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エイリアンハンドシンドロームの乗船記録

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2020年9月

出演者
北村 諒
鈴木勝吾
田中良子
谷口賢志
西田大輔
萩野 崇
宮下雄也
村田洋次郎

注意※個人的解釈、ネタバレ※

■別れの曲

鈴木が冒頭、ステージで歌を歌う。

 まるでディナークルーズにでも来たかの様な雰囲気で、穏やかな始まり。

そこへ田中がスマートフォン片手に落ち付かない様子で「誰に連絡をしようとしてるのか思い出せない」と言う。萩野は冷静に田中を出迎える。田中はややヒステリーぎみに鈴木に心の叫びを訴えかける。

■客船のカラクリ、ここは幽霊船か黄泉の国か

 初めのうちは観客も傍観者で、かつ、私自身も久々体感するお芝居にやや体と思考が凝り固まっていた。しかし、違和感あるやりとりに疑問を感じるまでには然程時間も掛からなかった。

 デカルト(宮下のみ役名あり)がこの船のからくりを説明する。

船の中に隠された手紙には船を脱出するヒントがあり、漂流者は順番にこれを開けることができる。手紙を読んだら、記憶をなくす“うたかたの酒"を全員飲むこと。そして、船のなかの違和感の的の銀の全身タイツロボット“デカルト”の選ぶ好きな漂流者ランキングで一位になれた人は元居た世界へ戻る権利を得られること。

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■不気味の谷を探せ

説明を受け、谷口が「手紙を探してくれ」と歩き回り、客席へ呼びかけていた。私自身、冷めた性格なのがいけないが「まさかね」と探し始めるまでに時間が掛かった。野暮な女である。谷口さんのアドリブ「おい、もっと真面目に探してくれよ!!」の声にハッと気がついてすぐに探し始めると、隣の席の方が見つけ出していたのだった。他にも私の席の斜め前の柱だとか、至る所に手紙が隠されていた。開ける度にジョークが書いてあったり、重要なヒントが書かれていて、これもジョーク部分は回ごとのアドリブらしいが、なぜか書き方や内容はバラバラ。それもそのはず、漂流者たちが都度記憶を無くしても思い出せるよう、各々封筒の色を変えて朧気な記憶を蘇らそうとしていた。

断片的に記憶がないのはメインの漂流者7名全員。ある人は自分が教師だと言うことは覚えているが、あとのことは思い出せない。ある人は歌手、ある人は母、ある人は母と生き別れた息子、ある人は父、ある人は科学者、ある人はアンドロイド。そのなかには自分は何者かさえも記憶がない人も居る。

記憶を蘇らせる重大なヒント

「不気味の谷を探せ」

不気味の谷とは人とアンドロイドの差、違和感、どんなに精巧にできたアンドロイドでも人にはない不気味さ(差異)に対して人間がもつ嫌悪感のこと。

ロボットのデカルトは充電式で作りが古く、すぐにバッテリーがなくなる。話の核心に触れるかと言うところで、いつも各所の充電機(写真中央の照明器具)で充電をし始める。そして北村へは毎度、最下位だと告げる。鈴木も嫌われている。

萩野は全てを悟っているかのように誰よりも落ち着いている。まるで機械のように、論理的に物事を説明しながら、徐々に答えへ誘導しているかのようにも見えた。

船へは人々を閉じ込めた首謀者も乗っていて、その人が手紙の仕組みやデカルトを創り出したのだと乗員全員が疑い始めた。

■手を伸ばしたい救済したい(されたい)人の深層

そして、一切の記憶を無くしていたはずの田中は誰に会いたかったか、自分とは何者なのかを少しずつ思い出し始めていた。海の上、または、どこかで別の人生を歩んでいるかもしれない息子を探しに、船に乗り込んでいたのだった。西田も妻と生まれたばかりの子と生き別れになっていた。

元の世界へ戻ろうとする田中へ、村田は問いかける。序盤から中盤までひたすら都市伝説キャラの明るい男が急に意味深に大人しくなった。「ゾルタクスゼイアンてわかる?!」「〜てこと!」都市伝説の関風に語り掛けて、初めはふざけているのかと思ったけれど、意外と言葉それぞれと物語の世界観がリンクしていた。

言葉には重みがあり、過去に人を救えなかった後悔を懺悔していた。

あと少し手を伸ばせば、津波から「小さな子供を助けられたかもしれない」と滔々と語り始めた。

村田は教師だった。

教師だけどお酒がなければ口下手で、不器用で弱かった。

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