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舞台『私立探偵 濱マイク -我が人生最悪の時-』

濱マイク役…佐藤流司
楊海平(ヤン・ハイピン)役…寺西拓人
星野役…矢部昌暉<Wキャスト>
楊徳健(ヤン・トッケン)役…椎名鯛造
濱茜役…小泉萌香
王百蘭(ワン・バイラン)役…七木奏音
中山刑事役…和興
ジョーシシド(宍戸錠)…佐久間祐人


「俺の名前は濱マイク、本名だ。困った時は、いつでも来なよ。」

映画、ドラマと、平成に衝撃を与えた私立探偵濱マイクの令和版というべきか、前回は朗読劇だった本作が舞台版になって帰ってきた。
私としては世代ではないが、ドラマ版を夜ふかしして観ていた。茜のイメージでどうも中島美嘉さんが強すぎて、濱マイクの妹がJKというのに馴染みがありませんでした。市川実和子さん演じるミルクがいないのも馴染みがありません。また見直したいですね、ドラマ版。

もともと、濱マイクのシリーズは永瀬正敏さんが往年の探偵ドラマの「探偵物語」や、「傷だらけの天使」を次世代に伝えるべく制作されたと、ネットの記事で読んで知りました。後追いで観た松田優作さんも萩原健一さんも、渋くてカッコいいのだけどどこか親かもっと上の世代の人の憧れキャラクターだと思っていました。どちらのドラマもバラエティー番組のパロディが初見でした。
私の時代には、後に33分探偵や仮面ライダーWなどが出てくるのだけど、毎話世界観からオシャレで、ロカビリーファッションのワルいお兄さんが事件にタチムカウような、そんなドラマが楽しかった記憶です。女性もゲストキャラクターも魅力的でした。好きな俳優さんやミュージシャンばかりが出演されていました。

私の思い出話はさておき。

主演の佐藤流司くん自身も自ら舞台化を提案するなど、現代になっても役者発信で本作は生き続けている。

今回、舞台版の濱マイクの感想です。
ネタバレもあるので、観たくない人は回れ右‼︎←Y2K(平成リバイバル)文体

平成版の元祖濱マイクが
ロカビリーロックンロール

対して

令和版のオマージュ濱マイクは…

ヴィジュアルショックラウド
〜ニューロック(履いてそう)を添えて〜

内容は映画版を観ていただくとおおかた伝わるかと思いますが、ヤンハイピン(依頼人)が台湾の人で、台湾という場所は時代からすると今のように容易に往き来する国という印象はなかった。そこに韓国の人も居て、黒狗会って悪い組織があるのだけど、組織は日本人に帰化したアジア系外国人だけで構成されていて、そこと台湾マフィアが対立。映画版だと佐野史郎(日本の893)さん麿赤兒さん(中山刑事役)に塚本晋也さん(山本役)という単館映画サブカルチャー布陣。帰化した黒狗会の彼らは各々の権利主張を通すために動いているはずなのに、悲しいかな日本人にいいように利用されて、使い捨てられる運命になっていた。
そこで翻弄される恋人たち、家族、仲間、普遍のテーマながら、映画公開年は舞台版主演の佐藤流司くんの生まれ年。時代背景は当時から大きく変わってはいる。ちょうどオウム事件の時代で、実際本作三部作構成の2作目の公開は、内容を考慮して延期されたとあった。
映画自体もいくつか過去の探偵作品の雰囲気を醸し出しながら、今でいう"古くて新しい"が表現されているので、レトロでありながら現在でも色褪せない鋭利さと重厚感を味わえる世界観だった。

昨年上演された朗読劇は本当に朗読なのかというほどに躍動感があり、飽きさせない、まさに新しい濱マイク像とオリジナルのファンの方を裏切らないであろう充実した作品だった。

そして今年の舞台版、公演が案内された当初は白のスーツに明るい背景、のちにTwitterで解禁されたガイコツマイクを握る濱マイクの姿、いったいどうなるの西田さん‼︎(脚本演出)だったけれど、生で体感してあのビジュアルにも納得した。

ガンアクションに、格闘、指が切れてしまって探す場面、アジト潜入、宍戸錠のシーン、綺麗な照明に効果的に使われる音楽、凛とした女性陣の煌びやかさ、現代ではおそらく珍しい喫煙シーン、どれも印象的だった。スクリーンを使用した特にヤントッケン(依頼人兄)と百蘭の場面、百蘭からの「あなた…不要孤独地死去」と呼びかけるシーンや、ヤン兄弟のセリフが映し出されるシーンは映画的でもあった。

佐藤流司くんの貫禄と落ち着いた声色は、朗読劇より余裕が出ていて、より、濱マイクのイメージに合致していたし、オリジナルのドラマより女性に靡きにくい映画版のクールさ硬派さが表現されていて好きでした。ハイピンとマイク、茜も登場する家飲みのシーンにも、コミカルながら良い男のワイルドさが滲み出ていました。酔っ払いの一発芸「元気に言おうパワー大会」も、日替わりアドリブかの妹のおでん大会も、今回初の参加ハイピン役寺西くんの捨て身のネタ披露が好印象でした。

劇中の佐藤流司くん歌唱タイムは、コブシが利いていてTheBrowbeatでもないサスケくんでもない喪黒でもない、個人的印象としては仙台バンドマン時代が垣間見える見応えある一幕でした。
アンサンブルのかた出演者のかたがダンスをする中、けして踊ることなく、ほとんど歌うこともないジャニーズ事務所所属ヤンハイピン。けして楽器演奏をすることなく、濱マイク歌唱シーン終わり寸前にレスポールギターを肩掛けしてキメポーズで終わるスターダスト所属紅白バンドマン星野。

無駄が一つもない、私立探偵濱マイクステージ。

過剰さがないのに、ダイナミックで、横浜の空気と古びた映画館の雰囲気は十分に醸し出されていた。

設定の探偵事務所一階にある日劇の受付の老婆は探偵事務所を目指して劇場を通り過ぎる依頼人たちへいう

「映画を見る余裕もないなんて、可哀想に」

依頼をするため、映画のチケットを買わねばキネマの裏の探偵事務所へは辿り着けない。

依頼人は一刻も争う悩み事を濱マイクに解決してもらうべく、そこを通過していく。

「ひとりぼっちは慣れっこだけど
キネマの屋根裏で待ってる」

佐藤流司くんの歌声から響くすべてのワードのイントネーション一つ一つに、個人的にヴィジュアル系の系譜を感じて、一々感動していた。

ピエロ、ストリップ小屋から微笑む母親…

なんて歌詞なんだと思いながら、ドラマ版や映画をみるとちゃんと中身とシンクロしている。

…EGO-WRAPPIN聴きたかったな。

2022年最後の観劇は濱マイクでした。
締めくくりがこのお芝居でよかった。
2023年も沢山良い作品と役者に巡り合えますように。
少しでも、表現者たちが生きづらくならない社会情勢になりますように。




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