki.jp/2020/06/08/2311/
(7月16日(木)〜18日(土)、まつもと市民芸術館公演があります)
※『じゃり』公演の問合せ:まつもと市民芸術館チケットセンター
[窓口・電話] 0263-33-2200 (10:00~18:00)
主催:一般財団法人松本市芸術文化振興財団
後援:松本市、松本市教育委員会
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(劇場・音楽堂等機能強化推進事業)
   独立行政法人日本芸術文化振興会



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