見出し画像

デパートが商品券をそう簡単に払い戻してくれない理由(資金決済法)

■資金決済法って知ってますか?

 資金決済法(正式名称:資金決済に関する法律)は,意外に様々なところで適用されています。

 例えば,商品券や図書券,タクシーチケット,通信ゲームで使用するポイント(対価性を有するものに限る)などは資金決済法3条1項が定める「前払式支払手段」に該当することが多いです。

 最後の例を具体的に申し上げれば,例えば,世界に冠たる任天堂株式会社さんはニンテンドーポイントを発行されていますから,「前払式支払手段」を発行されていることになります。

一般社団法人日本資金決済業協会|会員の発行する前払式支払手段
http://www.s-kessai.jp/consumer/giftcard_prica_netprica/member_card5.html 


 ですから,資金決済法は,スマホ用のゲームを開発されるベンチャー企業の方にも関係する法律です。


■払い戻したり,お釣りを払ったりしてはいけません

 ところで,この資金決済法20条2項本文では,これらの「前払式支払手段」の払戻しやお釣りの支払いが原則として禁止されています。

◎資金決済法20条2項
 前払式支払手段発行者は,前項各号に掲げる場合を除き,その発行する前払式支払手段について,保有者に払戻しをしてはならない。ただし,払戻金額が少額である場合その他の前払式支払手段の発行の業務の健全な運営に支障が生ずるおそれがない場合として内閣府令で定める場合は,この限りでない。


 では,なぜ,払戻が原則として禁止されているのでしょうか?


 その理由は,払戻を自由に認めてしまうと,出資法や銀行法に違反する危険性があるからです。 


 出資法や銀行法の規程内容を簡単にお話します。

 まず,出資法2条は「預り金」を業として(=反復継続する意思をもって)行うことを禁止しています。しかも,出資法2条1項違反については,刑罰が予定されています(出資法8条3項1号)。

 次に,銀行法4条1項は,免許を受けないで為替取引を含む銀行業(銀行法2条2項)を行うことを禁止しています。銀行法4条1項違反についても,刑罰が予定されています(銀行法61条1号)。
 尚,ここで言う「為替取引」とは「顧客から,隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて,これを引き受けること,又はこれを引き受けて遂行すること」(最判平成13年3月12日刑集55巻2号97頁)を意味すると解されています。


 もし,商品券やタクシーチケットや(対価性のある)ポイントが自由に払い戻せるとなると,あなたは,東京の百貨店で買った商品券を使って,大阪の百貨店さんでお金を「引き出す」ことができます。

 これは,百貨店に着目すれば,その百貨店が「預り金」を業として行っていることと同じです。また,東京で支払った現金を大阪で戻すことができるという現象に着目すれば,これは為替取引に他なりません。

 ですから,払戻しが原則として禁止されているのです。

 実際に,金融庁の資金決済法の立案担当者らは次のように説明しています。

 「前払式支払手段について自由な払戻し(換金,返金等を含む)が認められるとすると,元本の返還が約束されることとなり,『預り金』に当たるおそれがある。また,送金手段として利用が可能となり,銀行法が禁止する『為替取引』に当たるおそれもある。」(高橋康文編著『逐条解説 資金決済法【増補版】』〔金融財政事情研究会,平成22年〕118頁)。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?