新まえがき|池上彰『新・世界から戦争がなくならない本当の理由』
新まえがき――やはり戦争が起きてしまった
第二次世界大戦は、ポツダム宣言を受諾した日本が、アメリカやイギリスをはじめとする連合国に無条件降伏して終結しました。一九四五年のことです。この年の五月、ドイツが連合国に降伏しています。日本では、昭和天皇の「終戦の詔書」がラジオ放送(いわゆる玉音放送)された八月一五日を「終戦の日」としていますが、世界的には九月二日が第二次世界大戦の終戦です。これは、日本が降伏文書に署名・調印した日だからです。
あれから七九年。まもなく戦後八〇年を迎えます。
日本は戦後、平和を誓い、憲法に「戦争の放棄」を定めました。戦時中に疎開生活を経験されている上皇陛下は二〇一八年一二月、天皇として最後の誕生日会見で、「平成が戦争のない時代として終わろうとしていることに、心から安堵しています」と述べられました。在位中は戦争犠牲者の慰霊を続けてこられました。いまの天皇陛下も、その平和への痛切な思いを受け継がれています。戦後の日本は、戦争の当事国になっていません。
しかし世界では、内戦、国境紛争、民族対立、宗教対立、テロとテロへの報復、大国による軍事介入など、原因や形態は異なるものの、戦火が絶えることがありませんでした。どの戦争でも多くの血が流れ、命が失われました。
悲しいことです。
世界中の人々が、戦争のない平和な時代を熱望しているはずなのに、なぜ世界から戦争はなくならないのか――。そんな素朴な疑問に答えようと、この本が生まれました。最初は、戦後七〇年という節目の二〇一五年七月に単行本として刊行されましたが、四年後の二〇一九年七月、加筆・修正のうえ、新書版に装いをあらためました。その「新書版まえがき」を、私は次のように結んでいます。
「世界から戦争がなくならない本当の理由」という書名には、「だからこそ理由を解明して戦争をなくさなければならない」という思いが込められています。
こんな題名の本が出なくても済むような時代が来ることを願いつつ。
この願いに変わりはありません。
ところが、悲しいことに、いまも「世界から戦争がなくならない」状態が続いています。二〇二二年二月、ロシアがウクライナに侵攻しました。中東パレスチナの地では二〇二三年一〇月に、イスラム組織ハマスとイスラエルとの間で戦闘が始まりました。
今回、このロシア・ウクライナ戦争とパレスチナでの戦闘について、また日本を取り巻く安全保障環境について説明するべく、新章を設けました。それ以外の部分も加筆・修正しています。世界から戦争がなくならない本当の理由について、一緒に考えていきましょう。
ジャーナリスト・名城大学教授
池上 彰