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【ストーリー論】ウマ娘のアニメ、ものすごく良くできてない?って話【第1期編②】

SHO+XENONです。

 すっかりハマってしまったウマ娘プリティーダービーのアニメの話の続きです。今回は第1期第2Rについて。

第2R①冒頭

 いきなり「来週デビュー戦」と告げられて絶叫するスペシャルウィーク。トレーナーは1週間みっちりトレーニングすればなんとかなると自信アリ気ですが、いくらなんでもテキトーすぎるとウオッカ、ダイワスカーレットに蹴飛ばされます。このテキトーさ、本当にこのチームで大丈夫なんでしょうか??

 部室から寮に戻るスペシャルウィークとサイレンススズカ。スペシャルウィークは色々質問攻めにしますが、サイレンススズカはあまりスペシャルウィークの方を見ません。

「私にできることは、走ることだけだから」

 振り返りもせずに言ったサイレンススズカのこの言葉を、スペシャルウィークはストイックさの表れだと捉えたようです。「同じチームになれて嬉しい」とまで言いますが、サイレンススズカは答えません。この時点では、サイレンススズカはあまりスペシャルウィークに関心を持っていないように見えます。また、この時点でのサイレンススズカは、孤独なエリートといった雰囲気さえ持っています。あまり他人に心を開かない性格なのかも知れません。

 スペシャルウィークらが寮に帰ると部屋割を告げられます。ルームメイトは、なんとサイレンススズカ! 大喜びです。
 部屋に着くなりスペシャルウィークは、荷解きをするでもなく、故郷の「お母ちゃん」に手紙を書き始めます。その際に「初めて他のウマ娘と一緒に走れた」と書いていることに、サイレンススズカは初めてスペシャルウィークへわずかな興味を示します。ルームメイトになったこともあるでしょうが、自分とは全く異質な存在に惹かれ始めた瞬間がこの時だったのかも知れません。後々さらにそれが分かっていきます。

第2R②朝

 OP曲の後、幼いスペシャルウィークが、白みがかった草原を雀と競走するシーンから始まります。しかしその雀がいきなりサイレンススズカの声で喋りだして……というところで跳ね起きます。夢を見ていたのですね。
 時間はもう遅刻寸前! 食パンならぬニンジンを咥えて、教室までダッシュです。

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 教室では授業。ここでは視聴者も一緒にお勉強タイムです。ここでは、現実における4(当時・現在の数えでは3)歳馬のみが出走できる「皐月賞」「ダービー」「菊花賞」の3大クラシックレースと、それを制覇することで得られる【三冠】の称号について知ることになります。現実においても三冠を取るのは難しく、作中でも近年はミスターシービー、シンボリルドルフ、ナリタブライアンの3名だけが取ったとされています。
 ちなみに史実においても、1941年のセントライト、64年のシンザン、83年のミスターシービー、84年のシンボリルドルフ、94年のナリタブライアンの(スペシャルウィーク世代以前は)5頭しかおらず、その後も2005年のディープインパクト、11年のオルフェーヴル、20年のコントレイルと、計8頭しかいません。どれだけ狭き門かが分かると思います。
 なお史実においての馬は牡と牝がいるため牝馬三冠というのも存在し、桜花賞、オークス、秋華賞を制覇することでなれます。これには1986年のメジロラモーヌ、2003年のスティルインラブ、10年のアパパネ、12年のジェンティルドンナ、18年のアーモンドアイ、20年のデアリングタクトの6頭が名を連ねています。

 授業の後スペシャルウィークは、生徒会長に呼び出されます。生徒会長とは、先の三冠の中に名を連ねていた、通称「皇帝」・シンボリルドルフです。

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 シンボリルドルフは、無敗の三冠の栄誉を達成したのみならず、GI七冠という、とんでもない記録を打ち立ててしまったウマ娘です。生徒会長なのもうなずけますね。もっとも、この手のアニメの世界観によくある、「やたら権力が強そうな、何をしているのかよく分からない組織」の会長だったりはするのですが……。

 閑話休題、スペシャルウィークはシンボリルドルフの言っていることが半分くらいしか理解できません。「聞いているのか?」と会長も少しもやもやしている模様。
 そんな中、スペシャルウィークの身の上がまた少し明かされます。「日本一のウマ娘になると【今の】お母ちゃんと約束した」と。この直前に会長も「お母さんが……?」と意味深な問いをしていることからも、この時点でスペシャルウィークには複数の母親がいることが分かります。もちろんそれは、産みの親と育ての親が異なることを意味します。史実を知っている人からするとどういうことか分かる話ではありますが、ここで初めてスペシャルウィークに触れる人にも、少しずつ明かされていっています。

 と、ここで学園の案内役として重要人物が登場します。メインキャラクターの一人としてすでにアナウンスされていた(はずの)トウカイテイオーです。

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 登場するなり第一声からテンション高く、いきなり走り出すような明るい元気っ子であることが分かります。

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「ここは図書室! トレセン学園は、文武両道なんだよぉ」

 図書室でバタバタと走ってしまい、読書をしていたメジロマックイーンに注意されてしまいます。

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 メジロマックイーンもまた、今後に関わる重要な登場人物なのですが、この時点ではサラッと流します。サラッと登場するネームドキャラは後で重要になる、これテストに出ますよ!

 続いてプール。タイキシャトルの飛び込みで思い切り水を浴びてしまいます。

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 外には負けた気持ちを発散しているヒシアマゾンがいます。恐らく負けた相手はナリタブライアンですね。

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 これは、圧倒的強さでナリタブライアンが1着になりながらも唯一最後までヒシアマゾンが食らいついた1994年の有馬記念から来ていると思われます。当時のナリタブライアンは史上最強の呼び声高かったほど強かった中、他の牡馬を押しのけて牝馬であったヒシアマゾンが食らいついたことから、今でも語り継がれています。

 ここでしばしの立ち話。まっすぐな瞳に溢れんばかりの会長への憧れを宿すトウカイテイオーに、自分の憧れはやはりサイレンススズカであることを再確認し、スペシャルウィークはデビュー戦に向けて奮起します。これもありがちといえばありがちな話の持って行き方ですが、それぞれのキャラクターが立っていて良いですね。

 さあ、モチベーションが上がったところで、スペシャルウィークに課せられたトレーニングは――

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――まさかのツイスター!?
 「こんなの意味ないわよね?」「(意味はあるという発言に対して)だったら説明しろよ!」と問われるトレーナーは、「レースは格闘技だと思え。体幹を強くしなければいけない」と答えます。
 大真面目なトレーナーとやっていることの滑稽さ、スペシャルウィークの戸惑う姿などが良い対比になっている、物語半ばのオチといったところですね。

第2R②レース前日まで

 デビュー戦も決まり、毎日猛練習を重ねるスペシャルウィーク。ヘロヘロです。そんな中、サイレンススズカはフジキセキに呼ばれます。

 ここでサイレンススズカは、スペシャルウィークを気にかけてやってほしいと頼まれます。その理由として、スペシャルウィークはここに来るまで他のウマ娘に会ったことがなかったこと、友達もいなかったことに加え、ここで暗に母親がウマ娘ではないこと、つまり育ての親は人間であることが伝えられます。遠回しな表現ながら、産みの親との別れがあったことが伺えるようになっているのです。ここまで何度も仄めかされてはきていますが、視聴者に情報として伝えるにしてはやや同じ情報を重ねすぎです。ここで重要なのは、サイレンススズカがそのことを認識し、それによってスペシャルウィークに対して少し特別な関係性を築くことになること、そのフラグの意味合いが強いのでしょう。部屋に帰るとスペシャルウィークは手紙を書きながら居眠りをしていますが、この時のサイレンススズカの目は、今までよりもしっかりとスペシャルウィークのことを見ています。なんてことなさそうですが、重要なシーンなんです。

 翌日のミーティング、スペシャルウィークのデビュー戦の作戦が伝えられます。その作戦とは――――ない!

 ねえのかよ!とウオッカにキツめに締められますが、サイレンススズカは気付きます。「ないのが作戦……!」

「駆け引きしようなんて思うな。好きなように走れ」
「ここだって思う気持ち良いところでスパートをかけて、先頭のウマ娘を抜け」

 前のツイスターも相まって、トレーナーのテキトーさが表れています。ですが、そのテキトーさには実は毎回裏付けがあります。実際のところ、ウマ娘当人の特性を見極め、やりたいようにやらせつつ、そのやりたいことをより理想形に近づけるために強化トレーニングを施すのが彼のやり方なのかも知れません。この時点で何となくそのような気にさせられます。スペシャルウィークは不安そうですが、「やってみなきゃ分からない」というトレーナーの言葉が彼の姿勢の裏付けになりそうですね。

 寮に戻って、靴の蹄鉄を打ち直すスペシャルウィークの様子から、サイレンススズカの方から「何か悩み事?」と、初めて話しかけます。そして、「何故日本一になりたいのか?」と問いかけます。フジキセキの言葉を思い出してのことでしたが、ここに至るまでサイレンススズカの方から他人に話しかけるシーンはほとんどありませんでした。サイレンススズカの方も少し、心を開こうとしているのかも知れません。

 先の問いに、スペシャルウィークは「お母ちゃんとの約束だから」と答えます。これも視聴者サイドはすでに何回か聞いた答えではありますが、サイレンススズカは初めて聞くことになります。
 そして続けて、初めてはっきりと、スペシャルウィークには「お母ちゃん」が二人いることが告げられます。二人のお母ちゃんとは、一人はスペシャルウィークを産み、そしてその成長を託した「産みの親」、もう一人はそれを託され彼女を育て上げた「育ての親」です。ちなみに、これはこの物語で創作された設定ではなく史実だったりします。もちろん創作要素は多分に含んでいますが、スペシャルウィークの母親キャンペンガールは本当に産後5日で亡くなっており、人の手をかけて育てられました。
 二人のお母ちゃんのために日本一になりたい。そんな想いを聞いたサイレンススズカは、「お母様、二人もいて良いですね」と、笑みを浮かべます。視聴者はここで初めて、サイレンススズカの笑顔を見ることになるのです。

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第2R・デビュー戦

 緊張のあまりガチガチの状態でパドックに現れるスペシャルウィーク。手と足が一緒に出てしまい、ズッコケてしまうほど。
 おっと、うっかりゼッケンを渡し忘れてしまったようです。トレーナーはサイレンススズカに渡してくるよう頼みます。視聴者視点から見てもあまりにもわざとらしい言い方ですが、それが逆にトレーナーの深慮遠謀を感じさせますね。この時点でトレーナーの意図を読み取れる視聴者も多かったことでしょう。

 サイレンススズカにゼッケンを付けてもらうスペシャルウィーク。多くの人前に立つのが初めてで緊張が解けないようですが、そこでサイレンススズカがアドバイスをします。

プレッシャーを怖いと思うか楽しいと思うか。
  二人のお母様と作った目標への一歩目なんですよね。
  怖がっていたら損ですよ。楽しまないと
。」

 そして最後に、サイレンススズカは名前を呼びます。

スペちゃん

 これまでの「スペシャルウィークさん」ではなく、「スペちゃん」と初めて愛称で呼びました。しかも誰かが呼んでいた愛称ではなく、サイレンススズカが初めて呼ぶ愛称です。憧れの人に愛称で呼ばれること、こんな嬉しいことはなかなかありません。スペシャルウィークも目に涙が浮かびます。

「さっきと全然違うじゃねーか」

 ゴールドシップがそうこぼすほど、ターフに現れたスペシャルウィークの表情は凛としていました。

 いよいよゲートが開きレースが始まります。
 「ぶっ潰す!!」と威圧する隣のウマ娘の気迫に押されてかスムーズなスタートが切れず、また体当たりされたり、土を被らされそうになったりしましたが、スペシャルウィークは遅れずについて行きます。

 直線に差し掛かった時、スペシャルウィークの眼前には、広い緑の空間がありました。走り抜けるスペースを見つけたのです。

「ここだ!」

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 スペシャルウィークがスパートをかけます。タイミングはバッチリ!トレーナーも「そう、そこだ!」と太鼓判。
 次々と他のウマ娘を追い抜き、最後の体当たりもかわし、1着でゴールイン!

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 スペシャルウィークの勝利を、大歓声が祝福しました。半ば呆然とするチームメイト達と対照的に、こうなることが分かっていたようにトレーナーだけは余裕の笑みを浮かべていました。
 この勝利に沸き立つダイワスカーレットとウオッカは、早く自分も走らせろと訴えます。トレーナーは「チーム・スピカが殴り込みだ!」と返答し、肯定します。ここからのチーム・スピカの快進撃が楽しみになる展開ですね!

 「楽しそうね」とトレーナーに声をかけるのは、チーム・リギルのトレーナー・ハナ。ここで彼女が登場してきたことで、リギルとスピカの今後のぶつかり合いが予感させられますね。

 さて、勝者だけが立てるウイニングライブに、ついにスペシャルウィークも立てることになりました。焦るスペシャルウィーク、「やべ、練習全然やってなかった( ;゚Д゚)」とごちるトレーナー。かくしてスペシャルウィークの初ウイニングライブは、

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 見事な天を仰ぐ見事な棒立ちでした! オチが付いたところで、お後がよろしいようで。

第2R総評

 まさに王道を地で行く展開でしたね。主人公のパーソナリティの深堀り、サブヒーローとの深まる友情、新たに登場するキーマン、そして初めての勝利、からの見事なオチ。王道のお手本と言って良い展開だったのではないでしょうか。

 前回も述べましたが、ウマ娘プリティーダービーのアニメは、萌えの皮を被った王道モノであり、いうなれば80年代90年代の週刊少年ジャンプのノリに近いものがあります。Amazonのレビューなどでもしばしば「スポ根もの」と評されており、決してただのキャラモノの色モノではないのです。

 さて、次回は第3Rについてやっていきましょう。SHO+XENONでした。


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