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【ストーリー論】ウマ娘のアニメ、ものすごく良くできてない?って話【第1期編③】
SHO+XENONです。
前回、前々回に続き、今回もウマ娘プリティーダービー・アニメ版のストーリーが如何に王道であるか、そして緻密に計算されて作られているか、あらすじを追いながら見ていきましょう。今回は第3R、初めての大一番より。
第3R①冒頭
友人たちに早速デビュー戦の勝利を祝福されるスペシャルウィークですが、
当人はウイニングライブの天を仰ぐような見事な棒立ちぶりを思い出してこんな顔をしています。ツカミはOKですね!
第3R②快進撃
OP曲の後、チーム・スピカの快進撃の様子が立て続けに映されます。
次々と勝利を得ていくチームメイト達。史実を知るファンからすれば当然と言えますが、やはりチーム・スピカは実力者揃い、走り出せば確実に勝利を掴み取っていくメンバーが揃っていることが分かります。
しかし、その中でも別格なのは、わざわざ一度の場面転換を挟み、より長い尺を使い、メンバーの感想まで付いたこのウマ娘。
お待たせしました、サイレンススズカ! 2着と11馬身の大差での勝利で、トレーナーをして「本物」と言わしめます。
ちなみに史実のサイレンススズカも、GIIレース金鯱賞で11馬身差で勝っています。GIIレースはGIレースに次ぐ格式の高いレースですので、決して相手が弱いわけではありません。それでもこれだけ圧勝してしまうのですから、やはり「破格」と言って良い存在ですね。ちなみに描かれてはいませんが、このレースには同じウマ娘化されているマチカネフクキタルもいました。
「お前ら……なかなかやるな!」
部室でトレーナーが笑顔を見せます。メンバーたちの健闘を大いに讃えます。が、
「注目されているのはレース結果だけじゃない」
とトレーナーが見せた記事は、サイレンススズカ以外4名の、あまりにも散々なウイニングライブでの姿でした。棒立ちのスペシャルウィーク、ひっくり返るウオッカ、ぶっ倒れるダイワスカーレット、そして一人だけアクロバットをしているゴールドシップ……(これゴールドシップだけできるのにやってないよね?)。チーム・スピカ、レースに勝ってもこの有様……。
ライブもこなしてこその完璧な勝利だというトレーナーは、早速メンバーをカラオケに連れ出す。そこに待ち受けていたのは、トレーナーが直々に頼んだという歌とダンスの先生。その名も、
トウカイテイオー! こんなにちっちゃ可愛い娘ですが、見事なテイオーステップを見せつけます。本来はテイオーステップってこれのことじゃないんですけどね(笑)。
トウカイテイオーはその走りぶりからトレーナーにスカウトされていたのですが、それには首を縦に振りませんでした。しかし、会長命令でもあるため、歌とダンスを教える先生役は買って出てくれたのです。
「ウイニングライブを疎かにする者は、学園の恥」
本当に会長がこんな怖い顔で言っていたのかは分かりませんが、トウカイテイオーがみっちりスパルタで教えてくれることになったので、きっともう大丈夫!
……本当に大丈夫かな??
皆で仲良く歩く帰り道。もう恥をかかずに済むとスペシャルウィーク。うちに来たら可愛がってやるぞと誘うゴールドシップにも曖昧に濁すトウカイテイオー。ですが、「テイオーのようなエリートこそのびのびとやってほしい」というトレーナーの一言には少し興味を惹かれたような反応を見せます。
「さて、勝つ準備もできたことだ。スペシャルウィーク、三冠ウマ娘、獲るぞ!」
いきなりのことでビビるスペシャルウィーク。しかし、三冠は「日本一」への最短ルートというトレーナーや、「チャンスがあるなら挑戦するのも良いんじゃないかしら」というサイレンススズカの言葉に奮起。皐月賞の前哨戦となる弥生賞(GII)に挑むことになります。
そんな盛り上がるチーム・スピカのメンバー達を、笑顔で見つめるトウカイテイオーがいました。その表情からはある種の好意的な興味を伺うことができます。これはもしや……?
第2R②弥生賞
次のレースのことで頭がいっぱいで眠れず、目にクマができてしまったスペシャルウィーク。そんな彼女に、足を怪我してレースに出られないグラスワンダーが話しかけます。
「レースに出られるだけでもラッキー、くらいの気持ちでいけば、気楽ですよ」
その言葉に笑顔を取り戻すスペシャルウィーク。その横から声がします。
「わたしも~~~」
声の主はセイウンスカイ。しかし調子が悪いと言っています。それを否定するようにグラスワンダーが「2連勝中でしたね」と。どうやらセイウンスカイはのんびりマイペースなだけで、言葉通りにとらえてはいけない人物のようです。
そしてもう一人、「キングヘイローさんは、デビュー3連勝です」と。二人共弥生賞に出てくるということになり、強敵ぞろいであることが示唆されています。
弥生賞はGIIのグレードのレースで、皐月賞と全く同じ、中山での芝右回り2000mというコース条件であるだけでなく、トライアルレースになっています。3着までに入れれば、皐月賞に優先的に出生する権利を得られるレースなのです。このレースに勝つことで、直接的にも間接的にも、皐月賞に勝てる可能性が高まるわけです。
トレーナーはそのことを伝え、またゴール直前の心臓破りの坂を根性で登り切るようアドバイスします。そして、気をつけるべき相手の名前を告げます。その名は、「セイウンスカイ」。
いよいよ弥生賞。1番人気はキングヘイロー、やる気十分です。
3番人気はセイウンスカイ。「期待してもらってるところ悪いけど、私は今日もゆるっと行くよ」と、あくまでマイペース。ただ、言葉通りに捉えられない部分がありますからねぇ? ウオッカも「あの性格、掴めないよなぁ」と感想を述べています。
大外でゲートインするのは、2番人気スペシャルウィーク。人の多さにやや圧倒され気味で、セイウンスカイにもそれを茶化されますが、「挑戦者の気持ちでやるだけやってみる」と落ち着いた様子です。
ゲートオープン、各バ一斉にスタート。なんとセイウンスカイが飛び出します。やっぱりゆるっと行きません。スペシャルウィークもツッコみます。
心配そうに見守るチームメイトの中でも、ひときわ心配そうなのは、サイレンススズカ。「頑張って、スペちゃん……」と心の中で願います。
最後の直線、心臓破りの坂にさしかかります。スペシャルウィーク、まだまだ足が残っています。一気にスパート! 登りきって先頭のセイウンスカイを差しに行きます。最後にはかわしきって、見事に1着でゴールイン! 2連勝中だったセイウンスカイ、3連勝中だったキングヘイローを破って連勝を伸ばし、前哨戦を制しました。
トレーナーはその末脚に天性のものを感じていました。本当に三冠取れるかも知れないと思うほどに。勝利に沸き立つチームメイトの後ろからもう一人、熱い視線を送っている人物がいました。そして、「いいなぁ……」と、羨望とも取れる想いに耽っていました。
部室にて祝勝会。「弥生賞大勝利おめでとう、乾杯!」にんじんジュースで乾杯です。レースだけでなく、今回はウイニングライブもだいぶ良くなっていたようです。スペシャルウィークが一緒に祝勝会に参加していたトウカイテイオーに「また教えて下さい」とお願いすると二つ返事で快諾。「本当ですか!?」と喜ぶスペシャルウィークに、「だってボク、スピカに入ることにしたから!」
「えええええええええっ!!?」
これにはトレーナーも噴き出すほど驚いたようで、ゴールドシップに「お前も驚くのかよ」とツッコまれていました。
すでにシンボリルドルフにもそのことを伝えていたようで、「楽しい方が好きだし」と理由を述べていました。会長は「楽しいだけではやっていけない。叶えたい夢があるならば――」と厳しい顔をしますが、トウカイテイオーの希望を「強くなったら共に走ろう」と応援する言葉をかけて肯定します。短いシーンですが、この時校訓がアップになったことからも、それを理解した上での決断だと分かっており、トウカイテイオー自身の心の奥底の覚悟を感じ取っていたのかも知れません。
新たなチームメイトとなったトウカイテイオー、実力は折り紙付きです。「でっかい夢、いいじゃないか」とトレーナー彼らしい言葉をかけ、チームメイト達も大喜びでトウカイテイオーを迎え入れます。会長がエアグルーヴに付き合わせた一杯のワインならぬにんじんジュースも、祝い酒だったのかも知れません。チーム・スピカの今後が楽しみになりますね!
第2R③皐月賞
トレーナー室にて、ハナを挑発するトレーナー。ここでの会話で、トレーナーは一度どうやら出奔したか、挫折を味わったらしいことが伺えます。しかし彼は戻ってきて、今も夢に向かっているのですね。
しかし、ハナはここで「皐月賞は厳しい」と忠告します。トレーナーは意に介しません。「望まない結果だったとしても、それで上を向くか下を向くか……。あいつ次第さ」と、あくまで本人を信じているようです。
ハナの言う「皐月賞は厳しい」の真意は何処にあるのでしょうか。この時点では、それは明らかにはなりません。ただ、不穏さだけが視聴者に突きつけられます。
寮の部屋にて。すっかりスペシャルウィークとサイレンススズカは打ち解けているようで、笑顔で会話をしています。しかも、スペシャルウィークの靴の蹄鉄をサイレンススズカが締めておいてくれたりと、しっかり世話を焼いてくれています。すっかり良い関係を構築できていますね。
皐月賞前日、スペシャルウィークは初めて【勝負服】を試着することになります。「マ子にも衣装」(ウマ娘の子供のように可愛いものに可愛い服を着せれば、最高に可愛い、という意味らしい)とトレーナーも褒めていますが、何やら不穏な「カチッ」という音。この音は……? どうやら勝負服のホックが外れ、ジッパーが下がってしまったようです。これはもしや……?そして、皐月賞が厳しい要因ってまさか……?
いよいよ皐月賞当日! 勝負服姿で何万もの観客の前にお目見えです。パドックでも尻尾のあたりを押さえていましたが、とうとうジッパーが閉まり切ることはなかったようです。恐らくはちゃんと測って特注で作ったはずですから、測ってから出来上がるまでの間に、だいぶ増量したの……では?
ゲートが開き、ついに皐月賞が始まりました。1番人気に推されたスペシャルウィークは後方待機で、終盤での追い込みを狙います。
残り600mといったところで、それまで控えていた(前回は逃げだった)セイウンスカイが仕掛けてきました。弥生賞とは作戦を変えてきていたのです。坂道で一気に先頭まで走り抜ける勢いのセイウンスカイ。後から来たスペシャルウィークも前に出ていきますが、セイウンスカイとキングヘイローの背中をなかなか捕らえられません。そのままセイウンスカイ、キングヘイローとゴールイン。スペシャルウィークは初めて3着に敗れました。
スペシャルウィークはサイレンススズカと一緒に帰路に就いています。スペシャルウィークは止めどなく笑顔で喋り続け、それにサイレンススズカが頷きます。しかし、サイレンススズカは何処か訝しげな表情を浮かべています。スペシャルウィークの空元気を感じ取っていたのでしょう。
突然、スペシャルウィークは「忘れ物をした」と言って一人学園の方に戻っていってしまいます。先に帰っていてくださいと促されるも、心配だったのでしょう、様子を見にサイレンススズカも戻っていきます。
そこで見たのは、大粒の涙を零して泣き叫ぶスペシャルウィークの姿でした。後悔し、悔しがり、自分を責める姿でした。
そこに現れたトレーナー。トレーナーも同じように叫びます。
「くっそぉぉぉぉぉ! 俺の指導不足だぁぁぁっ!!」
トレーナーはしかしすぐに背筋を伸ばすと、スペシャルウィークに問います。「負けてどんな気持ちだ?」
スペシャルウィークは悔しい気持ちを口にします。それに対してトレーナーははっきりと伝えます。
「だったらダービーだ。日本ダービーでセイウンスカイに勝つ。負けを知って強くなれ、良いな!」
はい!と強い返事をするルームメイトの声を、サイレンススズカは背中越しに聞いていました。
第3R・総評
相変わらずのコテコテ王道展開です。さらなる成功、新たな仲間、さらに深堀りされる登場人物たちのバックグラウンド、そして初めての挫折。何が凄いって、この展開ってほぼ史実そのままなんですよね。しかしそこに、擬人化によってもたらされる感情面や人間関係の部分を加えることで、さらにドラマティックに物語を彩っています。
第3Rで特に際立っていたのは、ライバルであるセイウンスカイとの競争、トウカイテイオーの本格加入、そしてトレーナーのイケメンぶりでした。
スペシャルウィークはセイウンスカイを一度は破ったものの、二度目は逆に返り討ちにしてきました。これは史実そのままではあるのですが、スペシャルウィークを取り巻く環境は決してスペシャルウィーク一強状態ではなく、才能に溢れるライバルが他にもたくさんいることがわかります。手強い相手であり、そう簡単に勝たせてくれる相手ではない、そんなライバルの存在は、この手の物語には不可欠です。しかも恐ろしいことに、この後セイウンスカイ以外にもたくさんの強敵が現れるのです……!
トウカイテイオーの加入は、第2話の時点ですでに予想されていたことではあったでしょうが、チーム・スピカがさらに充実していく様を描き出す重要なファクターでした。この天才の加入により、スピカはますます勢いづいていくことでしょう。
トウカイテイオーの加入を決定づけたファクターは何だったでしょうか?チームの雰囲気を気に入ったのは確かでしょう。ですが、私は一番の理由はトレーナーだと思っています。このトレーナーなら、自分の目指すものを共有してくれるだろう、自分の夢を叶えさせてくれるだろうと、信頼したのだと思います。トレーナーの言葉に特に強く反応し、そこから加入の方向に一気に傾いたのがその理由です。また、第2期での関わり方も、その説をより強く支持できる要素だと思っています。
そしてトレーナー。彼は本当にイケメンです。特に最後のシーンですが、彼は恐らく「自分の指導不足」とは本気で考えていなかったと思います。
というのも、彼の性格はそういうものではないからです。ウマ娘を全面的に信頼し、彼女らが目指す夢に対して全力でサポートしてあげる、そんな役回りであり、そういう性格だからです。なので、ウマ娘が負けた要因についても、頭の何処かでは冷静に分析しているだろうと想像できます。絶叫の後の立ち直りも異様に早いですしね。
そして恐らくは、スペシャルウィーク自身に敗北の要因はあります。本人がすでに気付いていること、気付いていないこと、色々あるでしょう。それを彼は、わざわざそれを悔やんでいる最中のスペシャルウィークの眼前に現れ、その全ての責任を「俺の指導不足」の一言に詰め込んだのです。これはウマ娘側のメンタルケアにもなりますし、次を向かせることに容易に繋がるでしょう。このトレーナー、本当に頭が良い人ですし、彼女達のことをよく見ています。指導者とはかくあるべしというお手本みたいな人ではないでしょうか。もっとも、全て指示通りにというタイプ(2期のミホノブルボンなど)とは合わないかも知れませんが。
というわけで今回はここまで。次回は第4Rです。SHO+XENONでした。
P.S.
そういえば皐月賞、エアフォーリアに単勝で賭けてまして、無事当たりました。
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