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【第3回シアターホームステイプロジェクト】黒岩美穂 レポート

若手の演劇人・アーティストが他地域の小劇場に滞在し、今後の活動について構想する「シアターホームステイプロジェクト」。
2023年7月~2024年1月に行われた第3回目の参加者によるレポートの紹介です。


■黒岩美穂(大学生・ユニット「さくらんぼみかん」)
 宇都宮→札幌
 扇谷記念スタジオ シアターZOO 2023年9月1日(金)〜8日(金)


1  はじめに

このレポートは私(黒岩)がシアターホームステイに参加し、感じたことについて述べていくレポートである。最初に滞在実態を日付ごとに記した後、シアターホームステイに参加して考えたことについて大きく2つに分けて述べる。
私の滞在実態についても簡単に触れる。私は2023年9月1日から2023年9月8日まで北海道で過ごした(1日と8日はほぼ1日を移動に費やしたため、実質北海道で活動したのは2日から7日の6日間である)。この日程に行ったことは以下のようなものである。

9月1日(金)
・宇都宮から札幌へ移動。
・シアターZOOで打ち合わせ。

9月2日(土)
・ターミナルプラザことにパトスにてOrgofA『エアスイミング』観劇。
・市電一周。

9月3日(日)
・コンカリーニョでのマルシェに行く。
・演劇専用小劇場BLOCHにてヨコオ制作所『象に釘』観劇。
・コンカリーニョにて雑談&ご飯。

9月4日(月)
・恵庭でのJAPAN LIVE YELL project in HOKKAIDO 2023のラジオドラマ企画の打ち合わせに同行。
・シアターZOO見学。
・札幌座、シアターZOO、北海道演劇財団について聞く。
・劇団ひまわり みずとめ座『ザ・シェルター』通し見学。

9月5日(火)
・洞爺湖中学校でのワークショップに同行。
・洞爺湖教育委員会で話を聞く。

9月6日(水)
・劇団しろちゃんシアターZOO公演打ち合わせ同席。
・札幌市文化芸術基本計画検討委員会について話す会に同席。

9月7日(木)
・あけぼのアート&コミュニティセンターにて若手劇作家戯曲講座成果発表公演『言葉と牛丼』場当たりと通しを見学。
・ポケット企画『見ててよ』通し見学。

9月8日(金)
・さっぽろオータムフェストで食べ歩き。
・札幌から東京へ移動。

2  シアターホームステイに行って考えたこと

ここからは、私がシアターホームステイに参加して特に考えたことについて大きく2つに分けて述べていく。一つ目は、教育に演劇を取り入れている場に触れたことであり、もう一つが自分にとっての演劇を見つめ直すきっかけになったことである。

一つ目は教育に演劇を取り入れている場に触れたことである。教育の場で「演劇」をやることは事例としては知っていたが実際に目にしたことが今までなかった。しかし、今回洞爺湖中学校でのワークショップに同行したことで、演劇を教育に取り入れることへの自身の興味に気が付くとともに、その特徴について考えることができた。
洞爺湖中学校では学校行事の一環として演劇を取り入れている。他の中学校で言う、校内の「合唱コンクール」に近いものだと私は解釈している。授業の時間などを利用して稽古や制作を行い、最後は校内の全体発表の場で披露するそうである。学年混合の紅組と白組にわかれ、それぞれ一作品を創っていた。この創作の過程で、外部講師を呼んでおり、私はその外部講師として呼ばれた方に同行させていただいた。
私は洞爺湖中学校でのワークショップの見学中、自身が中学生のころに経験した合唱コンクールと比較して見ていた。その中で感じたことは、演劇はコミュニケーションや「考える」ことを実践的に使う場だということである。
合唱コンクールは、自分の役割を大きく意識することは指揮者や伴奏者にならない限りあまりなく、各個人がよりよくするために「考える」機会は少ないと感じている。また、指揮者やクラス委員など、引っ張っていく人の言うとおりに練習を行えば、一定の完成度や一定の達成感が得られるものだと思う。その一方で、洞爺湖中学校で見た演劇ワークショップは、そのシーンをよくするために個人が「考えている」様子を見ることが多かった。外部講師の方が投げかけたことに対して考えるだけでなく、普段の稽古でも各シーンをどうするのか考えているのだろうと思えることもあった。もちろん、リーダー的な立場の生徒はいたが、その生徒だけでなく個人が、自分が出るシーンや各シーンに対して積極的に働きかけていたように思う。
また、「考える」だけではなく、臆せずに意見を言う空気も見学していて感じた。演劇自体がコミュニケーションによって創られるものだと思うが、その過程でも演劇は、「人に考えを伝える」練習の場としての機能を果たすことができると実感した。
ただ、これらは洞爺湖中学校だから可能だった、という側面もあると思う。大体の生徒が小学校から一緒で既に互いをよく知っているため、意見を言いやすい雰囲気があるという話も聞いた。そのため、他の中学校に取り入れるとすると、意見を活発に交し合える段階に持っていくことがまず難しいだろうとも思う。
これらのことを考えている過程で、私は演劇を教育に取り入れる取り組みに興味があるのだと気が付いた。私は演劇の特性を意識して演劇を捉えることが好きなのだが、その特性と教育が合致することに見学しながら気が付き、教育と演劇のかかわりについて興味を持つきっかけになった。これは、シアターホームステイでの滞在の中で得たものの中でも大きい。
上記のような、舞台を「創る」以外での演劇に関する興味に気が付いたことは、自分にとっての演劇を見つめ直すきっかけにもなった。これが二つ目である。今までは「創る」こと「観る」ことのみで演劇に関わっていたが、それ以外にも「支援する」ことなどかかわり方は他にもあり、私の興味は「創る」こと「観る」ことのみではないことに気が付いた。これは今後自分が就職をする際にも活きてくると感じている。

また普段周りにいる人たちとは違う道を進んでいる人たちに出会えたことで、その人たちと自分、普段の地にいる自分と滞在先の自分を比較したことで自分自身を見つめ直すことができた。普段私の周りにいる人たちはその多くが就職し演劇とは別で仕事をしながら趣味の範疇で演劇を続けている。しかし、滞在先では、舞台を創って生活をしている人や、別で仕事をしていても、作品を賞に出すなど趣味の範疇とは言い切れないと思う人がいた。
彼らと、私や普段周りにいる人たちとの違いとして感じたのは、演劇に向き合う姿勢である。滞在先で出会った上述の方々は「舞台を創る」という行為に、より強いこだわりと信念、そして責任感のようなものを持っているように感じた。同じようにお客さんがいて舞台をやっていて、(金額の差はあれど)同じようにお金を取って公演を行っていると考えれば状況的には大差ない。状況は同じはずだが、生まれているこの「違い」を突き詰めて考えていくことが、自分のこれまでの演劇との向き合い方と今後どう関わっていきたいのかを考える一つの材料になるのかもしれないと思う。
この「違い」を考えてみる際に、普段自分の周りにいる人を見渡してみると、「演劇に近いもの」がやりたい人がいることに気が付いた。何かのきっかけで「演じること」に憧れて演劇ができる団体に入ったが、観劇に行くことはなく、多少勇気が必要でも古典を読んでみよう、となることもなく、ただ公演ができれば良いと思っている人というのは部活動やサークルをはじめとして一定数いる。
人によってかかわり方はさまざまであるため、そのようなかかわり方もあると思うが、私は私にとっての演劇を「演劇に近いものができれば満足」という範囲では終わらせたくないと思っている。様々な舞台を観て、古典も読み、演劇を使っているシーンに多く触れてみたいと思う。私は今後の人生において演劇とどう関わっていくのかはまだ決められておらず、自分が所属している様々な団体での立ち位置や振る舞いを模索して悩んでいる最中でもある。ただ、「なんとなく」で演劇を続けるだけでなく、何かその先を見る努力をするとともに、考えてみたいと思っていることにこの滞在で改めて気が付いた。

3  終わりに

ここまでシアターホームステイに参加して特に良かったと思うことの二つについて述べてきた。短期間の滞在だからこそできることがあり、それによって新たな視点や価値観を得て、自分を見つめ直すことができた。この経験を活かして、自分が今後どう演劇と関わっていくのか、また、どう宇都宮の地で活動していくのかを考えていきたいと思う。ただの「旅」ではなく、常に頭に「演劇」がある状態で過ごせた一週間は私にとってとても有意義な時間だったと思っている。

謝辞

今回私がシアターホームステイに参加できたのは多くの方々の協力のおかげです。私を推薦してくださったアトリエほんまるの片岡さん、受け入れてくださったシアターZOOの皆さま、繋いでくださった全国小劇場ネットワークの皆さま、関わってくださった皆さまに心からの感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。

主催:一般社団法人全国小劇場ネットワーク
助成:公益財団法人セゾン文化財団「創造環境イノベーション」


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