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【第3回シアターホームステイプロジェクト】一宮周平 レポート

若手の演劇人・アーティストが他地域の小劇場に滞在し、今後の活動について構想する「シアターホームステイプロジェクト」。
2023年7月~2024年1月に行われた第3回目の参加者によるレポートの紹介です。


■一宮周平(PANCETTA)
 東京→札幌
 生活支援型文化施設コンカリーニョ 2023年8月23日(火)〜 9月4日(月)


 2023年8月23日(火)〜9月4日(月)まで、札幌市琴似にある、生活支援型文化施設コンカリーニョに滞在させていただいた。
初日、琴似駅に着くとコンカリーニョのキムさんがお迎えしてくれた。とても優しく迎えてくれ、初対面特有の話をしつつ、劇場内を案内してくれた。コンカリーニョは、総席数200席に満たないくらいの規模の劇場で、客席、舞台は可動式。様々な形で公演やイベントを行えるスペースであると知った。そして、一階の楽屋が私の部屋となった。貸し布団を借り、広々とした空間に約2週間お世話になる。
 
 滞在日程の予定を確認し、キムさんが企画してくれた、一宮周平を囲む会が開催された。が、当然ながら、囲まれることはなかった。誰も私のことなど知らないのだから当然である。コンカリーニョのキムさんと、札幌のあれこれを話しながら楽しい夜を過ごした。途中、コンカリーニョのもえぎさんも顔を出してくれ、その場で、ラジオ出演が決まり、木下大サーカスのチケットまでいただいた。コンカリーニョは、私の訪問を歓迎してくれる、あたたかい劇場である。
 
 札幌では、ワークショップを企画した。札幌在住の演出家、弦巻楽団の弦巻さんの協力も得て、無名の私の企画にも関わらず、7名の参加者が集まってくれた。ワークショップの詳細はこちらhttps://note.com/pnct/n/n32791a2688ef
 
 参加者は高校生から50代まで幅広い年齢の方々が集まり、対話することを大切に、4日間でひとつの作品を作り上げようという趣旨にした。複数人でひとつのものを作り上げるというのは相当な労力が必要な行為である。それも、ゼロからだ。それぞれがそれぞれの仕事をすれば形になるものではない。目の前に集まった仲間たちと対話を重ね、試行錯誤し、少しずつ形になったり、形にならなかったり。それらをひたすらに繰り返しながら、あるかどうかも分からないようなゴールに向かい、進み続けるしかない。参加者は、これから俳優を目指していきたい人、過去にやっていた人、学生に指導している人、研究し続けている人、様々な企画をする人など、様々な関わり方をしていて非常に興味深かった。そして何より、一生懸命に作品づくりに取り組む姿勢が印象的で、愛おしい瞬間に何度も触れることができた。
 
 作品は「鶴の恩返し」をテーマに、構成要素を分解し、それらを言語を用いずにシーンづくりをしてもらい、集まったシーンを再構成し、形へとしていった。最終日の発表会には、20名以上の観客が集まり、たった4日間で作り上げた作品を携えた参加者たちは、生き生きと羽ばたいていた。会場はターミナルプラザことにパトス。コンカリーニョが経営する、地下鉄琴似駅構内にある、音楽スタジオとホールだ。立派なホールで4日間稽古と発表をさせてくれたコンカリーニョのみなさまには頭が上がらない。本当にありがとうございました。
 
 参加者の感想をいくつか紹介する。
・私は日頃中学生と演劇を作っていて、教える事はあっても教わる機会はなかなかありません。自分自身もっとレベルアップしなければ、と思いワークショップの参加を決めました。
 この四日間たくさんのことを受け取り、そうだ。演劇って楽しいんだよな、ここが面白いんだよなと何回も感じました。
いろんなワークで対話をしました。フルネームも職業も知らない私たちですが、回数を重ねるごとに目を合わせるだけでどんどんお互いの気持ちやどんな行動がしたいのかが、わかってくるのが面白いと感じました。
 いっちーさんが私たちのことを何度も素敵と伝えてくれたおかげで、お互いの考えや意見をうんうんと聞き、こうしたらああしたら、とりあえずやってみようと自分の思いを素直に伝えられるグループになりました。
 時間にして19時間という短い時間ではありましたが、一生の宝物ができたような感覚です。素晴らしい時間でした。
今回できた縁を大切にして、活動していきたいです。
 
・「PANCETTAでは、ハラスメントポリシー等の明文化は行なっておりません​が、いかなるハラスメントにも反対し、創作の場で誰かが傷つくことのないよう、最大限配慮して臨みます。嫌なことを無理やりやらせる等はいたしません。また、ハラスメントに該当するような事態が発生した際には、お互いが理解し合えるよう対話することを望みます。」
(note、PANCETTAワークショップin北海道より)
 まずはじめに上記の内容の噛み砕いた説明がありました。
コミュニケーションを最大限大切にし、お互いに関わりを深め少しずつ内面に触れていく際に、傷つけあうこともあるかもしれない。
だから言葉を決めてハラスメントの有無を一概に判断することは難しいと、あえて明文化をしないその理由に納得しました。
 ワークショップの内容は最初に述べられた通り、とにかくコミュニケーションを大切に大切にとっていくワークが多かった印象です。
呼吸、視線、表情などなど。
色々なものを感じ、伝えることのワークショップでした。
まだ名前しか知らない人でも言葉を介さないで様々なコミュニケーションが取れることに驚き、とても楽しい経験となりました。
 ワークショップを通し、言葉のない空間で呼吸を続かせて、コミュニケーションを取り続けることでそこに居られる感覚を少し掴むことができました。
言葉は手段なんだと。
 本当に楽しかったです。
 ありがとうございました。
 
・たのしすぎる四日間をありがとうございました。
目と目、身体と身体、息づかいと息づかい、全身をつかって相手を感じたワークショップでした。
言葉を極限まで使わずに相手と交流することで、「相手が発している何か」を一瞬一瞬溢さずに受け止めていくこと、自分の内側で感じたことをより微細に自覚していくことができました。
この四日間でもらった感覚を大切にこれからも創作を楽しみたいと思います!
 
・舞台の上に人がいる。そのことには人が存在する、ということ以上の何かがある。そして、舞台にいる人を見ることは、それだけで面白いことである。まずはこれらの点を認めた上で、舞台の上に人がいることを突き詰めていくことが、演劇の核心にあるのではないか。こんなことを強く実感することができた4日間のWSでした。それは、一宮さんのWSが「対話」の根幹にある「人が存在することを受け止める」ことに信を置いて構成されているからではないかと思います。エクササイズ、創作過程、そして舞台稽古を通じて、演劇について体験しつつ理解を深めることができました。機会がある方は一度、WSに飛び込んでみることをお勧めします。
 上のようには書いているのですが、舞台の上でその人として生きるためには、もっと鍛錬を積む必要があるし、そういう俳優のお仕事とは、すごいものだと、自分でやってみて実感しました。
と書いていて、もしかすると逆なのかもしれませんね。私たちは普段、生きて存在していることについて無自覚にすぎるということなのかもしれません。人間はどちらかというと不器用なので、生きて存在することに自覚的になりすぎると、にっちもさっちも行かなくなって、動けなくなってしまうのかもしれません。むしろ、生きて存在していることについて無自覚であることで実生活が成り立っているのかもしれません。だから、舞台の上で、改めて生きて存在することを考えるとギクシャクしてしまうのかもしれません。そういう意味でも、普段の生活でも、もっと自分や相手の身体に目を向けること、生きることについて考えることがあっても良いのかもしれません。歩くことに自覚的になるように。少し大袈裟な書き方になっていますが。
思考や感情の根っこには、身体があるので、思考から始めるのではなく体から始めること、そのことを端的に感じることができる演劇は、もう少し教育の現場にあってもいいのかなと改めて思いました。
 
 
 一週目は基本的にワークショップを中心に進んでいった。10月に控えたPANCETTAの新作が”ゾウ”をテーマの作品だったため、その頃産まれたばかりの子ゾウのいる円山動物園に行ったり(公開されていなかった)、走って札幌の町を散策したりしながら、あっという間の一週間となった。東京からの訪問で、避暑も兼ねてと思っていたが、とんでもない、札幌で過去最高気温を記録するなど、非常に暑い一週目となったが、朝晩は東京都は湿度が違い、過ごしやすかった。また、地下鉄琴似駅周辺にはクスサン(蛾の一種)が大量発生し、歩くのも困難な道すらあったが、貴重な体験となった。キャンプ場にて行われる野外劇にも行き、札幌の夜空を眺めながら行う劇などなんて贅沢なんだろうと感じ、新たなアイデアも浮かんできた。
 
 二週目は、特に予定がなかったはずなのだが、一週目に出会った人々との縁でどんどんと予定が作られていった。本当にありがたい。参加者の一人が指導する中学校の演劇部にお邪魔したり、コンカリーニョの太田さんに八剣山に連れていってもらったり、もえぎさんのラジオに出演したり、コンカリーニョの総会に参加し、劇場創設の頃の方々のお話を聞いたり、札幌の同世代の演劇人と熱く語り合ったり、書ききれないほど盛りだくさんの一週間となった。人が人を呼び、気づけばたくさんの人と会った滞在期間となった。大通近くにあるSCARTSの見学もさせてもらい、札幌の文化芸術への関心の高さにも触れた。SCARTSにある図書館は何時間でもいられる。最終日はコンカリーニョにて行われたことにマルシェの設営バラシを手伝い、劇場の舞台の構造についても理解出来た。同じくシアターホームステイにて札幌のシアターZOOでの滞在が始まった、栃木県に住む黒岩さんにもお会いでき、この企画ならではの交流も生まれた。
 
 札幌は、想像していた以上に演劇や劇場が身近にある街であった。しかし、東京と似たような課題は抱えていて、どうしても狭い範囲にしか届かない。現地の人からすると、その課題はより顕著なようだった。劇場の稼働率も、東京の劇場とは全然違い、100%に近くなることはほとんどないのが当たり前。どのようにして演劇に触れてもらうべきなのかは、どの地域でも課題なのだろう。ワークショップを開催するにあたっても、別で仕事を抱えながら俳優活動をしている人がほとんどなため、平日昼間にやっても人は集まらないとの情報を得た。このことに対する是非というよりも、どのように演劇と生活とが寄り添っていくのかにも関心が湧いた。
 
 私自身、演劇というものが何か特別な催しであることに対しては、常々違和感を持っている。人間を演じるということは、もっと身近にやっているはずだし、もっと身近に楽しんだり、学んだり出来ることなのだと思う。具体的な何かはまだないが、東京では出来ないことが札幌では出来るのではないかとも思う。ここで出会い、繋がった縁を大事に、遠くない未来、札幌の地で作品や演劇にまた触れようと思う。素晴らしい機会を与えてくれた全国小劇場ネットワークの皆様、コンカリーニョの皆様、本当にありがとうございました。
 
 全国の演劇人のみなさま。今いる世界がすべてではありません。ぜひ、外の世界へと踏み出してみてください。新たな気づきや発見だらけです。こんな素敵な機会、逃すなんてもったいない。ぜひ、次の機会にご応募ください。私は、素晴らしい時間をいただきました。

主催:一般社団法人全国小劇場ネットワーク
助成:公益財団法人セゾン文化財団「創造環境イノベーション」

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