【ストーリー論】ウマ娘のアニメ、ものすごく良くできてない?って話【第1期編⑪】
SHO+XENONです。
前回:
いよいよ物語も終盤、大団円に向けて動き出しました。ここまでの物語の進行から考えて、大団円を迎えられる条件は3つあります。ブロワイエの撃破、スペシャルウィークが日本一のウマ娘になる夢を叶えること、そしてサイレンススズカの復活。今回を以て、その全ての舞台が整い、また一つが達成されることになります。さあ、今回も物語を追っていきましょう。
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第11R①・冒頭
いきなり物々しい雰囲気でウマ娘達がターフに向かうシーンから始まります。オープン特別とは思えない客入り。見守るスピカ・リギル両チームのメンバーやトレーナー達。緊張の面持ちでターフを見つめるウイニングチケット、メジロライアン、そしてナイスネイチャ。それもそのはず、今日は特別なレースが開催されるのですから。そのレースとは、サイレンススズカの復帰戦!
ふと足元を見やると、左足の靴紐が解けていました。いつぞやのフラグでしょうか? すぐに結び直して前を向き直ります。
その日のターフを見下ろす一人の影がありました。その影の主は、先日の凱旋門賞でエルコンドルパサーを下したブロワイエ。何故日本にいるのでしょうか?
一度深呼吸をした後、右手の小指を見やります。スペシャルウィークと指切りをした右手の小指を。その時の約束を胸に、サイレンススズカは顔に闘志を漲らせます。ここで勝って、夢を掴み取るために――!
第11R②・覇王来訪
少し時間軸が戻り、とある日の夕方。ますますやる気漲るチーム・スピカ。お互いがお互いを高め合う良いチームに育ってきました。
そこに慌てて走ってきた駿川たづな。学園が大騒ぎだと報せて来ます。
騒ぎになっている理由は、ブロワイエがジャパンカップ出走を発表したからでした。史実においてのジャパンカップは当時日本唯一の国際GIレースであり、海外の有力馬が参戦してくることがあるレースでした。劇中でもその設定に基づいていると思われます。
そして、ジャパンカップにはスペシャルウィークが出走予定でした。スペシャルウィークの前に世界最強の壁が立ちはだかることになったのです。
ブロワイエは出走理由を聞かれ、自信満々に答えます。
「見せつけてあげようと思ってね……。本当の強さを!!」
その会見を見たトレーナーはスペシャルウィークに告げます。「しばらく休んでる時間はないぞ。」スペシャルウィークも緊張の面持ちで「はい」と応じます。
ブロワイエ出走の噂は学園中の話題の中心になっていました。その廊下を歩くサイレンススズカの前に、メジロライアン、ウイニングチケット、ナイスネイチャがやってきます。3人は声を揃えると、
「応援に行くからね!」
その微笑ましい情景を、苦々しい表情で見つめるウマ娘がいました。
――――??見かけない顔ですね?
ブロワイエが東京レース場に現れました。最終調整を行うようです。記者の「気になる日本のウマ娘は?」という質問に「皆とってもかわいいよ」と答える余裕ぶり。
最終調整と言いながら、いきなり全力ダッシュに見えるような凄まじい走りを見せつけるブロワイエ。そのタイムは、日本最強のウマ娘・シンボリルドルフさえも凌駕していました。トレーナーは危機感を募らせます。そんな様子を、拳を握りしめて見つめるエルコンドルパサーの姿がありました。
トレーナーにとっては、サイレンススズカの復帰レースのこともあるのに、胃の痛いことです。ハナはサイレンススズカの復帰自体は喜びながらも、強力な対戦相手の存在が彼女の勝利を阻む可能性について触れます。その対戦相手こそ、サイレンススズカに敵意を剥き出しにしていたあのウマ娘・サンバイザーでした。
それに対してトレーナーは、「ただ俺は、走ってるあいつらを見るのが好きなだけだ」と答えます。「変わらないのね、その自信」と呆れ顔なハナに対し、トレーナーは一言呟きます。「変わったさ。」
夜遅くまで体育館ではサイレンススズカが一人柔軟体操をしていました。そこにエアグルーヴとタイキシャトルがやってきます。二三言の会話で、サイレンススズカは笑顔を見せます。訝しがるエアグルーヴに対し、サイレンススズカは、
「エアグルーヴ、心配してくれるのね」
と、友人が気にかけてくれていることが嬉しかったようです。照れるエアグルーヴを「Oh、これがジャパニーズ・ツンデレ」とからかうタイキシャトル。そのやりとりがサイレンススズカには心地良かったようです。
テンションが上がったタイキシャトルが一緒にトレーニングをやりたいと言い出します。エアグルーヴはサイレンススズカの迷惑になるのではと一度止めますが、「久しぶりに一緒にやりましょ」という誘いに応じ、エアグルーヴも一緒にトレーニングをすることになります。着替えに一度出ていく二人を笑顔で見送りますが、サイレンススズカの心中ではすでに闘志が燃え上がっていました。
街中がブロワイエのジャパンカップ参戦で盛り上がる中、スペシャルウィークとサイレンススズカはトレーニングに励んでいました。毎日毎日、疲れ果てて倒れるように眠るまで。
サイレンススズカも日に日に仕上がってきました。一方スペシャルウィークをエルコンドルパサーが呼び止めます。エルコンドルパサーの手には1冊のノート。彼女が一生懸命に研究し書き記した、ブロワイエの対策でした。
いつかまたブロワイエと戦う時のためと書いたものでしたが、エルコンドルパサーは親友のスペシャルウィークには勝って欲しいからと、このノートを見せたのでした。しかしスペシャルウィークは一度目を通しただけでこのノートを返します。そして、独力での撃破を約束します。
「負けたら承知しませんよ!」
エルコンドルパサーの短い叱咤激励に、スペシャルウィークは笑顔を見せます。
いよいよレースが明日に迫りました。サイレンススズカもスペシャルウィークも、その表情には闘志が漲っています。それを見てトレーナーは嬉しそうに「良い目してんなぁ!」と二人の頭を撫でました。
さらにスペシャルウィークは合宿中のトレーナーの言葉を挙げ、「お母ちゃんの夢も、トレーナーさんの夢も背負ってること、忘れません!」と告げます。それを聞いたトレーナーは、心中でそっと独りごちます。
「気合い入りすぎてるのが仇にならなきゃいいがな……」
何のフラグでしょうか?
その夜、スペシャルウィークがお母ちゃんへの手紙を書いていると、サイレンススズカが起き出します。サイレンススズカはスペシャルウィークに何か言いかけましたが、すぐに首を横に振り、
「勝てるって信じてる」
と声をかけました。スペシャルウィークも、
「はい! 私も、信じてます!」
と笑顔を見せました。
ちなみに合宿中の話はこちら:
第11R③・復活の日
あまりの人の多さに驚くウオッカやメジロマックイーンら。しかしトウカイテイオーは、そこにスペシャルウィークがいないことを不思議がります。
「まあスペは、今日がゴールじゃねえって、思ってんだろうな」
ゴールドシップがスペシャルウィークの心中を慮ります。ウオッカはピンと来なかったようですが、メジロマックイーンはその真意を理解したようで、「たまには良いこと言いますわね」と珍しく褒めます。
そこに周囲の観客の声が聞こえてきます。「勝てると思うか?」「完走するだけでもいいじゃないか。」その言葉にダイワスカーレットが憤慨します。チームの中で、スペシャルウィーク以外で一番サイレンススズカの勝利を信じているのは、もしかしたらダイワスカーレットかも知れません。さすがに今にも飛びかからん勢いのダイワスカーレットをウオッカが慌てて制止しましたが。
ただ、トウカイテイオーはそこまで楽観視はしていないようです。勝っては欲しいが、果たして勝てるだろうか……。
そこでゴールドシップは、チームメイト全員で『念』を送ることを提案します。メジロマックイーンは非科学的だと消極的な様子でしたが、
最後には結局こうやって一緒になってやってるこのノリの良さ、すっかりスピカのカラーに染まっていますね!
ターフに向かう廊下、トレーナーはサイレンススズカに一つの告白をします。
「俺な、嘘をついていた」
サイレンススズカの骨折は、本当はレースへの復帰が絶望的な程でした。つまり復帰できる可能性は限りなくゼロに近かったのです。しかし、スペシャルウィークもチームメイトも皆、サイレンススズカの復帰を心から願い、信じ、そして支えてきました。言葉を繋げようとするトレーナーを制止し、サイレンススズカは静かに一言だけ、宣言したのです。
「私、今日勝ちますね」
トレーナーは、「ああ」と一言で答え、背中を押しました。しかしその心中では、「走ることを楽しんでくれ。俺はそれだけで――。」これは何のフラグでしょうか?
そして時間軸が冒頭に戻ります。左足の靴紐が解けているのに気付きました。脳裏には「あの時」の情景が蘇ります。フラグ乱立中!
しかし、サイレンススズカが思い出すのはそこで留まりません。あの日以来リハビリの日々でしたが、ただただ辛いものだったわけではありません。皆と笑い合いました。同室の後輩と約束をしました。それらをここで結実させる時です。
ついにサイレンススズカがターフに帰ってきました。湧き上がる歓声。この日を多くの人が待っていました。
「また走るところを見られるわけですからね」
解説の細江さんのこの一言に込められた重みは計り知れません。本来はもう二度と走るところを見られなかったはずなのですから。
そんなサイレンススズカに喧嘩を売りに来た一人のウマ娘の姿がありました。今日のサイレンススズカの復活レースに立ちはだかる強大な壁・サンバイザーです。
「今日の主役は私がもらうから」
堂々と宣戦布告してみせるサンバイザー。それに対してサイレンススズカは、一言も発しませんでした。ただただ笑みだけを浮かべて。
あの日の沈黙を破り、サイレンススズカが今、ゲートに入ります。そして、レース開始! その時刻に合わせ、休憩中だったスペシャルウィークも走り出します。
なんと、サイレンススズカが出遅れます。大逃げを信条としていたサイレンススズカが、まさかの最後尾スタート。未だ嘗てないレース展開に、スピカのメンバーは険しい表情を浮かべます。
やはり1年ぶりのレースではこれまでのようにはいかないのでしょうか。苦しそうな展開に、観客からも徐々に弱気な声が漏れ出しました。トレーナーもいつになく落ち着きがありません。
コーナーに差し掛かった頃、表情一つ変えずに最後尾で走っていたサイレンススズカが、大きく息を吸いました。深呼吸一つ。そして――――。
スパート!!!
なんとサイレンススズカはこのレースを【追い込み】で挑んだのです。これまで【逃げ】でしか戦ってこなかったサイレンススズカが、正反対とも言える追い込みで勝負を仕掛けました。その戦術はスペシャルウィークが得意としているものです。
あの驚異的な俊足を追い込みで使った時の威力は会場の度肝を抜きました。まさにごぼう抜き。「やっと来やがった」とゴールドシップ。分かっていたという表情のメジロマックイーン。
大喜びで声援を送るトウカイテイオー。我を忘れて応援するグラスワンダー、エルコンドルパサー、タイキシャトル、エアグルーヴ、そして「お前はもっと走れる」と笑顔のハナ。約束通り三人で応援に駆けつけたウイニングチケット、メジロライアン、ナイスネイチャ。解説の細江さんさえも「走って!スズカ!」と声援を送り出します。
最後にサンバイザーをかわし、とうとうサイレンススズカは先頭に立ちました。そうはさせまいとサンバイザーもスパートをかけますが、それでもなお差は広がる一方。
「凄い! あそこから巻き返すなんて!」
「スズカ先輩カッコ良すぎ!」
「いけいけー!!」
「くぅぅっ、やっぱスペにも見せてやりてぇ!」
「また見れますわ! ずっとずっと!!」
「…………」
そしてサイレンススズカは、先頭の景色を誰にも譲らず、ゴールイン。復活を果たしたのです。その歓声をスペシャルウィークは東京レース場の前で聞いていました。
「お帰りなさい、スズカさん。明日は私も――――!!」
実況も顔を両手で覆っていました。細江さんも目に涙を浮かべ、「精神面の強さ」を讃えました。終わってみれば圧倒的な勝利でした。ブロワイエも拍手を送り、「明日はもっと盛り上げてみせるとしよう」と立ち上がりました。
第11R④・潰えたはずの夢の先へ
ターフから戻るサイレンススズカの前にサンバイザーが立ちました。
「おめでとうは言わない。次は私が勝つんだから」
そう言うと踵を返しました。しかし途中で立ち止まると、絞り出すように言います。
「いつかまた走って……ください」
サイレンススズカは笑顔で答えます。「ええ、また走りましょう。」
サイレンススズカが去り行くサンバイザーのさらに先に目をやると、スピカとリギルの面々が勢揃いしていました。
新旧両所属チームの面々からの勝利の祝福がサイレンススズカを包みます。その様子を遠くから見つめるトレーナー二人。
「いったいどんな魔法をかけたの?」
ハナの疑問に、トレーナーは「何も」と答えました。
「あいつはあいつの力で勝ったんだ。俺は何もできなかったよ。」
サイレンススズカはトレーナーと二人になると、改めて「これからもよろしくお願いします」と微笑みました。それを受けてさらに涙ぐむトレーナー。
サイレンススズカは誓います。夢を叶えること、約束を守ること。そのために走り続けること。
その小指に宿った誓いは、スペシャルウィークもまた共有していました。日本一のウマ娘になる、その誓いを現実のものにするために。
ジャパンカップが、今始まる……!! というところで今回はここまで。
第11R・総評
サイレンススズカファンが見たかったものが詰まっていた回ではないでしょうか。そして、ゲームで言うならば、トゥルーエンドを見るためにクリアしなくてはならない1つ目のグッドエンディングを目の当たりにしたのではないでしょうか。
冒頭でも述べましたが、これで大団円に向けての条件の一つ、「サイレンススズカの復活」が達成されました。残る二つを叶えるのはいよいよ次回、スペシャルウィークが出走するジャパンカップということになります。実質的には次回いよいよ、物語の最終回を迎えることになります。そこにあるのはグッドエンディングか、はたまたバッドエンディングか……。物語はまさにクライマックスに向けてフル回転しています。
サイレンススズカの成長①へし折られたフラグ
今回何度か不穏なフラグが立てられており、サイレンススズカが大怪我を負ったあの時を連想させる、あるいは敗北を示唆するようなものばかりでした。
結果的には、それらのフラグは全てへし折られることになります。⑦で熱く(暑苦しく)語った「サイレンススズカの死」からの「復活」ですが、ただ怪我が治りましたやったーでは物語としては不完全です。やったー以上のものがありません。
フラグというのはいわば運命を示唆する記号です。「俺、この戦いが終わったら、彼女と結婚するんだ」が死亡フラグであるように、左足の靴紐が解ける=左足の怪我によって倒れるという運命が⑦で出来上がっていました。この法則性を、あるいは運命を、サイレンススズカ自身が破ってみせる必要がありました。それが実現したことで、サイレンススズカは自身の運命から完全に解き放たれ、本当の意味で復活した、ということになります。もはやサイレンススズカは以前のサイレンススズカではありません。復活を果たしさらに強くなったサイレンススズカなのです。
すでに書いた通り、史実においてサイレンススズカはすでに亡くなっており、このアニメのような情景を見ることはできませんでした。それが例えウマ娘という姿であったとしても、これが見たかったファンは少なくなかったのではないでしょうか。実際私も見たかったですし。解説の細江さんが「走って!スズカ!」と声援を送るシーンがありましたが、細江さんの第①期の全てのセリフの中で最も感情がこもっていたのがこのセリフだったと思うのです。きっと本心からそう思った部分があったのではないでしょうか。
サイレンススズカの成長②追い込み
サイレンススズカはいつもの【逃げ】ではなく【追い込み】を選択しました。逃げと言えばサイレンススズカ、サイレンススズカと言えば逃げというくらいの逃げ馬であり逃げウマ娘だったサイレンススズカが、何故追い込みを選んだのでしょうか。
物語を読み解くことで分かる根拠は少なくとも二つあります。
一つはトレーナーの言葉。「背中を追いかけることを怖がるな!」この言葉で、これまで誰かの背中を追えなかった「弱さ」を払拭することができたのでしょう。実際⑨での展開でも、最後尾から追い込んで先頭に立ったのですから、その時の再現をしたというだけなのかもしれません。
もう一つは、可愛い後輩であり最も信頼を寄せるパートナーでありライバルでもあるスペシャルウィークの得意戦術だということです。スペシャルウィークが得意とする戦術を自分の「モノにした」ということなのでしょう。これもサイレンススズカがさらに強くなったと言えるポイントではないでしょうか。
何故トレーナーは泣いたのか
ここで根本的な話として、トレーナーとは何者なのでしょうか。物語においてどのような役割を持ち、どのような立場でものを見ているのでしょうか。
ゲームにおいてはトレーナーは「オレたち」です。ではアニメでは?
アニメの世界には「オレたち」は介在できません。その性質上、我々は傍観者であり続けなくてはならないのです。それだけに、アニメの世界には時に「我々の代弁者」が必要とされる場面があります。トレーナーの役割の一つにこれが課せられているのだとしたら?
もし「オレたち」が、サイレンススズカの復活を目の当たりにしたら、どういう行動をとるでしょうか? それをアニメの世界でやったのが、トレーナーなのだと思います。もっとも、直接指導者として深く関わりを持っているのですから、現実世界の我々よりももっともっと思い入れが深いでしょうけれども。
さあ今回はここまで! それでは次回お会いしましょう、SHO+XENONでした。
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